写真に撮れず!? 見る角度で動く中谷ミチコのレリーフ彫刻 <丸の内ストリート>

  • 写真・文:高橋一史
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ウェブメディアが印刷メディアより優れている点のひとつが、写真点数に限りがないこと。
商品や芸術作品らの紹介のとき、印刷メディアでは写真1点しか使えないケースが多く。
(誌面サイズもページ数も定まってますから)
アナログ時代はこの束縛にずっと息苦しさを感じてました。
デジタルメディア時代になり制約から解放され、気持ちが軽くなりまして。
情報過多の問題が新たに出てきたとはいえ、言うべきことを言えないモヤモヤよりずっとマシです。

「もはやメディアが示せない事柄はない」などとうぬぼれていましたが、そんな驕った頭を打ち砕く、“伝えられない”アート作品に出会いました。
東京・丸の内ストリートギャラリーに新規参加した、中谷ミチコさんの彫刻です。

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中谷さんの主なモチーフである少女を描き出したレリーフ手法の彫刻。
スカートの裾で魚をすくった光景。
円形の舞台がまるで池のようで、豊かな奥行きを感じさせます。
パステル調の淡い色もとても美しく。
この場所に設置された様々な作家の彫刻のなかでも、もっともフェミニンで日本的ともいえる作品。

わたしの拙い写真でも十分に魅力的な作品ですよね?
「見に行きたい」と感じた方も多いでしょう。
でもしかし!
これだけで終わる世界じゃないのです。
作品を映した下のスマホ動画をご覧ください。
右側からゆっくり左に視点を移動した様子です。

音声なし 15秒

とくに後半、「え、なんだ、なんだ!?」って思いませんか??
固定したレリーフなのに、女の子が回転してこちらに体の向きを変えてる。
リアルなトロンプルイユ感にワクワクです。

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しかもどの視点から眺めても魅力的。
デフォルメされた瞬間にも確かな美しさがあります。

実はこの視覚効果には秘密あり。
凹凸でいう凹でつくられているのです。
出っ張った3Dでなく、引っ込んだ3D。
だからこそ人物の周辺に影がつかず、上下左右の視点で異なる絵が現れるのです。
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顔の表情が実に豊か。

……っても、写真では凹レリーフなことがまったく判別できません。
撮影してる時点で、
「あ、これ無理、ぜんぜん無理。どーしよう?? 動画撮ればいけるかな……あ、ダメ、彫刻の構造はなんもわかんねー!」

多少理解しやすそうな角度の写真はこれです。
 ↓

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デジタルメディア時代でも伝えられない作品。
実物と向き合ってようやく、楽しさを体感できる作品。

夜間にストロボなどのスポットライト光で影をつければ構造を撮れるのでしょうが、
この作品小さな魚を大事そうに運ぶ女の子と金ピカの空を飛ぶ青い鳥 2022は直接ご覧になるのが吉です。
都会のど真ん中にいることを忘れるひとときを過ごせますから。

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裏側はカーブしたゴールドメタルの板。
凡庸なわたしの感性では、ゴールド側には親しめませんでした。
(すみません)
メタリックアートは自分の顔や周辺の風景が写り込み、現実世界に引き戻されて白けてしまいがちなのです。

現代アートに多い「見る人を投影して作品の一部する」ことを狙った、鏡や映像の作品はいつも苦手ですね。
自身の身体的特徴(外見)が好きでないわたしは、アート作品のなかで自身の姿を見たくない。
鑑賞者を作品に入り込ませるのは心だけにしてほしいのが願いです。

姿かたちが投影されても楽しい例外は、レアンドロ・エルリッヒの作品。
笑えて感動する偉大な作品たち。

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丸の内ストリートギャラリーは今年で50周年。
中谷さんをはじめとする新作5点らの計19作品が、仲通りを中心に点在してます。

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作者の中谷ミチコさん。
2022年6月28日(水)に行われたメディアお披露目イベントに参加なさいました。
不思議なだまし絵レリーフをどうやってつくるのか気になり「パソコンによる3Dモデリングでシュミレーションしてるんですか?」と質問したところ、首を横に振りながら、
「いえ、粘土です。手でやってます」
とのお答えが。
あとでネットで調べたら中谷さんの基本的な制作方法は、まず粘土で立体をつくり石膏で覆い、粘土を外して石膏に樹脂を流し込むやり方のよう。

パーソナルな作品、とのお話でしたが細かな制作意図は尋ねませんでした。
それが気にならないくらい、見た瞬間に引き込まれる作品でしたから。
作品がもたらした心の動きこそが興味深いのです。

All Photos:KAZUSHI

KAZUSHI instagram
www.instagram.com/kazushikazu/?hl=ja

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高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。