サウナのためのクラフトビール、つくっちゃいました

  • 文:岩田リョウコ

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2021年夏、全国のサウナ施設のグッズを集めて販売する全国サウナ物産展が東急ハンズ新宿店で開催されました。サウナで物産展ができるっていう時代が来たんですよね、すごい。そして、コロナ禍で旅をして他県のサウナに行きにくくなってしまったけれど、サウナ好きの人それぞれ感じているサウナ施設への「ありがとう」を示すためにたくさんの人がサウナ物産展に来ている姿を見てちょっと涙がポロリ……。

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大盛況だった2021年の全国サウナ物産展

そんなサウナ物産展、今年も9月10日(土)〜25日(日)で開催決定。しかも新宿、梅田、福岡の3カ所同時に。そしてわたしはサウナ施設ではないのですが、箸休め的な役割として参加することになりました。趣味のクラフトビールが高じまくりまして、サウナをテーマにしたクラフトビールをつくって東急ハンズ新宿店で販売します!


安心してください、わたしの手作り密造酒じゃないです(笑)海外では自家醸造はオッケーなんですが、日本では酒造には免許がいるのです。ちゃんとプロで、わたしが信頼するブルワリーと一緒につくりました。


実を言うと、自分の会社のビールではなく外注でビールをつくってくれるブルワリーはあまり多くありません。というのも、ビールづくりは早くても約1カ月、長いと2カ月以上かかるので、醸造タンクがたくさんないと自分たちのビールがつくれなくなってしまうからです。外注でつくってくれて、しかもわたしのわがままなビールをつくれて、さらに言うなら「サウナ好き」であってほしいというそんなブルワーさんいるかな?と相談したのが、2020年に『エンジョイ!クラフトビール 人生最高の一杯を求めて』という本を共著したわたしのビール先生であるミュージシャンのスコット・マーフィーさん。スコットさんの返答は……。

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アメリカでたくさんのビールを自家醸造していたスコットさんはプロ級の自家醸造家です。

「それは、Be Easyのギャレスさんなんじゃないかな?」

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Be Easy Brewingのギャレス・バーンズさん

青森にあるBe Easy Brewingの社長ギャレス・バーンズさんがその人。アメリカ空軍の爆弾処理班に所属していた時に青森の三沢基地へ派遣されたことがきっかけで日本へ。退役後、2016年に弘前市でBe Easy Brewingを設立。そんなギャレスさん、なんと外注でビールをつくってくれて、サウナがないと生きていけないほどのサウナ好きだと判明!もちろんBe Easyのビールはずっとおいしく飲んでいたこともあり、この人にお願いするしかない!となったわけです。

でもまず、爆弾処理班で生と死が隣り合わせの環境にいた人が、どうしてハッピーなクラフトビールの道へ進んだのか聞いてみました。18歳で空軍に入って爆弾処理班を志願、イラク戦争にも派遣されたのちに青森県の三沢基地へ。2年過ごした青森が好きになって、次の契約を更新したらまた戦争に行くだろうし、人生を変えみるのもいいかもと考えて退役して青森に住んでみることにしたそうです。

英会話の先生をしながらせっかく津軽にいるのだからと津軽三味線を習い始め、教室で出会うおじいちゃんやおばあちゃんと話しながらマスターした日本語はまさかの津軽弁。どれだけすごいかと言うと、ギャレスさんが日本人であるわたしに津軽弁で話すおじさんの通訳をしてくれるくらい、完璧になまっています。

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若かりし頃のギャレスさん。対爆スーツを着ています。

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そんなギャレスさんがクラフトビールに出会ったのも青森でのこと。15年ほど前にはじめて「常陸野ネスト」のヴァイツェンを飲んで衝撃を受けたそう。そこからクラフトビールってなに!もっと飲みたい!と国内外いろいろなビールを取り寄せて飲むようになったとのこと。アメリカに帰った時に友だちが自家醸造したビールを飲んで、「飲みたいビールを自分でつくればいいのか!」と思い立って青森でブルワリーをはじめることに。醸造タンクの輸入から酒造免許、銀行の融資などなどそりゃ簡単ではないことばかり。それを乗り越えてできたのがBe Easy Brewingでした。

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醸造タンクは1000リットル。発酵タンクは6基。貯蔵タンクは2基。大きな醸造所です。

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Be Easyの由来は、仕事、育児、学校など忙しい1日が終わって、おいしいビールで「ほっと肩の力が抜ける=Be Easy」な気持ちになってほしいという思いからつけられた名前だと教えてくれました。

ちなみにギャレスさんは朝サウナ派。その日1日の仕事をトラブルがあってもサウナに入ってからなら大きな気持ちで受け入れられるから、朝サウナ入ってから醸造所に向かうそうです。サウナを好きになったのは、ブームに乗ったわけでもテレビやマンガなどでサウナを知ったわけでもなく、弘前市で仕事関係のおじさんに連れられてイヤイヤ入った時。おじさんの言う通りに入ったサウナでしたが「あっつべの、しゃっけべの、何さいいのわがねべの〜(訳:熱いな!冷たいな!何がいいのかわかんないな)」と思いながら帰りのロッカーで着替えているとものすごい恍惚感におそわれ、そこからその気持ちを味わうためにサウナに1人で行くようになったとのこと。

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この「大和温泉」がギャレスさんのホームサウナ。銭湯には珍しく朝7時から営業。

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「ととのう」などいわゆるサウナ用語は一切知らないし、サウナの流行文化も全然知らない。でも本州最北の地でひたすらサウナに入るアメリカ人醸造家のギャレスさんのサウナの話を聞いて、「この人はサウナをわかってる!この人に頼むしかない!」と思ってご協力をあおいだ、というのが今回のビールのはじまりです。

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ギャレスさんのホップ畑にて。


こんな流れで決まったビールづくり。ギャレスさん、スコットさん、そして他にもいろいろな方の協力を得ておもしろいビールをつくることになりました。どんなビールになったかは、また次回!

『Be Easy Brewing』

住所:青森県弘前市松ケ枝5-7-9
電話:0172-78-1222
http://beeasybrewing.com

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岩田リョウコ

文筆家、イラストレーター

コロラド大学大学院東アジア言語文明学科卒。2009年から外務省専門調査員として在シアトル総領事館勤務。在米中に出版した『COFFEE GIVES ME SUPERPOWERS』がベストセラーとなり世界5ヵ国で翻訳出版されている。サウナ愛好家でもあり、フィンランド政府観光局サウナアンバサダーに任命されている。著書に『週末フィンランド』、『エンジョイ!クラフトビール』、『コーヒーがないと生きていけない!』、『HAVE A GOOD SAUNA!』がある。
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岩田リョウコ

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コロラド大学大学院東アジア言語文明学科卒。2009年から外務省専門調査員として在シアトル総領事館勤務。在米中に出版した『COFFEE GIVES ME SUPERPOWERS』がベストセラーとなり世界5ヵ国で翻訳出版されている。サウナ愛好家でもあり、フィンランド政府観光局サウナアンバサダーに任命されている。著書に『週末フィンランド』、『エンジョイ!クラフトビール』、『コーヒーがないと生きていけない!』、『HAVE A GOOD SAUNA!』がある。
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