【今月の映画3選】青春映画の新たな傑作『リコリス・ピザ』ほか

  • 文:細谷美香(映画ライター)
Share:

今月のおすすめ映画①『リコリス・ピザ』
愛らしさと親密さに満ちあふれた、青春映画の新たな傑作

①.jpg
© 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

初期作の『マグノリア』『パンチドランク・ラブ』から前作『ファントムスレッド』まで、常に観る者の胸をざわめかせてきたポール・トーマス・アンダーソン監督。最新作の『リコリス・ピザ』では彼が生まれ育ったサンフェルナンド・バレーを舞台に、高校生のゲイリーと25歳のアラナの恋を描き出した。

70年代、子役として活動しながらウォーターベッドの販売事業を始めるゲイリーと、カメラマンのアシスタントをしながら自分の居場所を探し、彼の手伝いをするようになるアラナ。時に歩みを揃えたり、どちらかが素通りをしたり、背伸びをしてみたり。距離感は変化しながらも常に年齢差を感じさせない、フラットで奇妙な関係性が描かれている。けれどもこの映画が特殊な青春物語としてではなく愛らしい作品として完成したのは、監督にとってこの世界が親密なものだったからかもしれない。ゲイリーのモデルであるプロデューサー、ゲイリー・ゴーツマンとは、長年にわたる親交があったのだと語る。

---fadeinPager---

②sub2.jpg
ロサンゼルス出身の三姉妹バンド、ハイムの末っ子、アラナ・ハイムが出演。三姉妹の母は、監督の美術の先生だったという。音楽を担当したのはレディオヘッドのジョニー・グリーンウッド。今年のアカデミー賞作品賞ノミネート。

「この映画の核となる少年と少女の話は、長年温めていたものです。ゲイリー・ゴーツマンから聞いた少年時代や彼の弟の話、ウォーターベッド店を開店した経験談。すべて僕が育った場所で起きた話で、とても身近に感じられました。脚本にあって撮影しなかった箇所はわずかしかありません」

主演のアラナ・ハイムと監督の作品の常連俳優だったフィリップ・シーモア・ホフマンの息子、クーパー・ホフマンは本作で映画デビューを果たした。ほとんどメイクもしていない若き登場人物たちの素肌と街を駆け抜ける肉体が放つエナジーもまた、この作品に吸引力をもたらしている。70年代のカリフォルニアの魅惑的なムードが満ちあふれ、パーソナルな感触がやがて普遍性へと反転していく、監督の新たな傑作をスクリーンで堪能したい。

『リコリス・ピザ』

監督/ポール・トーマス・アンダーソン
出演/アラナ・ハイム、クーパー・ホフマンほか
2021年 アメリカ映画 2時間14分 7月1日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開中。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

---fadeinPager---

今月のおすすめ映画②『ボイリング・ポイント/沸騰』
全編ワンショットで撮影した、沸騰寸前の一夜の人間ドラマ

③BP_MAIN.jpg
© MMXX Ascendant Films Limited

クリスマスを控えた、せわしない金曜日。ロンドンの高級レストランのオーナーシェフは、ピンチに陥っていた。妻とは別居中で愛息との約束を忘れてしまい、レストランでは次から次へとトラブルが巻き起こる。まさに沸騰寸前の一夜の物語を、編集なしの、正真正銘の全編ワンショットで撮影したという驚きの作品。レストランの表と裏に渦巻く人間ドラマを描きながら、シェフが味わうただならぬ緊張感やプレッシャーの只中へと観る者を引き込み、スリリングな時間を追体験させてくれる。

『ボイリング・ポイント/沸騰』

監督/フィリップ・バランティーニ
出演/スティーヴン・グレアム、ヴィネット・ロビンソンほか
2021年 イギリス映画 1時間35分 7月15日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

---fadeinPager---

今月のおすすめ映画③『わたしは最悪。』

仕事や恋愛など人生の岐路に立つ、30歳の選択の行方を見つめる

④わたしは最悪。_main.jpg
© 2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VÄST -SNOWGLOBE - B-Reel – ARTE FRANCE CINEMA

グラフィックノベル作家として成功している年上の恋人をもつ、30歳のユリヤ。とあるパーティで知り合った青年と新しい恋を始めるが……。キャリア、恋愛、結婚、親になること。人生の岐路で時が止まったかのように立ちすくみ、何者かになろうともがくヒロインの選択の行方を見つめたラブストーリー。監督は、『母の残像』『テルマ』など鋭い洞察力を感じさせる作品を撮ってきたノルウェーの才能、ヨアキム・トリアー。本作は今年のアカデミー賞国際長編映画賞と脚本賞にノミネートされた。

『わたしは最悪。』

監督/ヨアキム・トリアー
出演/レナーテ・レインスヴェ、アンデルシュ・ダニエルセン・リーほか
2021年 ノルウェー・フランス・スウェーデン・デンマーク映画 2時間8分 7月1日よりBunkamuraル・シネマほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

関連記事

※この記事はPen 2022年8月号より再編集した記事です。