エルヴィス・プレスリーがステージ衣裳として着用したウエスタンシャツ

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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正式なブランド名はロックマウント・ランチウェア。1946年、アメリカ・コロラド州デンバーでジャック・ワイルが創業したブランド。モデル名が「ELV」と名付けられたこのシャツはエルヴィスが『さまよう青春』で着用したデザインを復刻したもの。映画ではサテンの光沢ある素材が使われているが、コットン100%で、着やすい素材が選ばれている。オフホワイトに赤というコントラストが効いた配色。フラワーの刺繍も凝っている。¥19,800円(税込)/ロックマウント

「大人の名品図鑑」エルヴィス・プレスリー #1

“キング・オブ・ロックンロール”と称され、いまなお世界中で多くのファンをもつエルヴィス・プレスリー。今年は彼の伝記映画『エルヴィス』も公開され、その人気が再燃することは確実だ。今回は不世出のミュージシャン、エルヴィスが愛した数々の名品を紹介する。

「エルヴィスがいなかったら、ビートルズはなかった」——ポール・マッカトニー

7月1日に日本公開された映画『エルヴィス』。全米では最初の週末興収が約3121万ドルを記録し、大ヒット中の『トップガン マーヴェリック』を抑え、全米興行収入ランキング初登場第1位を獲得している。本年度のカンヌ国際映画祭にも出品され、映画祭史上最長となる12分間のスタンディング・オベーションが巻き起こった。

映画『エルヴィス』を監督したのは『ムーラン・ルージュ』(01年)、『華麗なるギャツビー』(13年)などの作品で知られるバズ・ラーマン。人気絶頂の中、42歳の若さでこの世を去ったエルヴィス・プレスリーの人生を、多くの人が一度は必ず耳にしたことがあるエルヴィスの名曲にのせて見事に描いている。エルヴィスに抜擢されたのは、本連載のデニム編でも取り上げた映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19年)で注目されたオースティン・バトラー。

「この映画は『エルヴィス』という題名だが、トム・パーカーの物語でもある。少なくとも、ある意味ではね。彼はあまり頼りにならない本作の語り手ながら、私たちがこの物語に入るきっかけをつくってくれる」と脚本も手掛けたバズ・ラーマンは語るが、そのトム・パーカー大佐を演じたのは名優トム・ハンクスだ。

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エルヴィスをスターダムに押し上げた曲とは

1935年1月8日、ミシシッピー州テュペロで貧しい家庭に生まれたエルヴィス・アーロン・プレスリー。引っ越し先のテネシー州メンフィスで自ら出向いて録音されたのが、黒人ブルース歌手アーサー・クラダップの「ザッツ・オール・ライト」のカヴァー曲だった。その曲は黒人のリズム&ブルースとゴスペル、白人のカントリー・ミュージックがひとつになった独創的なサウンド。『エルヴィス、最後のアメリカン・ヒーロー』(前田絢子著 角川選書)には、録音に立ち会ったひとりが「『こんな危険な音をどうすればいいんだ。きっと俺たち、町から追い出されるぜ』と呟いた」と書かれている。1954年7月5日、エルヴィスはまだ19歳。彼のロックンロールが誕生した瞬間だ。

ラジオでこの曲がかかると聴取者から凄まじい反応が巻き起こり、注目を集める。トム・ハンクスが演じたプロモーターのパーカー大佐と出会うのは同じ54年。56年にはパーカー大佐は正式なマネージャーに就任し、その後、パーカー大佐はさまざまな大衆受けするメディアを使ってエルヴィス旋風を次から次へと仕掛けていく。パーカー大佐が最高視聴率82%を記録したテレビ出演に続いて狙いを定めたのが、ハリウッド映画だ。

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映画界でのエルヴィスの活躍

56年の「ハートブレイク・ホテル」をヒットさせた後、映画『カサブランカ』(42年)のプロデューサーとして知られるハリウッドの大物、ハル・B・ウォリスのスクリーンテストを受け、見事合格。パーカー大佐の目論見通り、パラマウントと7年間・3本の出演契約を取り交わすことに成功する。そして56年(日本公開は57年)に公開されたのが『やさしく愛して(原題 LOVE ME TENDER)』。主題歌「ラブ・ミー・テンダー」は、85万枚を超える予約が舞い込み、映画が公開されると3週間で制作費を回収したと『エルヴィス・プレスリー 世界を変えた男』(東理夫著 文春新書)に書かれている。同書にはその翌年の57年に公開された『さまよう青春(原題 LOVING YOU)』と『監獄ロック(原題 JAILHOUSE ROCK)』の2本の作品も驚異的な興行成績を記録、エルヴィスはスター街道を爆進し、この年だけでも18曲をヒットチャートに送り込んだと書かれている。

57年に公開されたエルヴィス映画の初期の作品、『さまよう青春』は、彼の自伝的な内容が盛り込まれている。酒屋のトラック運転手(エルヴィスも歌手になる前はトラック運転手だった)だった青年ディークが知事戦のバンド余興に飛び入り参加して観衆から絶賛される。その後旅回りのバンドに加わり、やがて人気歌手へと成長していくという物語だ。

この作品でエルヴィスのステージ衣裳として登場するウエスタンシャツが驚くことに、現在でも手に入る。

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映画にも登場するロックマウントのウエスタンシャツ

このシャツをデザインしたのは、ウエスタンシャツ界の“ヘンリー・フォード”と呼ばれるアメリカのロックマウント。現在、日本でこのシャツを扱っているのが、ロックマウントを始めウエスタンシャツの圧倒的な商品量で知られる上野・アメ横の石原商店 ワンアンドハーフというショップだ。このシャツはメーカーの品番でも「ELV」と名付けられたモデルで、『さまよう青春』でエルヴィスが着用したモデルがそのまま再現されている。オフホワイトと赤のコントラストが効いたデザイン。ヨークなどにフラワーの刺繍が入り、5つのドットボタンが付けられたショットガンカフ、胸のスマイルポケットなど、ロックマウントらしいディテールを備えている。映画ではその光沢からサテンのような素材が使われていると思われるが、このモデルは素材にコットン100%を採用しているので、普段着としても着られる。シルエットもUSA仕様のリラックスシルエットで、ゆったりと着られる。

エルヴィスの華々しい人生を彩ったウエスタンシャツを見事に再現した一枚と見て間違いないだろう。ちなみにロックマウントと深い繋がりをもつ石原商店 ワンアンドハーフによれば、今年公開された映画『エルヴィス』でも同ブランドのシャツが着用されているという。黒一色のウエスタンシャツで、タイドアップしてステージで着用していると聞いた。映画を再度観てみたが、色が黒ということもあって同ブランドのウエスタンシャツかどうかは判別ができなかった。DVDや配信で見られるようになったら、画面をストップさせながらもう一度チェックしてみたい。

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カラフルな糸で織られたロックマウントの織ネーム。いかにもウエスタン風のデザインだ。モデル名の「ELV」は手書き。音楽業界ではエルヴィス以外にも、ボブ・ディラン、ジョニー・キャッシュ、ドン・ヘンリー、ロバート・プラントなどの名ミュージシャンがこのブランドのシャツを愛用している。

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ウエスタンシャツの特徴であるスナップボタン。これをウエスタンシャツに初めて採用したのが、ロックマウントだと言われている。今回のシャツのカフスには、5つもスナップボタンが付けられている。しかも赤で、袖やヨークに配された赤の素材ともマッチしている。
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胸のヨークや、襟などに花をモチーフにした刺繍が施されている。そしてヨークの下には「スマイルポケット」と呼ばれるウエスタンシャツ特有のポケットがある。これも見た目だけでなく、しっかりと中にモノが入る仕様だ。

問い合わせ先/石原商店ワンアンドハーフ TEL:03-3831-5226

https://item.rakuten.co.jp/oneandhalf/67-elv/

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