ブドウのポテンシャルを引き出す、職人気質な泡。フランチャコルタの名門2選!

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    シャンパーニュ、カヴァと並び称されるスパークリングワインの名産地が、イタリア北部に位置するフランチャコルタだ。前者ふたつに比べ後発となるフランチャコルタの生産者たちは、あえて厳しい条件を自分たちに課し、自然派を志向した高品質なワインを生み出している。現地のワイナリーを訪れ、香り高く味わい深い泡がどのように育まれているのかを追った。

    前編;いま飲むべきは、太陽が育てた自然派な泡! フランチャコルタを巡る旅。

    19世紀から続くワインづくりを、いまに伝える「リッチ・クルバストロ」

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    リッチ・クルバストロのワイナリー敷地内にある農業・ワイン博物館。同地で古くからおこなわれていたワインづくりの工具や機械が並ぶ。

    フランチャコルタでワインづくりが始まったのは、太古の昔から。当時使用されていた工具や機械を集めて展示しているユニークなブランドが「リッチ・クルバストロ」だ。貴族の血筋であるリカルド・リッチ・クルバストロがオーナー兼醸造家。彼の息子のグアルベルト、フィリッポの代で18代目を数える名門である。
    「ロンバルディアは機械工学の街。世界初のブドウの“水平圧搾機”もこの街で生まれたんですよ」

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    オーナーのリカルド(右)と息子のフィリッポ。

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    歴史ある建物で、熟成された味わいが生まれる

    ワインセラーとして活用する建物は1946年建設、元はスティルワインの発酵用の施設として使っていた折り紙付きの老舗だ。

    「セラーの北側に窓がついているので、冬場は窓の開け閉めだけで温度調整ができるんです。使っているエネルギーは、ソーラーパネルですべて自給自足しています」

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    発酵用のステンレスタンクの隣には木製のタンクも! 品種や分量によってタンクを使い分ける。

    タンクのある貯蔵庫の地下には、膨大な量の瓶が静かに眠っていた。

    「しっかりと熟した糖度の高い果実を使っているので、長期保存にも耐えます。長年の蓄積と経験がある私たちは、そうした熟成が得意なのです」

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    地下で二次発酵しながら出荷の時を待つボトルたち。

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    伝統が醸し出す、優雅な香りと口当たり

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    試飲会場から自社の畑を望む。完全有機栽培により、サステイナブル認定を受けている。

    「フランチャコルタは3度の氷河期による3層の地形で成り立っています。この地形に由来するミネラル感が、私は大好きなのです」とリカルド。土壌に含まれる多様なミネラルが、フランチャコルタに複雑さとちょっとした塩味を与えてくれるのだという。

    試飲した中でも、2008年に収穫されたブドウを使い、約12年半にわたって瓶内熟成を重ねた「サテン」は出色だった。サテンは瓶内のガス圧を5気圧以下に抑え、なめらかな泡立ちが特長のフランチャコルタ独自の規格。熟成によって香りと味わいのふくよかさが増しているにもかかわらず、フレッシュな果実感はまるで摘んだばかりのような爽やかさを失っていない。柔らかな泡に包まれるように、シャルドネの爽やかな香りが立ちのぼってくる。

    伝統の味を守るだけでなく、新たな挑戦にも果敢に挑んでいる。「グアルベルト」は2012年から瓶内熟成を行っているが、二次発酵後に出る澱の抗酸化作用を用いることで酸化防止剤無添加、ノン・ドザージュの辛口な一本に仕上がった。ピノ・ネロ60%、シャルドネ40%のキレのある味わいの奥に、リカルドが愛するミネラル感を確かに感じる。「グアルベルトは亡くなった父の名です。存命中、こんなボトルをつくってみたいと相談したら父は反対しました。結局、彼が生きている間に完成させることは叶いませんでしたが、熟成されたこの一杯を飲めば、彼もきっと納得したはずです」

    同席していたリカルドの息子フィリッポは、ミラノ大学で醸造学を学び、父の仕事を手伝っている。フランチャコルタの伝統は、こうして確かに受け継がれていく。

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    左から「ブリュット」「サテンブリュット」「MR」「ドサッジョ・ゼロ グアルベルト」

    Ricci Curbastro|リッチ・クルバストロ
    Via Adro, 37, 25031 Capriolo BS, Italia
    www.riccicurbastro.it

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    ガレージワイナリーから名門へと成長した、「ベラヴィスタ」の奇跡

    1977年創業の「ベラヴィスタ」は、おそらく最も知られたフランチャコルタだろう。建築業を営んでいたヴィットリオ・モレッティが、自宅横につくったいわゆる「ガレージワイナリー」がその始まり。ワインづくりに情熱を燃やしたモレッティは品質に納得するまで市場に出すことはなく、自身が最高の味わいと確信した81年から出荷をスタートさせた。

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    今年で81歳になった創業者ヴィットリオ・モレッティ。いまでも毎朝クルマで出社し、様子を見て回るのが日課だという。

    当初3ヘクタールだった畑は、いまでは200ヘクタールに。フランチャコルタ有数のワイナリーへと進化を遂げた。

    「醸造技術はもちろん大事ですが、いちばん大切なのはブドウなのです。“こういうワインがつくりたい”と思ったら、その味わいが出せるブドウ畑を探していく。畑のポテンシャルを引き出したワインが、本当によいワインなのです」

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    ベラヴィスタのワイナリー施設外観。巨大なブランコや噴水、広大な庭細工などアーティスティックな感性が随所に込められている。
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    ワイナリーから見下ろす山と街並み。モレッティが愛したこの「絶景(=ベラヴィスタ)」が名前の由来となった。

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    醸造に必要なのは、時間をかけること

    現在、ベラヴィスタの出荷量は年間160万本以上。他のフランチャコルタのどの生産者よりもハイペースでの出荷だ。ヴィットリオの娘フランチェスカ・モレッティを始め、4人の醸造家がベラヴィスタの醸造に携わる。昨年からはドン・ペリニヨンの元最高醸造責任者だったリシャール・ジェフロワもアドバイザーとしてワインづくりに携わるようになった。

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    ワイナリーの入り口すぐ近くにある巨大なタンク。畑ごとに収穫されたブドウを発酵させていく。手前のタンクは最大40万本分を保存可能。

    「ベラヴィスタが何より大切にしているのは品質です」と話すのは、2016年から醸造に携わるアレッサンドロ・マリネッロ。他の醸造所でも働いたことのある彼が語るベラヴィスタのいちばんの特長は、とにかく時間をかけることだという。
    「酸化しないようにするには、まず選果が重要。8月に収穫されたブドウを、昔ながらのプレス機でゆっくり時間をかけ、1番絞りから4番絞りまでていねいに搾汁します。その後、タンクを10℃まで冷やしながら過酸化状態にし、ブドウの酸化を防ぎます。そこからタンクまたは樽に入れて、20日間発酵。さらに13週間ラボでチェックを経たのち、翌年春まで寝かせてゆっくりと酒石酸を落としていきます。最後に̠-4℃で1カ月保存し、4月にようやくベースワインができ、それをブレンドしてから初めて瓶に入れます」

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    次回使用する空の樽を干し、水分を抜いている様子。樽の香りを移したくないため、すべて古樽を使用している。

    「ステンレスタンクを使うとエレガントな仕上がりに、樽を使うと活力のあるしっかりとしたボディに仕上がります。ブドウと畑の特長を見ながら、それぞれを振り分けていくのです」
    ワイナリーの正面奥には、教会の伽藍を思わせる広い空間とそれに続く瓶を熟成するために掘った空間に二次発酵中の瓶がズラリと並ぶ。
    「全体のうち、10%はリザーヴワインとして残しています。ベラヴィスタではノンヴィンテージのフランチャコルタにも、15パーセントほどリザーヴワインをブレンドしています。これによって、どの商品にも複雑さをもたらすことができるのです」

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    広大な空間に集められた瓶。二次発酵で発生した澱を、ボトルのネックに集めている。
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    収穫年、畑、品種ごとにボトルが並ぶ。ガイドなしでは迷子になりそうな広さだ!

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    「最高品質」を体現する、究極の味わい

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    試飲会場はベラヴィスタが保有する5つ星ホテル。裏には広大なブドウ畑と、レイクビューの美しいテラスが広がる。

    ランチとともにベラヴィスタの試飲が始まった。ミラノのオペラ劇場・スカラ座のオフィシャルドリンクとなっている「ラ・スカラ」は、パンのような香ばしい香りが立ち上り、きめ細やかでクリーミーな泡立ちがたまらない。洋ナシのような味わいと、最後に抜けていく白い花のような香りが何とも夢見心地だ。

    そして、創業者の名を冠した「ヴィットリオ・モレッティ2013」はまさに“究極”の味わいだ。81年の市場デビュー以来、10回しかつくられていない最高級のトップキュヴェで、ピノ・ネロの力強さと、シャルドネの香り高いバランスは飲んだ瞬間、美しさすら感じるほどだ。味わいにコクがあり、香りも柑橘からトロピカルフルーツ、桃、そしてフローラルへと順々に移り変わっていく。目を閉じて味わうと、口の中で物語が繰り広げられるような感動を味わえるだろう。

    「200ヘクタールの畑から120種類の原酒をつくりますが、そのすべてに全力を注いでつくっています。だから、どの畑のブドウが最上クラスのボトルに入るか、まったく決めていないのです」
    そう語るとモレッティは、穏やかに笑った。

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    左から「サテンブリュット」「ヴィットリオモレッティ2013」「ラ・スカラ」
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    豚肉とアスパラガスのソテー。フランチャコルタの泡が、しっかりした豚の油やバターの風味を洗い流してくれるようで相性は抜群だ。

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    ニンジンとゴマを使ったヴィーガンタルトにサワークリームを添えて。フランチャコルタの味わいは野菜の甘みにも、酸味にもぴったりと寄り添う。

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    左から「ロゼブリュット」「パスオペレ」「ネクタール」

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    「フランチャコルタバー」で、グラスで味わう華やかなひとときを。

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    ボロネーゼのショートパスタにパルミジャーノを添えて。食前、食中、食後どれらも行けるのがフランチャコルタの真髄だ!

    現地でフランチャコルタを味わいながら感じたのは、このスパークリングワインが実にさまざまなシチュエーションに合うこと! 爽やかな空の下、ランチタイムに空けるのも最高に気分が上がるし、アペリティーヴォとして食事前にグラスを傾けて話を弾ませるのもいい。食中酒としても、魚介類、パスタ、リゾット、肉料理など何にでも合わせられる万能選手だった。道中、ワイナリーのガイドをしてくれたジャーナリスト、宮嶋勲氏はこう話す。

    「イタリアのワインは、いい意味で堅苦しいところがありません。大らかなイタリア人の気風そっくりです(笑)。だから、あまり難しく考えずに好きなように味わうのがいちばんの楽しみ方じゃないかな」

    有楽町の阪急メンズ東京には、フランチャコルタ協会の公認となる「フランチャコルタバー」がある。常時約10種類のバイザグラスがラインナップしているほか、持ち帰り用に7種類のボトル販売も行っている。生産者の思いが詰まったフランチャコルタを、ぜひ味わってみてはいかがだろうか?

    フランチャコルタバー
    FRANCIACORTA BAR
    東京都千代田区有楽町2-5-1 阪急メンズ東京 3F
    Tel:03-6252-5360
    営業時間:11時~20時 (アルコールL.O18時30分、ソフトドリンクL.O19時30分)
    不定休
    www.facebook.com/franciacortajapan

    フランチャコルタ協会
    https://franciacorta.wine/ja