南貴之の最新空間!フレッシュサービスとギャラリーで手に入れるモダンライフ【着る/知る】Vol.138

  • 写真・文:高橋一史

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ファッション畑の人がインテリアシーンに大きな影響を与え、両者が深く結びつくようになった時代はいつ頃だろうか。現在につながる流れを生んだのはおそらく1990年代だろう。当時のファッションの最先端にいた裏原宿(原宿の裏通りに店を構えた人たち)のクリエイターたちが、ミッドセンチュリーのイームズの椅子を愛用し、ファッション誌で紹介されてイームズの名が広く知られるようになった。服装はラフなキャップ+Tシャツ+チノパン+スニーカーなのに、高級なインテリアに囲まれたライフスタイル。この違和感がお洒落とされ、フォロワーが続出したエポックメイキングな出来事だった。

2022年8月27日(土)に東京・神宮前にオープンした、ファッションと雑貨の「フレッシュサービス ヘッドクオーターズ(FreshService Headquarters)」(以下、フレッシュサービス)及び、フリー空間の「ギャラリー エイト-ファイブ ポイント フォー(Gallery 85.4)」(以下、ギャラリー 85.4)を手掛けた南貴之クリエイティブ・ディレクターもファッション畑の人間だ。服のショップバイヤーとしてキャリアを積み、独立してから空間づくりやライフスタイル提案の手腕が評判になった。もっともこの記事の後半に登場する彼いわく、
「洋服もインテリアも自分のなかでは並列」。
どの分野も同じように好きで、カテゴリーに囚われたくないようだ。それでも回を重ねるごとにレベルアップするオリジナルの服づくりは、他ジャンルの出身者では辿り着きにくい領域である。ファッションの切り口が南さんの周辺を面白くしているのも間違いない。今回の「着る/知る」では服・雑貨類を販売するフレッシュサービスと、新発想のギャラリーの全貌をお届けしよう。

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時代感満載のワーク発想、フレッシュサービス

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左右のセットアップはともに、フレッシュサービスのショップ限定品。オーバーサイズでダボッと着る前提でのフリーサイズ展開だ。着た人は、左がショップスタッフ関本秀郎、右がアルファPRのPRスタッフ三谷崇雄。左 タフな化繊生地のワークシャツと裾絞りパンツ。シャツ¥24,200(税込)、パンツ¥24,200(税込)、右 強力な撥水性と透湿性を両立させた機能性生地の上下。シャツ¥17,600(税込)、パンツ¥17,600(税込)

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胸のマチつき大ポケットに加え、サイドにもポケットを装備。手ぶらで過ごす日常を叶える便利なシャツジャケット。

“ハイ&ロー”において、南さんが手掛けるファッションブランドのグラフペーパーがハイなら、ローに相当するカジュアルなブランドがフレッシュサービスだ。着る道具として成り立つ利便性が追求され、アメカジやフレンチワークの真似ごとでない独自の機能服である。

既存店をクローズして移転オープンした今回の旗艦店では、オリジナルウエアに加えコモリ、エンダースキーマ、ブラームス、ダイワ ピア39らの仕入れ品から古着までを取り扱う。フレッシュサービスを象徴するオリジナル雑貨類の品数も豊富だ。

店は中央で2フロアにわけられ、片側が家具類の展示・販売エリア。倉庫がイメージされた空間に歴史的なデザイナーズチェアや家電が置かれ、高級家具の世界を身近に体感できる。高額なビンテージチェアもプラスチックのボールペンも、フレッシュサービスにとってはすべてが等しい価値を持つ。

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オープニングのラインアップ

秋の立ち上がり時期に店に並ぶアイテムから、気になったものをピックアップ。一見すると普通っぽいスポーツウエアやワークウエアでも、シルエットがダボッとしていたり、街着として洒落たムードに仕上がっている。

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ビッグシャツジャケットは「カーゴ ポケット ユーティリティ シャツ」。廃盤になった定番モデルを撥水加工生地で復刻。帽子は土産物キャップふうのデザイン。パンツは架空の配送業者のユニフォームがイメージされたもの。動きやすく洗濯もしやすい工夫が満載だ。シャツ¥19,800(税込)、キャップ¥7,150(税込)、パンツ¥13,200(税込)

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フレッシュサービスのアーカイブ雑貨をプリントしたショップ限定Tシャツと、水濡れに強いシート生地を使った日常の買い物バッグ。Tシャツ¥8,250(税込)、トート¥1,760(税込)

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フードつきジャケットの生地は、透湿性が高い高撥水生地の「イーベント(eVent)」。4点小物セットのバッグは、バッグブランドのフィルメントの既製品をフレッシュサービスの3レイヤーリップストップ生地にしたコラボ品。シューズはイギリス軍のトレーニングシューズブランドであるマグナムの現行品。ジャケット¥13,200(税込)、バッグ¥27,500(税込)、シューズ¥14,300(税込)

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パンツブランドのニートを手掛ける西野大士と南貴之がタッグを組んだ、古着をモダンにアレンジするタップウォーター。このセットアップはビンテージのパタゴニアがベースで、ポーラーテック社製フリース生地を使用。ジャケット¥30,800(税込)、パンツ¥26,400(税込)

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家具、雑貨、服が一体になって

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隣のギャラリー 85.4とつながる出入り口から見た店内。倉庫を模した内装で、アイテムが通路の横に整然と置かれている。

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服が並ぶのはイエローラックと入り口付近。写真手前の巨大なバックパックはフレッシュサービスの品。バックパック¥39,600(税込)

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フレッシュサービスのルーツであり、現在もいちばん人気といえる雑貨類。世界中の良品を、色を変えるなどのアレンジでアップデートする発想が息づく。

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上等なビンテージ家具を身近に

2分割されたフレッシュサービスの片側は、さながらバイヤーが出入りする倉庫ふうの空間。屋外に面した入り口があり(下写真 左手前)、ふらりと入りやすい親切設計だ。ディーター・ラムスがデザインしたブラウンの家電、マルセル・ブロイヤーの椅子といった有名どころのなかには、南貴之クリエイティブ・ディレクターの私物も混じっている。「見に来て、良さを知ってほしい。買っていただかなくていいですから」と南さん。

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「自分たちの倉庫を皆さんにご覧いただく感覚でつくった部屋。男性的な印象かも」。男が憧れるガレージ的な内装。インダストリルなビンテージ家電や椅子がしっくりと馴染む。

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スタッキングされた椅子は、アノニマスな60〜70年代のスクールチェア。南さんのお気に入りだ。「座るという文化の歴史が西洋と日本とでは大きく異なります。海外だとこんな素敵な椅子を学校で使っていたんです」。各¥41,800(税込)

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ギャラリーという名の自由な箱

「なにをやってもいい空間がほしかった。ファッションでもアートでもインテリアでも、DJイベントでも飲食でも。ギャラリーと名付けましたが、別のコンテンツに変えられる場所が僕らに必要だったんです」
そう語る南さんが実現させた待望の空間は、入居するオフィスの1階というクリエイターには最高に利便性がいい立地だ。
彼が目指したのは、ミニマルな白い箱。
「現在置いている家具類をすべて撤去すれば、ただの白スタジオになります。中身を好きなように変えられるのです。『いつここに来ても面白いことをやってる』と思われたい」

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新空間の初回イベントのため用意した、チャールズ・フィスターのソファーに腰掛ける南貴之クリエイティブ・ディレクター。隣のテーブルは内田繁デザイン。

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家具をはじめとするインテリア全般は、南さんの買付けによるもの。壁のサイ・トゥオンブリーのポスター、書籍、トートなどの販売グッズはトゥエルブブックスのアイテム。

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マルセル・デュシャンの「トランクの中の箱」を、紙とプラスチックでレプリカ再現したボックス。¥33,000(税込)

ギャラリー 85.4のこけら落としは、アートブック専門ディストリビューターである「トゥエルブブックス(twelvebooks)」との共同イベント「southbooks by twelvebooks」。アート本のある部屋をイメージして、本が生活のなかでどのような役割をするかが表現されている。主な家具は販売するビンテージで、南さんの私物も混じっている。

「エットレ・ソットサスの椅子の近くにソットサスを紹介する本を置くなど、相互作用する室内空間をつくっています。ソットサスの家具は購入できなくても、本なら買えるってこともあるじゃないですか。僕自身が家にたくさん本があって大好きなので、ずっとこういうイベントをやりたいと思ってました」

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ギャラリー 85.4は2部屋構成で、入り口手前がこの部屋。写真左のカラフルなソファーがソットサスのもの。¥660,000(税込)。中央のテーブルはカルロ・モリノ¥528,000(税込)。

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東京都現代美術館で展覧会が開催中のジャン・プルーヴェをはじめ、ミニマル・アートのドナルド・ジャッドらの20世紀アート・建築・インテリアが品揃えの中心。

ECサイトが活況を呈する現代において、南さんがリアル店舗をつくった理由はなんだろうか。彼が深い思いを次のように述べた。

「確かにモノを買うだけならECで済むかもしれません。でも椅子に座ったとき体が感じる手触りや匂いは画面では伝わりませんよね。それが僕がリアルな店を設ける理由です。服だって着てみないとわからないことがたくさんある。それを望む人のための選択肢を提供したいのです。ECで満足できない人のために。体感する空間をつくるのが僕の役割だし、本当にやりたいと望んでいること。信じてるんです、空間の力を」

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通りに面している1階がフレッシュサービスで、ギャラリー 85.4は隣接する奥。最寄り駅は東京メトロ銀座線・外苑前。やや離れるが原宿駅や明治神宮前駅からも徒歩圏内だ。

周辺エリアには、家具の「カール・ハンセン&サン フラッグシップストア」「ロイズ・アンティークス 青山」らの有名店がある。アート巡りなら「ワタリウム美術館」、ギャラリー「NANZUKA UNDERGROUND」、洋書「シェルフ」がお約束のコースだ。ファッションでは「SOPH. TOKYO」がベテランの貫禄を見せつける。南さんが提案する新空間の出現で、このエリアがさらにエッジーな盛り上がりを見せていくかもしれない。

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FreshService headquarters

東京都渋谷区神宮前2-6-7 神宮前ファッションビル1階
営業:12時〜19時
水曜定休
TEL:03-5775-4755
https://freshservice.jp

Gallery 85.4

東京都渋谷区神宮前2-6-7 神宮前ファッションビル1階
営業:12時〜19時
電話番号:03-6447-0325
www.instagram.com/gallery85.4

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【別写真】南貴之ディレクションの最新空間、FreshService&Gallery 85.4で東京スタイルを知る【着る/知る】Vol.137

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高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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