いちじくというのは、どうもアガらない果物だと思っていました。
スーパーで見つけると、風情に誘われ手を伸ばし、たしか身体にいいんだっけと思いながら食べる。種をぷちぷち噛むのは楽しく、ただゆるいサトイモみたいな食感と捉えどころのない曖昧な甘さに「ああ、いちじくってこうだよな」と静かな気持ちになる。
これがわたしの、かつてのいちじく観でした。
南房総「よぜむファーム」のいちじくに出会ったのは数年前です。
最初に食べたのは、農園主・山木こずえさんがつくったいちじくのコンポートでした。なんだこれ美味しい!と手が止まらなくなり、丹精したであろうひと瓶をわずかな時間でぺろっと食べてしまいました。
その美味しさは彼女の「加工の」腕前の賜物だと思っていました。さすが生産者は味を引き出すのうまいなと。
ナマのいちじく自体への期待が薄いったらありませんね。
その後、秋に届いた箱を開けて驚きました。
これ全部いちじく?

当然、食べ比べてみたくなる。
利き酒ならぬ『効き無花果』です。
五感をフルに使ってその違いを味わいます。

写真上段左1つと中段右がネグロラルゴ、その右横がネグローネ、上段右がロングドゥート、中段中がホワイトアドリアチック、下段左からビオレソリエス、カドタ。
「甘酸っぱくて美味しい!」と感動したのは小粒のネグローネです。ただ甘いだけでなく、絶妙な酸味が加味されています。ねっとり濃厚で、露地のワイルドさと大事に育てられた品の良さを併せ持つ味です。皮まで甘く、ぱくっとひとくちで頬張ります。
ホワイトアドリアチックは薄く白い皮と濃い赤の中身の対比が美しい、風味の濃い、大人好みのタイプです。追熟はせず、完熟で収穫したデリケートな状態であることがひしと伝わってきます。薄くスライスしてチーズと一緒に食べると最高に合います。
そして、“幻の黒いダイヤ”とも言われるビオレソリエス。ジャムのような濃厚な甘みと酸味、ねっとりとしてどこか背徳感のある食感の、ありがたさが凄いです。実際に国内でビオレソリエスを生産する農家はごく少数で滅多に市場に出回らないとのこと。9月半ばから出荷。


ちなみに食べている部分は「花」です。中のぷちぷちは種で、6月頃無数の白い花が咲いていますが外からは見えません。約2000もの花が詰まっている状態です。咽頭花序(いんとうかじょ)と言います。ぷちぷちには女性ホルモンと同じ働きをする植物性エストロゲンが含まれます。スーパーフードですね。
時期によって採れる種類が異なるので、わたしもまだ食べたことのない品種があります。
その時に手に入るいちじくを並べて、これが美味しい、これが一番!と言いながら『効き無花果』ができる贅沢よ。ワインとチーズといちじくの組み合わせを楽しむことまで考えれば可能性は無限に広がります。

わたしの母はかつていちじくを見るたびに「便所の裏の植えるもの」と言っていました。
日本では、いちじくは庭に植えると縁起が悪い、という俗説があったそうです。
そんな日陰者のイメージは、よぜむファームのいちじくとの出会いによって完全に払拭されました。
今年はどんな味わいだろうと出荷のお知らせを楽しみにする、特別な果実へと昇格です。
今年の秋の夜長に、『効き無花果』を楽しんでみてください。

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よぜむファーム・オンライン注文
https://www.reservestock.jp/stores/index/34648

建築ライター、NPO法人南房総リパブリック理事長、neighbor運営、関東学院大学非常勤講師
1973年東京都生まれ。日本女子大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2007年より「平日東京/週末南房総」という二拠点生活を家族で実践。2012年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市職員らとNPO法人南房総リパブリックを設立。里山学校、空き家・空き公共施設活用事業、食の二地域交流事業、農業ボランティア事業などを手がける。2023年よりケアのプラットフォームneighbor運営。著書に『週末は田舎暮らし」、『建築女子が聞く住まいの金融と税制』など。
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1973年東京都生まれ。日本女子大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2007年より「平日東京/週末南房総」という二拠点生活を家族で実践。2012年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市職員らとNPO法人南房総リパブリックを設立。里山学校、空き家・空き公共施設活用事業、食の二地域交流事業、農業ボランティア事業などを手がける。2023年よりケアのプラットフォームneighbor運営。著書に『週末は田舎暮らし」、『建築女子が聞く住まいの金融と税制』など。
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