ファッションの未来はどこに向かうのか? 新生ゼニアを率いる重要人物、アレッサンドロ・サルトリはこう考える。

  • 文:高橋一史

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名称を「ゼニア」へと変更し、ブランドをひとつに統合した旧エルメネジルド ゼニア。来日した新生ゼニアを率いるアーティスティック ディレクターのアレッサンドロ・サルトリに話を聞いた。

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ブランド統合された新生ゼニアは、キャンペーンビジュアルも同一のイメージを打ち出す。

世界のラグジュアリー&モードブランドには近年、共通する大きな変化がある。それは派生ブランドで幅広いターゲット層を狙うビジネスモデルを見直し、ブランド数を減らす方向へのシフトだ。スマホ情報が鍵を握るSNS時代には、瞬時に伝わるブランドイメージが欠かせない。ジョルジオ アルマーニが2018年春夏シーズンに、7ブランドを一気に3ブランドまで絞り込んだことがその代表的なケース。バーバリーは16年より、3つのブランドを統合して「バーバリー」のみの名称にした。このようにブランド名を短く印象的にする動きも加速中だ。イブ サンローラン→サンローラン、ジャン パトゥ→パトゥ、ディオール オム→ディオール(男女統合)といった具合に。

最高級スーツ生地で名高いイタリアのゼニア(旧エルメネジルド ゼニア)も21年にリブランディングを行い、3つのラインをひとつに総合した。ブランド名もシンプルな「ゼニア」に改名。未来へ進む新しい道を切り開いたのがアーティスティック ディレクターのアレッサンドロ・サルトリである。新製品のお披露目のため来日した彼に、ブランディングや打ち出しアイテムについて話を聞いた。

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1966年イタリア生まれ。現ゼニア グループ統括アーティスティック ディレクターのアレッサンドロ・サルトリ。ベルルッティで腕を奮ったキャリアをもつ。

ゼニアがラインを統合した狙いについて、サルトリが明瞭な口調で以下のように語った。

「異なる客層に異なるメッセージを送ることをやめるためです。目指しているのは、ワン・ブランド、ワン・コレクション、ワン・スタイル、ワン・アイデンティティ、ワン・コミュニティ。ひとつに絞って強化することで、ブランド力が上がると考えています。従来のゼニアのクオリティとクラフトが好きで、かつ新しい方向性も好んでいただける顧客に向けた変化といえるでしょう」

サルトリが言うようにゼニアは統合により、社として取り組む活動をより強く打ち出すようになった。そのシンボルとなる製品が、「オアジカシミヤ」の服である。「オアジ」とはニューヨークのセントラルパークの30倍の面積を持つ、北イタリアの自然保護区「オアジ・ゼニア」から取った名称。同自然保護区はゼニアの創業者がウール工場周囲の土地に植林したことをルーツに持つ、現在まで続く森林再生プロジェクトである。社会的意義のある再生プロジェクトと、ファッション界最大の課題とされるサステイナビリティの実現とを結びつけた素材がオアジカシミヤだ。

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2022年3月に東京・銀座にオープンした「ゼニア銀座店」。ブランド名変更に伴いロゴデザインも新しくなった。
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ゼニア銀座店のオアジカシミヤを揃えたコーナー。

「生産者まで辿れるトレーサビリティを実現させたカシミヤを、我々はオアジカシミヤと呼んでいます。カシミヤ生産地である内モンゴルの農家と契約し買い付けた原毛を、ゼニアが出資したイタリアのフィラティ・ビアジョーリ・モデスト社で紡績して糸にします。ゼニアがモノづくりのすべてをコントロールできる生産体制です」

新生ゼニアはなぜ生産者側の問題とも思えるオアジカシミヤを、一般消費者にアピールしているのだろうか。サルトリがその疑問に答えた。

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オアジカシミヤコレクションのイメージビジュアル。これまでエルメネジルド ゼニアの名称でミラノのランウエイショーで発表してきたモードなアイテムは健在。


「どのような土地でつくられたのか、誰が生産したのか、どんな特性なのかを顧客に説明できる本当に優れた商品だからです。サステイナブルの実現には水資源や二酸化炭素を減らしたり、廃棄物を再利用するといったさまざまなやり方があります。そのうちまずゼニアが着手した持続可能な生産体制がトレーサビリティ。今後は捨てられるファブリックで新しいファブリックをつくることもやっていくでしょう。さらに、長く着られる服をつくることもサステイナブルです。そのために縫製ステッチをワークウエアのごとく頑丈なダブルステッチやトリプルステッチに変更することも考えられます。サステイナビリティは常に前進すべきもの。改善点を常に探り続けることが重要だと思っています」

トレーサビリティはサステイナブルを打ち出す企業アイデンティティの第一歩なのだ。オアジ カシミヤの服のなかで、とくにゼニアが注力しているのがシャツジャケット。スーツ職人の仕立てのごとく端正な服で、彼らは「ラグジュアリーレジャーウエア」と呼ぶ。

「スポーツウエアであっても、テーラーメイドのクオリティです。ルーズに見えず、フィット感もテーラリング感覚。それがラグジュアリーレジャーウエアの本質です。新しいコード、新しいDNA、新しいメンズラグジュアリー。コロナ禍以降に顕著になった快適さを求める傾向に即したアイテムです」

ラグジュアリーレジャーウエアはどんなシチュエーションで着る服なのだろうか。

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オアジカシミヤのアイコニックなシャツジャケットを着たルック。上下のセットアップで着れば新時代のスーツになる発想によるデザイン。

「スポーツシャツなら昼はTシャツのうえに羽織って過ごし、夜はタイトパンツに穿き替えてエレガントなローファーを合わせればOK。こうした『マルチファンクションガーメント』にゼニアは力を入れています。2本のパンツを買い、それがタイトとルーズであっても同じトップスに合わせられるようなスタイル。新しい上下の組み合わせが次世代のスーツになるでしょう。スポーツパンツにクラシックなシャツを組ませてもいいんです。男性はより自由に、自分らしい着方を愉しんでいただきたいと考えています」

ゼニアといえば正統派のスーツ、そんなイメージを過去に追いやり新しい男性の装いを探るゼニア。ドレスとカジュアルの境界線をなくし、持続可能な社会と結びつく服がワードローブの基軸になる。サルトリのリーダーシップの元でゼニアが歩みを進める道は、メンズウエアの未来を占う試金石となるに違いない。

ゼニア銀座店

東京都中央区銀座6-6-7
TEL 03-3569-0126
営業時間 11時〜20時(日、祝は19時まで)
無休
https://www.zegna.com/