今日は貸し切り!? 京都「雲龍院」ご自慢の窓を心ゆくまで味わう

  • 写真・文:高橋一史

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京都の短期取材出張中に寺に行こうと思い関西出身の知人に相談したところ、
「僕が好きなのは『雲龍院(うんりゅういん)』。
『悟りの窓』で有名なわりに、観光客が少なく居心地よかった記憶が」
とのこと。
窓好きとしては「行かねば!」となりまして。

歩くのが旅の醍醐味とはいえ夏の暑さで心がヤラれてたもので、最寄りの東福寺駅からタクシー乗車して山の中へ。
帰りも寺で運良くタクシーを拾えて、京都駅まで¥1,000くらいの料金でした。
(距離のわりに東京より安いと実感)

寺を訪れたらなんと、ほかに客がおらず!!
受付に座ってた女性以外、人の気配なし。
独占です、最高です、まさしく自由行動です。

神・仏・霊魂・祈り・占いに無縁なわたしが寺に行くのは、空間グラフィックを楽しむため。
とはいえ寺社では何より参拝者を尊重すべきという社会常識(?)は持ち合わせてます。
他に客がいないと、すごく気分が楽。
訪れた日は、京都市が盛り上がる日本三大祭のひとつ「祇園祭」より前の7月中旬。
学生の夏休みもはじまらず、さらに平日というタイミングのよさもあったのでしょう。

しかし裸足でひとり歩き回ってると、留守の人の家に上がり込んだような「好き勝手にしていいのか!?」な心のざわつきが。
JR東海の京都CMに登場する有名な寺とは思えない不思議な経験でした。
各所に監視カメラが設置され、セキュリティに問題はなさそう。

たぶんこの親しみやすさが雲龍院であり、そのあたりの話はこのブログ記事の終盤で。
それではこれから、雲龍院の風景をご覧くださいませ。

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庭園と建物とをつなぐ縁側。

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雲龍院といえば「悟りの窓」。
さすがの写真映え。

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引いた室内の様子。
部屋はわりと雑然とした空間。
庭もよく見ると、本格的に手入れされた高級なものでもなく。
映える写真とはギャップのあるお寺さんです。

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浮かび上がる緑、赤、白、そして橙。
直線ブロックだけで構成された無機質な室内に、掛け軸代わりの借景にした曲線の樹木が有機的な表情をプラス。
日本の空間美意識を静かに物語る部屋。

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枯山水の庭。
コーナーのでかい指サックみたいな木(?)がお気に入り。
怪獣っぽくて。
右の灯籠の周囲の砂は、菊花紋章。
皇室とゆかりの深い寺だからこその図案です。

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菊花紋章は庭園に置かれた水琴窟(すいきんくつ)にも。
竹筒の下の説明文は、「耳をあてて音色を聞いて下さい」と。
地下につくった空洞に水滴を垂らし、金属的な反響音を楽しむ伝統の仕掛け。
ここの音、小さかったなぁ。
音が鳴るまでも時間がかかり、体を屈めて筒に耳を当て続けるのもしんどいってことですぐに挫折。

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過去に落雷にあったらしい、凛と佇む一本杉。
ここの庭園自体は地味ですが、山の中の寺ですから周囲に植物がたくさん。
とても心地いい風景でした。
人の手でつくり込んだ盆栽より、道端の雑草に魅力を感じる感性もあるでしょう。
イングリッシュガーデンなら、いかに自然な雑然さを表現するかが庭師の腕の見せどころのようですし。

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屋根下のコンポジションの美しさ!
実際に写真のような色です。
実は廊下に敷かれた赤いカーペットの色が、光の反射で天井に色移りした現象。
木材が赤みを帯び、絶妙な色彩に。
赤カーペットはこの寺に限った敷物ではありませんが、敷いた人たちは天井への効果を意図したんでしょーか??
結果オーライです。

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この扉、ものすごく魅力的じゃないですか!?
枯山水の庭の端っこの単なる通用口なんですが。
苔が生えた木の色といい、ボロボロになった板の先端といい、物悲しいお面のような顔つきといい、ずっと眺めていたいオブジェクトでした。
(近寄れなかったのが残念)

この朽ちそうな扉を「美しい味わい」として残しているのか、単に修繕する気がないのか、なんとも判断つかないのが雲龍寺のおもしろさ。
さびれた観光地感や生活感が随所に見られる寺なんです。

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「誰かが普通に使ってんだろな」と思う部屋も唐突に出現します。
ここは足を踏み入れていいのか判断つかず。
(結局入りませんでした)

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テーブルの青い布が、素敵すぎる!!
おそらく天然藍による染め。
模様のにじみ具合からすると、白い布を糸で縛って染料を注ぎ、縛った部分を染めずに白く残して模様をつくる「絞り染め(タイダイ)」技法だと思うのですが、これほど複雑な絵柄は見たことなく。
植物図鑑のようでもあり、心に響くゆらぎもあって。

どういう縛りなのか想像もつかず。
もっと近くで見たかったなぁ……。
持ち帰りたくなった布との出会いでした。
(ファッション界隈を仕事にする人間のたわごと)

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Pen Online内のこのブログで使う写真の調整ではいつも、「現実に近い情報性」と「イメージの良さ」のどちらを重視するかで迷います。
たいていはレポート記事として必要な情報性を優先させるのですが、今回はわりと絵寄りの仕上がり。
寺でわたしが感じた印象より、写真のほうが華やか。

雲龍院は新築のラグジュアリーホテルではなく、“生きた”古い寺。
台所があったり、汚れてる箇所もある建物。
ゴージャスを期待しちゃうと肩透かしくらうでしょう。
見方によってここの評価が変わる気がします。
モノづくり目線の人は、
「障子の隙間で景色をチラ見せすることで奥行きを出せるのか!」
などと考えて充実した時間を過ごせるでしょうし、逆にディズニーランド的お出かけ気分の人は、
「生活感あって古ぼけてる」
と残念に思うかもしれず。

“味”を知る大人の隠れ家的スポットです。
真夏の休暇シーズンでも静寂を味わえることを期待しつつ。

All Photos©KAZUSHI

KAZUSHI instagram
www.instagram.com/kazushikazu/?hl=ja

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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