素朴な中国玩具の裏側に広がる、民衆が築いた豊穣な精神世界

  • 文:高口康太(ジャーナリスト/千葉大学客員准教授)
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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『中国民衆玩具 日本玩具博物館コレクション』

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尾崎織女 著 高見知香 写真 大福書林 ¥3,850
尾崎織女●1962年生まれ、兵庫県姫路市にある日本玩具博物館の学芸員として世界各地の人形玩具の調査・収集を担当する。他の著書に『世界の民芸玩具: 日本玩具博物館コレクション』(大福書林)など。

中国には「廟会(びょうかい)」と呼ばれるお祭りがある。現在は旧正月に公園で開催されることが多いが、もともとは仏教や道教の寺院の境内で祭日のたびに開かれていた。芝居小屋や露店が立ち並ぶ市、その賑わいはかつて最大の娯楽であった。いまも伝統を懐かしむ人々に親しまれている。

廟会に不可欠なのが、伝統的なおもちゃだ。泥娃娃(二ーワーワー)(泥人形)、布老虎(ブーラオフー)(トラのぬいぐるみ)、風箏(フォンジェン)(凧)など種類は豊富で、色とりどりのおもちゃを眺めているだけでも楽しくなる。素朴な味わいがあるだけではない。泥娃娃には子授け祈願の意味があり、布老虎には子どもが病気など災難に遭わないように願う魔除けの役割がある。廟会やおもちゃの裏側には、中国の民衆が築いてきた豊かな精神世界が広がっているわけだ。

本書は、そんな中国玩具全83種を紹介する図鑑的な一冊。「長い歳月、民衆が愛しみ、伝承されるなかで、人々の暮らしの一部ともなった人形や玩具たち」を「民衆玩具」と名付け、兵庫県姫路市にある日本玩具博物館の収蔵品から選ばれた玩具が掲載されている。コレクションは地域ごとに分類され、詳細な作品解説が添えられている。中国の伝統文化や、日本の郷土芸術保存の動きと収集家への影響を紹介するコラムも興味深い。

また、こうした漢民族の文化とは大きく異なる少数民族の世界についても、トンパ族の人形やウイグル族のコマなどが取りあげられ、中国の多様性が示されている。

地域や民族に加え、本書の歴史的な射程にも言及すべきだろう。掲載されている玩具の一部は、戦前に中国に在住していた収集家からの寄贈品だ。かの文化大革命に
よって、伝統文化は徹底的に破壊された。玩具も例外ではない。中国でもなかなか目にすることができない文革前の民衆玩具には、失われた古き中国が刻印されているかのようだ。

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※この記事はPen 2022年10月号より再編集した記事です。