“キング・オブ・ロックンロール”であるエルヴィスが着た、バラクータの名品ジャケット「G9」

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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現在「G9」は2つのフィットを揃えており、これは「オーセンティックフィット」と呼ばれるモデルで、モデル名は「G9アーカイブ」。生地を採用したこのモデルは、身体のシルエットを強調することなく、ゆったりとした着心地が味わえる。ルーズでカジュアルなルックが流行るいまのトレンドにもマッチしている。フロントはダブルジッパーで、開け閉めの仕方で着こなしに彩りを与えることができる。¥57,200/バラクータ

「大人の名品図鑑」エルヴィス・プレスリー #4

“キング・オブ・ロックンロール”と称され、いまなお世界中で多くのファンをもつエルヴィス・プレスリー。今年は彼の伝記映画『エルヴィス』も公開され、その人気が再燃することは確実だ。今回は不世出のミュージシャン、エルヴィスが愛した数々の名品を紹介する。

「エルヴィスの曲を初めて聴いたとき、世界がひらけたんだ」——ボブ・ディラン

エルヴィス・プレスリーが生涯で出演した映画は33本もある。もちろんすべてエルヴィスが主演している。

『やさしく愛して』(56年)が記念すべき第1作で、最後の2作はライブステージを記録したもの。33作目の『エルヴィス・オン・ツアー』(72年)は、73年のゴールデングローブ賞の最優秀ドキュメンタリー作品賞を受賞している。その前作の『エルヴィス・オン・ステージ』(70年)は、ラスヴェガスのインターナショナル・ホテルのライブ映像をメインにしたもので、世界中で大ヒットを記録し、新たなるエルヴィス・ブームを巻き起こすきっかけとなった作品だ。

エルヴィスが出演した映画でも、60年代後半に制作された多くの作品はマネージャーのパーカー大佐がシリアスな物語を嫌ったせいか、どれも同じような筋立てで、特にラブコメディが多く、評価はそれほど高くはない。58年、エルヴィスは召集され陸軍に入隊する。入隊までに4作、除隊後の60年から69年までは1年に3本のペースで計27本もの映画が制作されたらしいので、粗製濫造に近いものがあったのかもしれない。エルヴィス自身も後半は映画への意欲を失っていたという説もある。

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エルヴィスとジェームズ・ディーンの関係性

そんなエルヴィス自身が、最も気に入っている映画がある。4本目の作品として制作された『闇に響く声(原題 KING CREOLE)』だ。58年制作で、59年に日本公開された。作品の舞台はニューオーリンズで、エルヴィスが演じるのは暗黒街を支配するマキシーの安酒場で、雑役係のアルバイトをしながら高校に通う若者ダニー。父親が定職に就いていないこともあって、アルバイトに明け暮れるダニーは今年も落第し、高校を卒業することができなかった。そんな彼は酒場のオーナーから無理矢理ステージに上げられ、歌わされるが、それがきっかけとなって別のナイトクラブ“キング・クレオール(これが原題になっていると思われる)”で歌うようになり、ダニーはこのクラブの人気歌手になっていく…という物語だ。悪役のマキシーを名優ウォルター・マッソー、ダニーの不良仲間のシャークを後にテレビ映画『コンバット』で人気を集めるヴィック・モローが演じるなど、脇役陣も充実している。

エルヴィスに詳しいフェリス女学院名誉教授の前田絢子氏は、その著書『エルヴィス、最後のアメリカン・ヒーロー』のなかで、「この映画は、傷ついた若者の心理、父親への反抗、二つの美しい愛をドラマティックに描いて、エルヴィス映画の中で最も社会性の高い内容になった」と書く。どことなくジェームズ・ディーンが主演した『理由なき反抗』に似ていると思ったら、この映画はジェームズ・ディーンのために書かれた作品で、ディーンの急死で、その役がエルヴィスに回ってきたと同書には書かれている。映画『エルヴィス』でも彼がジェームズ・ディーンに憧れていたことが描かれているが、エルヴィスは『理由なき反抗』のディーンの台詞をすべて覚えていたという。それらが『闇に響く声』でのエルヴィスのシリアスな演技にも影響を与えたのは確かだろう。

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エルヴィス同様に多くのフォロワーを生んだ名品ジャケット

この作品でエルヴィスが着ていたのが、トラッドの名品バラクータの「G9」だ。映画がモノクロなので色は正確にわからないが、明るい色に映っているので、もっとも定番的なナチュラルかタンあたりではないだろうか。

バラクータは、老舗ブランドのレインウエアを製造していたジョン・ミラーとアイザック・ミラー兄弟が、1937年に英国のマンチェスターで始めたブランドだ。1948年に発表されたのが「G9」で、モデル名「G9」の「G」はゴルフを意味し、「9」は9番目につくられたから。英国陸軍の支給用ジャンパーをベースにして、防風・防水加工を施してゴルフ用のジャンパーとして開発された。犬の耳のようなデザインで、ボタンを留めることで襟が立てられる「ドッグイヤーカラー」は防風効果が得られる独特なデザイン。背中の「アンブレラエフェクトヨーク」は傘のようなカッティングで、雨滴をスムーズに流せるように考案されたものだ。またゴルフなどでスムーズに肩を動かせるように、可動域が大きいラグランスリーブを採用する。デザイン的には、裏地に採用された「フレイザータータン」も見逃せない要素だ。

機能性と高いファッション性が融合したこのモデルは、さまざまなジャンパーのお手本になり、多くのブランドで模倣された。日本ではこのタイプを「スウィングトップ」と言う場合もあるが、これは日本のブランドがゴルフのスウィングから命名したもので、もちろん和製英語だ。欧米では「ハリントンジャケット」と呼ばれることもある。この呼び方は60年代のアメリカのテレビドラマ『ペイトンプレイス物語』で、ライアン・オニール演じるロドニー・ハリントンが着用したことに由来する。オニールは『ある愛の詩』(70年)の主人公のひとり、オリバーの演技で日本でも人気を集めた。

実はこの連載の第1回で取り上げたスティーブ・マックイーンも、このバラクータの「G9」を愛用したことでよく知られている。『華麗なる賭け』(68年)ではネイビーの「G9」を着こなし、プライベートでも愛用している写真がたくさん残されている。そういえばマックイーンは“キング・オブ・クール”と呼ばれた人物。一方、エルヴィスの愛称は“キング・オブ・ロックンロール”。50年代から70年代にかけて大活躍したアメリカを代表する2人のキングに認められたブルゾンとして、いまなお多くの人の記憶に残り、そして愛されている名品中の名品だ。

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バラクータのアイコンのひとつでもある「フレーザータータン」柄の裏地。内側には通気性に優れたコットンポリエステルのCoolmax®︎素材を採用し、機能的にも進化している。

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背中の上部に設けられた「アンブレラエフェクトヨーク」。これは雨の滴がうまく流れるようにデザインされたもの。ゴルフジャケットとしての出自を物語るディテールだ。
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「オーセンティックフィット」のモデルは、フラップ&ボタンが付いた左側の脇ポケットにはブランドマークが付けられている。

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「G9」のアイコニックなデザインとディテールを踏襲しながら、袖口と裾のデザインを変えた「G4」というモデルが最近、若者を中心に人気を集めている。この「G4」というモデルは着丈の長さやボリューム感がアップデートされ、裾に絞りのないデザインが昨今のルーズシルエットのボトムスにマッチする。素材はポリエステル58%×コットン42%で、製造は英国で行われている。各¥52,800/バラクータ

問い合わせ先/バラクータ カスタマーサービスTEL:0120-165-006

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