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時間もコストも惜しまない、最高峰のものづくり
今回の鼎談にそなえて、あらかじめ「マスターズドリーム〈無濾過〉」を味わいながら、この連載に目を通してきたという細尾は、「ジャンルはまったく違いますが、丸橋さんのものづくりには共感できる部分が多くて、お話しできることを楽しみにしていました」と語る。「マスターズドリーム自体も、味わいや香りのレイヤーが複雑に重なっているように感じて、まるで西陣織の構造みたいだなって思いました(笑)」。1200年の歴史のなかで、究極の美を追求してきた西陣織は、多種多様な素材や繊維を一枚の布の上で調和させた、複雑な構造美が特徴。約20に分かれた工程も、それぞれの分野に精通した職人が分業で担当しており、最高峰の技術やノウハウを集結させることで、西陣織はつくられていく。「西陣織には将軍家や皇族といったパトロンがいたからこそ、生産性や効率を度外視して、究極の美を追求することができました。その点も、時間とお金を惜しまず、ただひたすらに美味しさを追求したマスターズドリームと似ていますよね」と、細尾は付け加える。
宮沢は「西陣織のつくりかたは昔から変わらないんですか?」と、伝統的な製法について質問する。「もともとはすべて人力で織っていたそうですが、いまはいくつかの工程で機械を導入しています。明治時代になって将軍家というパトロンがいなくなると、西陣織は新たな活路を見出すために、当時最先端のテクノロジーが発達していたフランスのリヨンへと3人の若者を派遣しました。彼らが持ち帰ったジャカード織機と西陣伝統の技術を組み合わせたことで、それまでは限られた人しか身につけることのできなかった西陣織を、一般の方々へも広めることに成功したという歴史があります」
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道を切り拓くための、技術革新
「はたから見ると、伝統といえば昔から変わらないものという印象を持ってしまいがちですが、そういう技術的な革新があるからこそ、長く続いていくものなんですね」と、宮沢は感心する。続けて、「細尾さんは海外への発信にも積極的ですが、どういった経緯で始められましたか?」と質問する。細尾は、「ここ30年で着物のマーケットが十分の一程度にまで縮小している状況のなかで、僕らも新しい活路を切り拓く必要に迫られて、2006年に海外の展示会に出展してみることにしました」と答える。「とにかく前例のない挑戦だったので、なにをどうすればいいのかわからないまま、とりあえず最初は和柄を取り入れたソファやクッションをつくって紹介していたのですが、まったくうまくいきませんでした」。西陣織には32cmという規定の生地幅があり、大きいものをつくるとどうしてもつなぎ目が出てしまう。「デザインを広げていく上では、そこも大きなハードルでした」と細尾は言う。「そこで、われわれは従来の幅を大きく上回る、150cm幅まで織れる新しい機械を、約1年かけて自社で開発しました」。
丸橋は細尾の話を聞いて、「ないものはつくればいいっていう発想もまったく同じですね。われわれもマスターズドリームの素材であるダイヤモンド麦芽の持ち味を引き出すためには、現在主流となっているステンレスのケトルではなく、伝統的な銅製のケトルを用いることが効果的であることに気付きました。しかし、ただ伝統的な製法を用いるだけではなく、銅製のケトルで炊くことが効果的であるのであれば、それを最大限発揮するような革新的な銅炊き設備がつくれないか。そうなると、いちから開発するしか選択肢はありませんでした」と語る。宮沢も二人の話に同調して、「効率や生産性も度外視して、理想のために手間も時間もコストも惜しみなくかけることができているお二人のものづくりが、本当にうらやましいです。いまは人員も時間もできるだけ削減していくことが正義みたいな世のなかになっていますが、最高峰のものを生み出すためには、簡略化したり省略できないことばかりですよね」と語る。
宮沢はさらに、「現在では海外の現代アーティストや名だたるブランドの数々とも協業していますが、世界に認められはじめたのはいつごろのことですか?」と、細尾にブレイクスルーのきっかけを質問する。「ニューヨークを拠点に活動するピーター・マリノという建築家との出会いがあって、彼は当時ディオールの新しい旗艦店をデザインするプロジェクトを手がけていたのですが、西陣織で新しいテキスタイルを開発したいという話を持ち込んでくれたんです。そのイメージを見たら、全然和柄ではなくて、鉄が溶けたような模様だったんです。それまで僕たちは、和柄じゃないと海外で差別化できないから、ジャポニズムを全面に押し出すことが、自分たちの勝負するポイントだとばかり思っていました。でもそういう要素を取り払った時に、西陣織が持っている本来の価値が浮き彫りとなり、複雑な構造やテクスチャーが生きてくるということに気づかされたんです」と細尾は語る。「前例がないことをやるのって、とても大きな挑戦だと思いますが、伝統って、そういう新しいアイデアや技術革新の積み重ねでできているということが、新しい発見でした」と宮沢。細尾は大きく頷きながら、「伝統っていうものには、壊そうと思っても壊れない強さがあるんです」と語る。
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かつての活気を取り戻していく、西陣の町
丸橋も二人に同調し、「人間が時間をかけて磨き上げてきたものは、ちょっとしたアイデアやアレンジでは揺るがないですよね。ビールでいうと、どれだけ新しい素材や製法が出てきても、結局美味しさを追求すると、伝統的な方法に立ち返っていくことが多いです。今回銅製のケトルで炊くという選択をした際にも、いろんな素材で試行錯誤を繰り返した結果、やはり伝統的な製法には意味があるという結論に至ったからです」と語る。西陣を訪れた経験を持つ宮沢は、「案内してくださった方から、『戦後は機織の音が充満している地域だったけど、そんな工房もほとんどなくなってしまった』と聞いていたので、今また別の表情を持った西陣が、こんなにパワフルに生きているということは、新しい発見でした」と、自分が見た光景と細尾の話とのギャップに驚きを隠さない。
細尾は宮沢の話を受けて、自身の幼少期の思い出を語る。「中学生ごろまでは、友達の家に遊びにいくと、僕たちがファミコンで遊んでいる横で、お母さんが機を織っているという環境が普通でした。でも近年は、どんどんそういう光景が見られなくなって、町の風情も、他の町と特に変わらない凡庸な雰囲気になっていきました。だからこそ、僕たちは時代に逆らって、西陣の町に機織の音と職人の姿をどんどん増やしていこうとしているんです。以前までは、西陣織も他の伝統工芸同様に高齢化が進んでいた業界でしたが、今弊社の場合は、1枠の人材募集に対して、10倍から20倍の応募が来るようになりました。しかもその大半が20代から30代の若者で、いろんなバックグラウンドを持っている人材が、西陣織をクリエイティブな産業と見て参入してきてくれています。大量生産、大量消費がマジョリティになった今の時代、反対に一つひとつ丁寧につくっていく伝統が、とても希少で価値の高いものになっていると思います」。宮沢は職人が増えていくことを喜びながらも、「新しいことをやろうとすると、熟練の職人さんたちがついていけなくなるような心配はありませんか?」と、率直な質問を投げかける。細尾の回答は、「うちの場合、一番の高齢者は70代なんですが、彼が一番ぶっ飛んでいるかもしれません(笑)。伝統工芸の場合、若い人の方が逆にコンサバだったりしますよ」と、意外なものだった。
「織物は9000年前からあると言われていています」と細尾。演劇も古代ギリシャ、ビールも古代エジプトの時代からあると言われ、それぞれ今も人々の生活に欠かせないものとして、愛され続けている。「だから今後どれだけデジタル化が進んでも、織物も演劇もビールも、間違いなく残っていくものなんだろうなって思っています」と、細尾は希望あふれる未来を思い描いた。
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