「真髄は、デザインと職人技の出合い」。世界的クリスタルメゾン、サンルイCEOに新コレクションの魅力を聞く

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:小暮昌弘
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ジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール●1963年生まれ。84年グルノーブル政治学院を卒業し、94年にエルメス・グループ入社。エルメスインターナショナルの副CFO、エルメス・セリエ社のジェネラル・マネージャーなどを歴任し、2010年より、サンルイのCEO。

クリスタルで世界的に知られるサンルイは、フランスが誇るメゾンの1つだ。その歴史は古く、1767年にルイ15世が、16世紀からガラス工房が存在するミュンツタールに新しい工房をつくることを許可したことに始まる。工房は、聖王ルイ9世に因んだ「サンルイ王立ガラス工房」として始動、15年後にはガラスよりも透明度の高いクリスタル製造の開発に成功する。その功績が認められ、「サンルイ王立クリスタル工房」という称号を受けたという輝かしい歴史をもつ。

そんな伝統をもつサンルイが今年、フランスの著名なデザイナーであるピエール・シャルパンを起用した<カドンス>コレクションを発表。そのお披露目を兼ねて同社CEOのジェローム・ドゥ・ラヴェルニョールが来日を果たした。新コレクションとメゾンの現在地、そして未来について話を聞いた。

29種のオブジェが揃う、新コレクション<カドンス>

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フラワーベースやタンブラーなどのテーブルウェアから照明まで、29種の豊富なバリエーションをもつ<カドンス>コレクション。

長い伝統の中で受け継がれてきた職人技と、現代的なデザインが融合して誕生した<カドンス>コレクション。テーブルウェアだけでなく、照明、バーウェア、デコレーションなど、現代のライフスタイルにマッチした、日々の暮らしを豊かにしてくれるオブジェが揃っている。デザインを担当したピエール・シャルパンは、ドローイングから生まれた水平方向と垂直方向の線(ライン)から、今回の<カドンス>コレクションを生み出した。互いが呼応するかのようなラインはクリスタルの輝きや透明感を一層際立たせている。

「ご存知の通り、ピエール・シャルパンと仕事をするのは今回が初めてではありません。我々が最初に仕事をしたのは2010年ごろ。<ヴェユール・ドゥ・ニュイ>と呼ばれるサンルイを象徴するデキャンタをデザインしたのが彼です。ピエールのデザインの特徴は色を非常にうまく使うことだとずっと思っていました。何ヶ月か前に、マルセイユでCIRVA(フランス国際ガラス視覚芸術センター)が開いたコンテンポラリーアートの催しを観に行ったのですが、そこでピエールはガラスを使った作品を発表していました。また以前、同じCIVRAで彼が最初に発表した作品では垂直、あるいは水平なラインが効果的に使われていました。その時の水平線と垂直線の出合いというものが、今回の<カドンス>コレクションにも生かされていると思います」

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素材とサンルイの技術を熟知しているがゆえに実現したデザイン

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「『水平のラインと垂直のラインの出合い』というシンプルなコンセプトが、クリスタルの美しさを際立たせています」と説明するジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール。

ピエール・シャルパンはフランスを代表するデザイナーのひとりだ。アーティストとしての経験を経て、1990年代始めからデザイン活動をスタートし、家具やオブジェなどの作品を生み出してきた。エルメスのホームコレクションやスカーフのデザインも手がけるほか、2017年には世界最高峰のライフスタイル見本市「メゾン・エ・オブジェ」で、デザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。今回ピエール・シャルパンを起用した理由について、次のように語った。

「私たちがデザイナーを選ぶ時に大事にしていることは、まず素材を知っているかどうかという点です。ピエールはクリスタルを熟知しています。そして更に、サンルイの職人技をも熟知しています。その点で、サンルイの伝統的なクリスタルを再解釈し、現代と調和したモダンでシンプルな存在に昇華させたオブジェを生み出すのに最適な人物だったのです」

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水平方向と垂直方向に刻まれるカッティングが、透明なクリスタルのオブジェに独特のリズムをもたらす。正確さと素早さが求められる、サンルイの職人による手しごとによって生み出されたものだ。

「考えてみると、サンルイのオブジェの真髄は、デザインと職人技の出合いにあります。継承され、磨き上げられてきた技法は、職人一人ひとりの手に宿り、息を吹き込まれたクリスタルに施すカッティングや装飾まで、いくつもの工程がその手によって行われています。もしデザイナーがこうした職人の仕事を理解できなければ、2つの世界が出合い、対話し、ともに作品をつくり上げることはできないでしょう。ピエールの場合は、彼が垂直のラインと水平なラインでデザインしようと思った時に、サンルイの技術がそれを実現できることを知っていた。このデザインのカッティングには職人の緻密で完璧な技術を必要とします。少しのズレで、垂直のラインと水平なラインの出合いは消滅し、オブジェは生まれません。ピエールがこれをデザインし得たのは、サンルイの職人たちの精緻な技術を熟知していたからなのです」

ピエールは<カドンス>コレクションをデザインする時に、日常的に使えるアイテムをつくりたいと考えたという。戸棚にしまいっぱなし、飾りっぱなしのものではなく、年間を通して日々使えるアイテムをつくりたいとピエールは願った。そのため今回の<カドンス>コレクションでは、テーブルウェアから照明器具まで29種に及ぶ幅広いコレクションを展開、サンルイのクリスタルに新しい価値を与えている。

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エルメスとも通ずる、サンルイのものづくり

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スーツからネクタイまでブルーでまとめたシックなジェントルマンスタイル。今年は早くも2度目の来日を果たし、新作と日本市場への展望を話す。

約10年に渡りサンルイのCEOを務めるジェロームは、ブランドの魅力や強みをどう捉えているのか。

「まず、非常に高いクオリティです。一つひとつのオブジェは、職人の繊細で緻密な技法によってつくられ、どんなに小さな気泡でも入り込むことを許しません。次が伝統と革新の融合です。サンルイはデザイナーを起用する際、ドローイングの前にまずミュージアムを見てくださいとお話をします。そこでは、18世紀からの歴史的にも貴重なアーカイブの数々が展示されています。そこにあるものを再現してほしいということではなく、サンルイの根幹を理解していただいた上で、未来を想像し、新たなオブジェが生み出されることを私たちは願っているのです」

サンルイは1995年にフランスを代表するメゾンであるエルメスの傘下になっているが、サンルイの魅力である「高い品質」と「伝統と革新」は、エルメスのものづくりと通じるものがある。ジェロームは「エルメスでは皮革の職人を育成するのに10年という年月をかける。サンルイでも吹き職人やカッティング職人を育成するのに約10年かかります」と話す。

「サンルイはエルメスと同じグループに属しながらも、独立した会社です。もちろん高い品質や伝統と革新といった価値観を共有していますが、それぞれの商品開発のプロセスをもっており、新しいコレクションをつくることに対してもまったく自由な立場にあります。今回の新作ももちろんそうです。サンルイのオブジェのいくつかはエルメスのブティックでもお求めいただけますが、世界には、サンルイの商品のみを展開する独自のブティックも存在します。サンルイの世界観をご体感いただける場をさらに増やすとともに、サンルイが手がける美しいライティングコレクションも強化していきたいと考えています」

世界的なコロナ禍で3年間は来日が叶わなかったジェロームだが、今年は4月に続いて2度目の来日。現代的なライフスタイルにマッチし、サンルイの新たなる革新を表現した<カドンス>コレクション。日本でも大きな話題を集めることは確実だろう。

問い合わせ先/エルメス ジャポン

https://www.saint-louis.jp/