【Penが選んだ、今月の音楽】
『ノット・タイト』
ジャズが広く愛される日本にいては理解しづらいだろうが、本場アメリカでは近年、ジャズは高級芸術と化し、進化と革新を続けてきたジャズ本来の自由な発想で音楽を追い求めるアーティストたちは、凝り固まったイメージとの格闘を強いられている。演奏する場は限られ、ときには活動に困難をきたすことさえあるという。
そんな硬直化したジャズ・シーンを嘲笑うかのように登場したのが、弱冠22歳と18歳のZ世代デュオ、ドミ& JD・ベックだ。フランス国立高等音楽院やバークリー音楽大学で学んだ鍵盤の秀才、ドミ。小学生の頃から地元テキサス州ダラスでギグを重ねてきた早熟のドラマー、JD・ベック。そんなふたりがJDの実家で行ったセッションをSNSで配信したところ、YouTube再生回数1000万回超えのバズり状態に。そのカワイイ外見からは想像もできない超絶プレイが、シルク・ソニックで一世風靡したアンダーソン・パークの目にとまり、誕生したのが『ノット・タイト』だ。
それにしても痛快な作品である。その最たる要因が、JDのドラムテクニックだろう。サウンドの主役といっても過言ではない存在感で、ドラムンベース並みの高速連打やJ・ディラを彷彿させるビートをなんなくこなし、変拍子も自由自在。右手でメロウな調べを奏で、左手でサンダーキャットばりの超絶シンセベースを放つ、ドミの名脇役ぶりも手伝って、プレイのすべてがこれ見よがしではなく、音楽の一環として披露されるから、彼のセンスにただただ脱帽である。
そのサンダーキャットの歌とベースを収めた美メロ曲「ボウリング」、スヌープ・ドッグとバスタ・ライムスとアンダーソン・パーク客演の「パイロット」などのポップな曲から、ハービー・ハンコックがピアノとボコーダーで熱演した「ムーン」他、ジャズ好き感涙曲まで。高度でキャッチーなZ世代ジャズの奥深さに、驚愕は必至だ。
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※この記事はPen 2022年10月号より再編集した記事です。