トム・ホランドのSNS離れから考える。SNSの付き合い方とアカウントを持たないセレブたち

  • 文:中川真知子
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「SNSから離れてアプリを消去することに決めました」

インスタグラムにアップロードした動画でそう宣言したのは、『スパイダーマン』シリーズで親愛なる隣人 スパイダーマンを演じるトム・ホランドだ。

「心の健康のためにSNSから距離をおいていました。ツイッターやインスタグラムは刺激が強すぎてまいってしまうんです。自分のことを書かれたコメントを読んでいると悪いことばかり考えるようになってしまって精神衛生上良くないと思いました。だからSNSから離れてアプリを消去することに決めました」

ホランドは6週間ほどSNSを更新していなかった。それまでも日に何度も更新するタイプではなかったが、やはりタグ付けされたり、頻繁に流れてくるニュースに心を乱されていたのだろうと推測する。

ホランドはメンタルヘルスをとても重要視していて、若者のメンタルヘルスをサポートするチャリティ「stem4」を後援している。動画では「stem4」の素晴らしさに触れ、自身もリリースされている4つのアプリをインストールしていると語っている。

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SNSがメンタルヘルスに影響を及ぼす

SNSが人々の交友関係を豊かにした一方で、ネガティブに作用することは広く知られている。

たとえば、アメリカのABCテレビで放映されているトーク・ライブ番組「Jimmy kimmel Live」では、セレブに意地悪なツイートを音読させるシリーズがあって人気だ。笑い飛ばせるレベルの書き込みならいいかもしれないが、毎日、毎時間、毎分のように何かしら自分の演技や外見を中傷する書き込みがあったらどう感じるだろうか。

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カメラの前なら笑って受け流せるかもしれないが、落ち込んでいるときや迷いがあるときなら、こういった書き込みがナイフのように心に刺さるだろう。

大ヒットベストセラーとなっているアンデシュ・ハンセン著『スマホ脳』には、ネガティブな感情はポジティブな感情より勝ると書いてある。また、「もしかしてコメントやイイねがついているかもしれない」と期待して常にスマホをチェックしてしまう依存性の高さも指摘されている。この二つが組み合わさると、ネガティブなコメントがきているかもしれないと、常にスマホをチェックする負のスパイラルに陥ってしまう。

SNSの開発に関わったシリコンバレーの人たちが、スマホ依存が増えた現実を前に罪悪感を抱えながら暮らしていることや、この時代を生きる私たちが少しでも心を健康的に保つためにはSNSのアプリはアンインストールしてパソコンだけで楽しむべきといったことも記述されており、もはや意志の強さだけでは制御できないモンスターのように感じられる。

恐怖心を煽る構成であることは否めないが、Netflixの『監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』では、SNSのユーザーにSNSを頻繁に活用してもらうために組み込まれたアルゴリズムの狡猾さが詳しく紹介されている。

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iPhoneやiPadを開発したスティーブ・ジョブズは我が子にiPadを触らせなかったことは有名だし、スティーブ・ジョブズだけでなく、ビル・ゲイツも、ツイッターの共同創業者のエバン・ウィリアムズもSNSの危険性を理解し、子どもには触らせていないという。このような事実を鑑みると、『監視資本主義』の内容はあながち大袈裟ではないように感じられるだろう。

とは言っても、SNSにポジティブな力があるのも事実。SNSで宣伝することで仕事が増えたり、自らをうまくプロモーションして有名になることだって可能だ。だが、トム・ホランドのようにSNSから離れたり、SNSは活用し続けるが定期的にデトックスしたり、そもそもSNSを使わないセレブも多い。

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SNSと距離を置くセレブたち

ジェニファー・ローレンスは、「ツイッターやフェイスブック、インスタグラムに自分の名前を語って投稿している人がいたらそれは偽物だと断言できる」と言うほどSNS使用の予定はないらしい。ちなみに閲覧専用のプライベートなアカウントは持っているとのこと。

なぜツイッターをやらないかという質問に対して、ジェニファー・ローレンスは「iPhoneをWifiに繋げられたらね」とジョークで返答。

ベネディクト・カンバーバッチは、(ツイッターは)「文字数が収まりきらない」とした上で、自分の手に負えないだろうとSNSの利用を自重しているそう。「私を消耗させるだけで非常に有害だと理解している。それよりも自分が熱中できること、つまり仕事にエネルギーを使いたい」と話している。

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確かに質問に対して140文字では収まりきらないほど書いているのがわかる。

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ブラット・ピットは、「絶対に使わない」と断言した上で、「しかし絶対という言葉は使わない方がいいな。人生はSNSがなくても充実している。ただ自分にはやる意味が感じられないんだ」と付け加えている。可能性は残したものの、今でもブラッド・ピットはSNSを使っていない。

エミリー・ブラントは、ソフトウェアへの理解不足をジョークにしつつも、「私の仕事は人々に私が誰かの人生を演じているのを見せること。私生活を共有しすぎるのは良く無いと思う」とコメントしている。なお、夫であるジョン・クラシンスキーはツイッターもインスタグラムもアカウントを作っており、夫妻の写真を投稿することがある。

かつてインスタグラムのフォロワー数が世界一だったセレーナ・ゴメスは、メンタルヘルスを守るために2018年にSNSから距離を置いた。自分の私生活が至る所に広まって、制御不可能になっていると感じていたそうだ。今でもインスタグラムのアカウントを継続しているのは、ファンとの繋がりを維持して伝えたい情報だけをアシスタント経由で投稿するためだそう。適切な距離を取ることで精神が安定したと話している。

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他にも、『ララランド』のエマ・ストーンや、『ハリー・ポッター』シリーズのダニエル・ラドクリフ、『ブラック・ウィドウ』のスカーレット・ヨハンソンなどがSNSを使っていない。

ジャスティン・ビーバー は、ネット依存を避けるためにスマホそのものを手放したという。SNSの投稿は続けているが、それはiPadで行うという。台湾のデジタル大臣であるオードリー・タンも、スマホを使っていないそうだ。

余談だが、筆者のスマホにもツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどのアプリが入っていない。以前は入っていたが、通知は全て切っていた。だから、積極的に投稿し、通知が頻繁に届く人とは比べものにならないほど使用頻度は低いと自負していたが、消去する前と後では、スマホを触る時間が減ったのを感じる。一般人でもそうなのだから、常に人から評価されるセレブリティがSNSで追い詰められるのは容易に想像がつく。

これまでも幾度となくスマホやSNSの使い方は議論されてきたが、トム・ホランドという人気俳優が勇気を出してSNSと距離を置くと宣言した今、改めて私たちもSNSとの付き合い方を考えてもいいのかもしれない。

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【写真・動画】トム・ホランドのSNS離れから考える。SNSの付き合い方とアカウントを持たないセレブたち

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