バスキアがコム デ ギャルソン・オム プリュスのショーで履いた、「メリージェーン」とは?

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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分厚いラバーソールと、アッパーに入った左右非対称のステッチ。「メリージェーン」と言ってもコム デ ギャルソン・オム プリュスらしい、迫力あるデザイン。英国のジョージ・コックスとジョン・ムーアとのトリプルコラボレーションモデル。2023 Spiring & Summer Collectionから。¥94,500(税込)/コム デ ギャルソン・オム プリュス

「大人の名品図鑑」バスキア編 #4

アンディ・ウォーホル、キース・ヘリングと並んで20世紀を代表するアーティスト、ジャン=ミシェル・バスキア。わずか10年の間に3,000点のドローイングと1,000点の絵画作品を残し、27歳の若さで波瀾万丈の人生を閉じた。今回はそんな天才アーティストが愛した名品の話だ。

親子ほどの歳の差があったが、バスキアとアンディ・ウォーホルの関係は濃密だった。バスキアにとってウォーホルは憧れの存在であり、友人であり、遊び仲間。『2人の頭部』(82年)や『オリンピック』(84年)など、150点もの作品を共同で描いている。

ふたりの出会いは79年。メトロポリタン美術館のキュレーターとウォーホルが昼食をとっているときに、まだ無名だったバスキアがやってきて、ウォーホルにポストカードを買ってもらう。その場面が再現されているのが、ふたりと親交があり、画家でもあったジュリアン・シュナーベルが監督と脚本を手掛けた映画『バスキア』(96年)だ。バスキアをジェフリー・ライト、ウォーホルをデヴィッド・ボウイが演じた作品で、ほかにもベニチオ・デル・トロ、ゲイリー・オールドマン、デニス・ホッパー、ウィレム・デフォー、クリストファー・ウォーケン、コートニー・ラブなど豪華なメンバーが出演している。かつてバスキアとバンド「グレイ」を組んでいたヴィンセント・ギャロもカメオ出演。デヴィッド・ボウイはこの作品でウォーホルが実際に被っていたかつらを着け、天才アーティストを見事に演じている。

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コム デ ギャルソンのショーに出演

映画の前半で2人の出会いのシーンが描かれている。バスキアが差し出したポストカードを「素晴らしい、斬新だ」と言って、ウォーホルは2枚10ドルで購入する。後半、親交を深めたふたりがダウンタウンを一緒に歩く場面では「コム デ ギャルソンからモデルの誘いが。キミも一緒にどう?」とウォーホルはバスキアにショーの出演を誘う。するとバスキアは「いいね。やり方を教えて?」と答える。

これが本当の話か、映画のための脚色であるかは不明だが、バスキアはコム デ ギャルソンのショーの出演している。ショーが開催されたのは86年。87年春夏のコレクションを披露するショーのランウェイを彼は歩いているのだ。8ボタンのダブルブレストのスーツなど、いくつかの服を着てステージを歩く姿がいまでも残っている。そのショーで彼がずっと履いていたと思われる靴が、「メリージェーン(Mary Jane)」と呼ばれるものだ。

一説にはこの靴は1902年に発表された『バスター・ブラウン』というコミックの登場人物で、主人公バスター・ブラウンの妹の名前に由来すると言われる。そのコミックで妹メリー・ジェーンが履いていた踵が低いストラップシューズが、その後「メリージェーン」と呼ばれるようになった。ディズニー映画の『ふしぎの国アリス』(51年)の主人公アリスや、『エヴァンゲリオン』のアスカが制服のときに履く靴と聞けば、容易に連想できるだろう。主に少女が好むデザインというイメージだが、歴史的には幼い少年もこの靴をよく履いていた。その「メリージェーン」をバスキアショーでずっと履いているのだ。

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トリプルコラボの「メリージェーン」

ここ10年以上、コム デ ギャルソンの新作は東京で開かれる展示会などで見ているが、「メリージェーン」を見た記憶はない。まさかあるわけはないだろうと訪れた23年春夏のコレクションの展示会で、「メリージェーン」を発見した。しかも86年にバスキアがショーに出演したブランドと同じ、コム デ ギャルソン・オム プリュス。もちろん発売は来年だが、撮影するためにサンプルを借りることができた。

改めてこの「メリージェーン」を見ると、こだわりが満載であることがわかる。そもそもこの靴はコム デ ギャルソン・オム プリュスと英国の靴ブランドであるジョージ・コックス、同じく英国のジョン・ムーアによるトリプルコラボレーションしたモデル。製作を担当したジョージ・コックスは1906年創業のシューズブランドで、ラバーソールを採用した靴はロッカーの代名詞的靴として知られる。一方、コム デ ギャルソンと共にデザインを担当したジョン・ムーアは英国出身のシューズデザイナーで、クリストファー・ネメスとともに、伝説のショップ「ハウス・オブ・ビューティー・アンド・カルチャー」を開き、コンバットブーツなど数々の名品を発表した。残念ながらムーアは89年に亡くなるが、現在でもブランドは継続している。まさに伝統と伝説、そして革新性を備えた3つのブランドが融合してデザインされたスペシャルな「メリージェーン」だ。

分厚いラバーソールを備え、アッパーには左右非対称に縫い目が走るという凝ったデザイン。86年にバスキアが履いた「メリージェーン」よりも確実に進化し、しかも現代のモードなファッションに似合うように仕上げられている。コム デ ギャルソン・オム プリュスの23年春夏コレクションのテーマは「ANOTHER KIND OF PUNK」。コンセプトにあるパンク精神満載の「メリージェーン」ではないだろうか。

余談になるが、アンディ・ウォーホルの日々の生活が描かれた『ウォーホル日記』(パット・ハケット著 文春文庫)という上下2巻の本がある。下巻にはバスキアの言葉が多出するが、この本でバスキアがショーに出演するだけでなく、コム デ ギャルソンの服を持っていたことが書かれている。

「彼は新品のコム・デ・ギャルソンのコートをホテルの部屋に忘れてきたんだ。—中略—あれはきっと戻ってこないよ。あのコート着ると、彼はすごくかっこよく見えるんだけどね。彼は身長が百八十センチ—髪の毛を入れたら百八十三センチくらいだ。本当に大きい」(ブランド名などは原文のまま)

これが書かれたのは84年の11月4日。バスキアがショーに出演する前のことだ。83年には同ブランドのニューヨーク店がオープンしているので、バスキアはニューヨークでコートを購入したのだろうか。あるいはどこかほかの街のショップだろうか。いずれにしてもバスキアがコム デ ギャルソンの服を愛用し、ウォーホルも羨むほどカッコよく見えたことは事実。ショーに出演したバスキアもさぞや目立っていたことだろう。

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インソールにはコラボレーションした3つのブランド名がゴールドで刻印されている。もちろん英国製だ。

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アッパーに左右非対称でステッチが入っているのも、デザインのポイントだ。
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ジョージ・コックスらしいラバーソール。しかも分厚く、デザイン上のアクセントになっている。

問い合わせ先/コム デ ギャルソン TEL:03-3486-7611

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