必ずしも良好とはいえない日中関係だが、広い中国には日本文化をこよなく愛する人々も存在する。そのような人に対し、中国の捜査当局は厳しい監視体制を敷いているようだ。
中国・蘇州で8月15日、日本の浴衣を着ていたというだけで若い女性が5時間拘束され尋問を受けた。中国の人々にとってもショッキングな一件となったようで、現地のソーシャルメディアでは批判が噴出している。
女性は花柄をあしらった白い浴衣に身を包み、東部・蘇州の日本食レストランで有名な淮海路の通りを訪れていた。軽食を摂るために列に並んでいたところ、カメラ係として同行していた知人とともに警察の取り調べを受けたという。
二人は数人の警官に取り囲まれ連行され、拘束は実に5時間に及んだ。日本の浴衣を着ていたことを非難されたほか、スマートフォンの中身を取り調べられ、撮影した写真は削除されたという。
尋問を経て浴衣は没収され、女性と知人が解放される頃には午前1時を回っていた。警察はさらに、拘束についてネット上に書き込まないよう念を押した模様だ。
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響いた警官の怒号「お前は中国人なのに浴衣を着るのか!」
女性の同行者は、拘束の直前に二人に対して怒鳴りつける警官の様子を動画に収めている。動画はソーシャルメディアの微博でシェアされたのち検閲により削除されているが、Twitterに転載され拡散した。怯える女性に激しい口調で迫る男性警察官に続き、揉み合いに発展する様子を確認できる。
警官は女性に対し、「(中国の伝統服の)漢服を着ているのなら、こんなことは言わない。だがお前は中国人なのに着物(注:浴衣を指しているとみられる)を着ている。中国人だろう! 違うか?」と迫った。
女性は日本の人気コミックおよびアニメの『サマータイムレンダ』をまねて浴衣とウィッグを着用しており、このことが当局の目を引いた可能性があるようだ。
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動画は800万再生、多くの中国ユーザーは憤りあらわ
中国では動画が関心を集めており、多くの人々は警察の指導が明らかに行きすぎだと感じたようだ。米CNNは、連行の瞬間を収めた微博上の動画が8月15日午後までに800万回以上視聴されたと報じている。関連するハッシュタグのついた投稿は、微博で合計8000万回以上閲覧されたという。
英ガーディアン紙は、動画視聴者たちのコメントを報じている。「極端な国家主義」などと非難する声が多いほか、あるユーザーは「社会の雰囲気が人々に口をつぐませており、私はもう何も言いたくないほどだ」と書き込んだ。
日本の浴衣で観光地に繰り出した女性だが、同紙によると、これは特段めずらしい行動というわけでもないようだ。中国ではとくにパンデミック以前、観光地で浴衣や着物をレンタルし、写真撮影をして回るアクティビティが人気を集めていたという。
事件当日の8月15日は日中戦争の戦勝記念日と重なっており、当局も警戒を強めていた模様だ。この日の着用はタイミングが悪かったとの指摘もある。だが、浴衣を着ていただけで5時間の拘束は国家権力の濫用だとして、かえって愛国心に水を差す結果となったようだ。
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【動画】拘束の直前に二人に対して怒鳴りつける警官の様子
A young Chinese woman was taken away by local police in Suzhou last Wednesday because she was wearing a kimono. "If you would be wearing Hanfu (Chinese traditional clothing), I never would have said this, but you are wearing a kimono, as a Chinese. You are Chinese!" pic.twitter.com/et8vWOferQ
— Manya Koetse (@manyapan) August 15, 2022
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【写真】『サマータイムレンダ』のコスプレをして拘束された女性。