創業の地で市民と考える、未来を見据えたまちづくり

  • 写真:齋藤誠一(ポートレート) 文:岩崎香央理

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左:今井浩恵 1974年、北海道旭川市生まれ。95年に株式会社シロの前身、株式会社ローレルに入社し26歳で社長に就任。2009年にオリジナルブランドSHIROを設立、21年に会長に就任。 右:福永敬弘 1973年、広島県生まれ。96年に株式会社リクルートに入社。2014年に株式会社シロに入社し、16年に専務取締役に就任。21年に社長就任し現在に至る。

創業の地・北海道砂川市でまちづくりに取り組むブランド「SHIRO」。そこにかける想いを、今井浩恵会長と福永敬弘社長に訊いた。

――SHIRO(シロ)の新工場と付帯施設を市民とともにつくり、過疎化に直面する砂川市を世界から人が集まる場所にする「みんなのすながわプロジェト」。企業が社会課題の解決に乗り出す事例としても注目される、大きなチャレンジですね。

今井 そうですね。これまで民間企業は民間として社会を豊かにし、行政は行政として社会課題に向き合ってきたと思うんです。でも、行政では届かない部分、民間では届かない部分があって、それがいま、地球温暖化から不登校まで、あらゆる問題を引き起こしています。民間企業でもソーシャルにもっと食い込んで、課題を解決したっていいじゃない?と。

――ここまで率先して行動する企業は少数派ではないでしょうか?

今井 仲間が少ないとは感じています。ただ、SHIROは食用に流通しない高栄養価の副産物や規格外品をいただいて製品を開発し、生産者さんにお金を払うというものづくりをしてきたブランド。そもそもの企業理念である「世の中をしあわせにする」が社会課題と向き合うことも含みます。それをもっと進めようと感じたのは「みんなのすながわプロジェクト」立ち上げのタイミングでした。

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左:「みんなの工場」完成予想図。カフェやショップ、大人や子どもの居場所など、市民など訪れる人みんなが気軽に利用できる複合施設。 右:SHIROのものづくりとコミュニティスペースが一体化した館内。自然光を採り入れ、製造スタッフをはじめ働く人たちが生き生きと輝ける場を目指す。
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建設中の工場。「ここで働くクラフトマンを見て、子どもたちが憧れる場にしたい」と、今井。

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ピンネシリなどの山を背景とする雄大な環境。廃校になった小学校跡地が市民の場へと再生する。

――原動力はなんでしたか?

今井 百年続くブランドでありたいと思った時、いま人口減少が続いている砂川市が百年後もあるとは限らない。砂川が残るために何をすべきかを、ブランドとともに考えなくてはと気づいたんです。

――地域がなくなってしまったら、他の場所に移転することもできると思いますが、その選択はなかったのでしょうか?

今井 それはSHIROが生まれたところだからでしょうね。生まれた土地の水や空気がブランドをつくり、世界に展開できたので。生まれた土地の水や空気がブランドをつくり、世界に展開できたので。

福永 物流や雇用を考えて、砂川の工場を一都三県に移転する案もあったんです。でも、議論し尽くした先になお、理屈抜きに「そこで生まれたから」という事実が残った。今後10年かけて、砂川にリソースを投資していこうと。

――10年とは長いですね。

福永 ソーシャルなまちづくりって、自分たちの思惑だけでは進められない。いろんな人のいろんな想いや考えを吸収するには、顔を突き合わせてとことん時間をかけないとかたちにできないんです。

――それがワークショップなのですね。既に10回以上も行っていますが、印象的だった出来事は?

今井 当初は工場の付帯施設を子どもが集まる場にしようと考えていたのですが、「いや、大人だって居場所がほしいんだよ」という声がありました。砂川で暮らしていると、車の中くらいしか落ち着ける場所がないなんてこともある。それで、大人も子どももみんなに必要な場所にしようと、設計コンセプト自体を変更しました。

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砂川の在来植物を守り育てる「たねワークショップ」。実から種を出し、ポットに植えていく。

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北海道の山から間伐したカラマツを外壁に貼るワークショップ。みんなで施設をつくっていく。

――工場の稼働が23年1月、付帯施設は5月頃の完成予定ですね。

今井 完成というのはないんですよ。オープンしても広場にベンチもモニュメントもなく、ランドスケープは中途半端かもしれない。市民と一緒に種をまいた植栽が、30年、50年かけて景観になっていきます。大事なのは、変容できる施設にすること。完成したら終わりではなく、そこからまたつくっていく自由度をもちたい。

福永 将来的には、世界中からSHIROのファンが訪れて、それを市民が誇りに思うようなまちにしたい。その上で、地域創生のポイントは移住者に選ばれること。起業したい人が砂川に移住してくるようになれば、まち全体の意識が変わる。いま、芽が出てきている地域創生の事例は、どこもそうです。

今井 まちづくりの立ち上げをSHIROがやり、砂川の地に志をもつ若い人たちが集まるのなら、10年後には施設とその運営を含めて受け渡してもいいという想いで始めました。この地域創生が瞬間的に終わってしまわないためにも、将来的に渡せる人を自分たちで育てていくべきなのかもしれない。人も含めてのまちづくりなんだなと、学んでいます。

福永 最初はプロボノやワークショップからの参加だとしても、本気でジョインする人に僕らが想いを手渡して、やがて自走し始めれば、それがいちばんいいかたちかもしれない。

今井 そうですね。若い人がやりたいことをやれる場を提供し続けたい。それがSHIROの、社会との関わり方です。

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1989年 北海道砂川市に株式会社ローレル設立 当初はポプリやジャムなど土産物の製造をメインとしていた。しかし次第に日常で使える入浴剤やハンドクリームなど、香りがよいアイテムのオーダーを受注する化粧品OEMメーカーに変化していった。

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2009年 自社ブランド「LAUREL」立ち上げ 「本当に自分たちが毎日使いたいものを世の中に届ける」ため、化粧品OEMメーカーから自社ブランドビジネスへと軸足を転換。ブランド名は「LAUREL」とした。同年に直営1号店を札幌にオープン。

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2015年 ブランド名を「shiro」に変更

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2016年 ロンドン1号店を出店 多くの世界的ブランドが誕生したロンドンに路面店をオープンさせた。現在は、ロンドンに2店舗を構え、台湾や米国では自社EC、中国では越境ECでの販売を行うグローバルブランドに成長した。

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2019年 リブランディング、社名もシロに変更 こだわりの素材を使用した製品を世界中の人に知ってもらうため、リブランディング。グローバルを見据えてロゴやマーク、パッケージを一新。ブランド名を現在の「SHIRO」に変更し本社を東京に移転。

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2020年「SHIRO SELF(シロ セルフ)」オープン 「人はいないけど、愛がある。」がコンセプトの新感覚デジタルストア。スマートフォンを駆使し、“接客レス” “パッケージレス” “ジェンダー&ランゲージレス”な新業態を新宿のショップに併設した。

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2021年 6月「みんなのすながわプロジェクト」が始動 創業の地である砂川市内に移転・新設する新工場と、ものづくり・観光をテーマとする付帯施設の建設プロジェクトが開始。砂川市民が主役のまちづくりを展開。以降、毎月ワークショップを開催している。

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2021年10月「第1回たねワークショップ」開催 砂川市の在来植物を守り育て、生態系を未来に残していく「在来種プロジェクト」の一環として開催。1200個のポットに種を植えた。数年後には敷地内や市内に植樹し、育った木々で家具をつくる夢も。

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2022年2月 施設の名称を「みんなの工場」に決定 みんなで考え議論することを経て生まれる施設であるという背景や、砂川市の大人も子どもも、世界中から訪れるすべての人が集える場所にしたいという想いを込めた名称に決定。5月には起工式を実施した。

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2022年4月 全製品をパッケージレス化 紙箱入り製品の新たな製造を終了し、全国の直営店舗でパッケージレス製品の販売を開始。また、持ち帰り用の手さげ袋を有料にし、必要な人のみに提供することで資源を守る取り組みを実施。

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2023年1月「みんなの工場」工場稼働予定 ものづくりの現場を日常に見学できる「開かれた工場」になる予定。また、来場者だけでなくスタッフが気持ちよく働ける空間にするため、時間や季節によって光の入り方が変わるガラス張りの空間になる。

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2023年5月頃「みんなの工場」付帯施設オープン予定 ブランド初のカスタムフレグランスを体験できるショップ、ひとりでも過ごせるカフェスペース、子どもが自由に動き遊べるキッズスペースなど、大人から子どもまで楽しめるさまざまな場所がつくられる。

みんなのすながわプロジェクト bySHIRO   https://shiro-sunagawa.jp