タイヤは半分⁉ それでも走る「0.5 x 2 = 1自転車」が話題に

  • 文:青葉やまと

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The Q-YouTube

ウクライナの科学・工作系YouTubeチャンネル「The Q」が、奇抜な自転車を自作し話題を呼んでいる。車輪が半分にカットされたような形状だが、それでも問題なく走る。

後輪は半月形の2つのタイヤから成り、それぞれが回転しながら交互に車体を支えるしくみだ。どこか破綻しそうでいながら、それでも問題なくスムーズに走っている様子がなんとも不思議な感覚を与えてくれる。ある瞬間には、まるでどのポイントも後部を支えていないのに宙に浮いているような、奇妙な感覚を覚える。

風変わりな自転車を作り上げたのは、同チャンネルを運営するエンジニアのセルゲイ・ゴルディーエフ氏だ。同チャンネルはユニークな工作を発表することで人気となっており、1300万人近い登録者数を誇る。今回の自転車の動画は、6日間で3000万回という驚異的なペースで再生されている。

後輪が半分に割れていることで利点があるわけではないのだが、それでも見ずにはいられない。危うげで不思議な感覚が視聴者を魅了しているようだ。

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変速にも対応するていねいな仕事

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The Q-YouTube

動画の中で明かされている製作工程では、氏がタイヤをていねいに分解・切断し、2本の半円のタイヤに仕上げていく様子を確認できる。1つのタイヤを単純に分割したようにも思えるが、自転車本体と接続する中心のハブ部分は2つ必要だ。

このため、後輪用だけで2本のタイヤを用意するという、かえってコストのかかるプロジェクトとなったようだ。それぞれから中心部分を含む半円を1つずつ切り出している。さらに、自作のギアを双方の後輪に取り付け、変速にも対応する凝ったつくりだ。

気になるのは、切断されているタイヤにどのように空気を注入しているかという点だ。実は後輪に空気は入っておらず、本来タイヤ内部にあるチューブを硬質なゴムチューブに交換することで弾力を確保し、衝撃を吸収している。

完成品を持って公園に赴いた氏が漕ぎ出すと、それなりの段差にも耐えるという予想外の頑丈さとなったようだ。

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「車輪の再発明」という慣用句の意味を変える

タイミングよく車体を支えるタイヤ同士のチームワークは、ある種の爽快感を覚えるほどだ。同じ工作系の人気YouTubeチャンネルを運営するレアンドロ・ワグナー氏は、動画のコメント欄を通じ、「実生活ではとても役立たないけれど、創造的でめずらしいコンセプト。おめでとう!」とエールを送った。

動画の虜になった視聴者たちはコメント欄で、なんとかメリットを見出そうと議論を繰り広げている。今のところは「人目を引く」以外に、これといった利点の発見には至っていないようだ。動画では直線をスムーズに走る様子が繰り返し映されているが、カーブが心配、とコメントする視聴者もあった。

それでも、めずらしいタイヤは海外の各所で取り上げられている。科学ニュースを扱う「ZMEサイエンス」は、動画は「『車輪の再発明』というフレーズにまったく新しい意味を与えた」と述べ、創造的なチャレンジを称えている。

「車輪の再発明」は通常、ソフトウェア開発の世界で、無駄な労力を揶揄する表現としてよく使われる。車輪の発明は人類にとって重要な出来事だったが、現代ではすでに車輪が存在する。自力でまた考案するよりは既存の技術を受け入れた方が、少ない労力で質のよいものができるという意味だ。

だが、今回の遊び心は、これまでの車輪の枠を越える発想から生まれた。実用性にとらわれず、人間をワクワクさせるための努力があってもいい——。ゴルディーエフ氏の動画は、そんなメッセージを与えてくれるかのようだ。

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【動画】タイヤが半分の自転車が直線をスムーズに走る様子

The Q-YouTube

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