ドイツ流のものづくりが光る。リモワのスーツケースが美しく機能的な理由

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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スクエアなフォルムが特長の「CLASSIC 」コレクションの「Cabin」というモデル。トランク上部にはブランドロゴが入っているが、これは2018年から採用されている新しいロゴだ。

「大人の名品図鑑」番外編

リモワのスーツケースは、旅好きの人々を魅了し、時代を超えて愛されてきた。精悍なルックスの内側に備わっているのは圧倒的な実用性。堅牢で軽量、さらにさまざまな先進的アイデアでスーツケースの世界をリードするリモワの名品を語り尽くす。

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人が旅するのは、目的地に到着するためでなく、旅するためである———ドイツの文豪ゲーテはこんな言葉を残している。インターネットの発達で地球が小さくなったとよく言われる。どんな場所でも画面を通して観ることができるからだ。しかし実際に旅して得られる“経験”は大きい。違う文化や価値観をもつ人に出会ったり、人生を大きく左右する出来事に出逢うことさえある。そんな旅に欠かせないのが、快適な旅を約束してくれる確かな旅行鞄=スーツケースではないだろうか。

プレミアラゲージブランドとして知られるリモワは、1898年にドイツ・ケルンで生まれた。創業したのはポール・モシェックという人物。開業したころは家族経営の小さな工場で、当初は軽さと頑丈さを特長とする木製のスーツケースなどを製作し、その後も主に欧州の上流階級の旅行者向けの製品を中心に家業を営んでいたと聞く。

ポールの息子のリヒャルトに会社が引き継がれたのが1930年代。ブランド名もリヒャルトの名前とドイツ語のWarenzeichen(商標)の頭文字から「リモワ(RIMOWA)」と改められると、会社に大きな転機が訪れる。第一次世界大戦後の鞄用の資材不足に悩んでいたリヒャルトは当時、ドイツの最新鋭航空機に使われ始めたアルミニウムという素材に着目。初めてのアルミニウム製スーツケースを開発することに成功し、1937年に一般向けに発売し、世界的な評価を受ける。

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リモワを象徴する「グルーヴデザイン」とは

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グルーヴデザインの元となったドイツ製の航空機「ユンカース F13」

さらに1950年には航空機「ユンカース F13」の外板の設計技術からインスピレーションを受けて、アルミニウム製スーツケースに「グルーヴデザイン」を加えることを思いつく。これは、軽くて頑丈な航空機のデザインをヒントに、アルミニウムシェルの表面にリブ(凹凸)加工を施したもの。ある意味、堅実さと機能や技術を追求するドイツ流のものづくりの表れとも言えるが、その独創的なデザインがリモワのスーツケースにスタイリッシュで洗練された印象を醸し出すことにも成功し、ファッション的にも高い注目度を集めることにも繋がった。その後「グルーヴデザイン」はリモワを象徴するデザインとなり、多くの旅行者がこのリブ加工を見ただけでリモワのスーツケースを連想するまでに広く認知されるようになった。

同社のHPを見ると、「アルミニウムには個性がある」と書かれている。アルミニウムは頑丈な素材だが、旅を重ねるごとにアルミニウムにへこみやキズが入ることは避けられない。しかし逆にそれが“味”に見えるのもアルミニウム、あるいはリモワのスーツケースの大きな特長だ。ジーンズのデニム生地のエイジングと同じように、スーツケースに付いた擦れた跡やキズ、あるいはケースに付けられたテープやステッカーさえ、スーツケースと一体化してしまう。ケルンの工場から出荷された時にはまっさらだったスーツケースが、使い手によって“個性”が加えられ、ほかに2つとないスーツケースへと成長していく。これもリモワが長く愛される理由に違いない。

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機能面でも進化を続けるリモワ

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「CLASSIC」コレクションに相応しく、アタッシェケースのようなクラシックなデザインのキーが装備されている。キーの左側に付いているのが、アメリカなどに旅行するのには必須の「TSA承認ロック」。

品質を守りつつ、進化を求めるリモワの姿勢は、素材開発だけに留まらない。機能面でも年を追うごとに進化を続けてきた。2001年にリモワが完成させたのが「マルチホイールシステム」。スーツケースの四隅に付いた8個のホイール(車輪)により、360度、どの方向にもスムーズに方向転換ができる。ホイールにはボールベアリングが内蔵され軽快に回ってくれるので、操作性も抜群だ。またスーツケース上部の「テレスコープハンドル」と名付けられたハンドルは、高さが無段階で調整が可能。ハンドルの裏側にレザーがあしらわれ、快適なひき心地を味わえる。

安心安全な旅に欠かせないスーツケースのキーに採用されているのが、「TSA承認ロック」。アメリカでは9.11同時多発テロ以降、運輸保安局(略称TSA)の係官がチェックインした荷物の中身を抜き打ちで検査するために、スーツケースを開けることがある。このキーが付いていれば、施錠されているケースでも、係官が専用のツールを使って開けて点検ができる。逆に「TSA承認ロック」が装備されていない場合、係官は、キーを壊してでも中身を調べることもある。アメリカやグアム、サイパンを安心して旅するためには「TSA承認ロック」は必須の装備と言えるが、これもリモワは早くも2006年から導入している。

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リモワの伝統を感じさせる「CLASSIC」コレクション

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「CLASSIC 」コレクションの「Cabin」というモデルで、高品質の陽極酸化アルミニウムボディに、光沢あるアルミコーナーをリベットで留めている。ハンドルはハンドメイド製。多くの航空会社の機内持ち込み可能な小型軽量のモデルで、週末の旅行や出張に最適。レザー製のラゲージタグとステッカーセットが付属。ドイツ製。H55×W40×D23cm。36L。4.3kg。¥183,700/リモワ

数あるリモワのスーツケースコレクションの中でも、今回紹介するのはリモワの伝統とルーツを感じさせ、航空機の黄金時代にインスピレーションを得た「CLASSIC」というコレクションだ。素材に採用されているのは、リモワ伝統のアルミニウムだが、陽極酸化処理を施した素材が使われている。やや四角ばったシルエットのボディが大きな特長で、骨太な印象を醸し出す。光沢あるアルミコーナーはリベットで留められ、2箇所に付けられた革ハンドルはハンドメイドでつくられている。名前の通りクラシックな印象を併せ持っているのも「CLASSIC」コレクションの特長だろう。

まさにリモワの伝統を物語る名品と呼ぶに相応しいコレクションだが、前述のように、ホイールやハンドル、キーなどは最新の装備を搭載しているので、ほかのリモワのスーツケース同様、快適に旅を過ごせることが約束されている。さらにこのコレクションの多くのモデルは、ハンドルやホイール、ラゲージタグなどの色を自在にカスタマイズできる。自分好みに仕上げることができれば、スーツケースに対する“思い入れ”がさらに増すに違いない。

さらにリモワの新しい試みとして「インジニアスクンスト(Ingenieurskunst)」と名付けられた新しいキャンペーンが始まっている。インジニアスクンストとはドイツ語にしかない表現で、「エンジニアリングと言う芸術」の意味だ。リモワのシグニチャー素材であるアルミニウムに焦点を当て、世界でこれまで誰も目にしたことがないドイツ流のエンジニアリングを「芸術」として紹介して行こうという試み。数々のスーツケースの名品を持つ旅の老舗らしい興味深い取り組みではないだろうか。

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ボディの四隅のアルミコーナーやケースのジョイント部分に留められたリベットをよく見ると、飛行機のマークが入っている。リベット一本にも旅に対する思い入れが感じられる。

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リモワの鞄つくりの伝統とクラフツマンシップを感じる革製のハンドル。上質で分厚い革を使い、ハンドメイドでつくられている。

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高さ調節が可能な中仕切りの「フレックス ディバイダー」。荷物の量に応じて変えられるので、荷崩れ防止にもなる。ジップ開閉式のネットポケットは細かいものを収納できて、とても便利。

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これは1950年に発表され、ロングセラーを続ける「ORIGINAL」コレクションの「Cabin S」。シルバーのアルミニウムは高品質な陽極酸化加工を施し耐久性が向上している。多くの航空会社に対応した機内持ち込みサイズの設計。レザー製のラゲージタグとステッカーセットが付属する。ドイツ製。H55×W40×D20cm。31L。4.2kg。¥166,100/リモワ

問い合わせ先/リモワ クライアントサービス TEL:072-994-5522

www.rimowa.com

INGENIEURSKUNST

www.rimowa.com/jp/ja/ingenieurskunst

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