世界に先駆けて東京で初めて一般公開となるエルメスシアター『LA FABRIQUE DE LA LÉGÈRETÉ―軽やかさの工房』。2022年のメゾンのテーマである「もっと軽やかに」を、躍動感と情感あふれるスペクタクルに表現した『ペガサスと6つの軽やかさを探す旅』が6月21日(火)まで六本木の東京ミッドタウン・ホールにて開催中だ。圧倒的な詩的世界をつくりあげた映画監督のジャコ・ヴァン・ドルマル、振付家のミシェル・アンヌ・ドゥ・メイ、美術担当のシルヴィー・オリヴェの3人に、制作にまつわる話を聞いた。
観る者の精神を解き放つ、6つの夢物語
「軽やかさとは動きであり、考え方であり、言葉であり、アイデア、思想なのだ。子どもたちよ、自分なりの“軽やかさ”を求めて世界中を旅するのだ」。6頭の子馬に語りかける天馬ペガサスの言葉で始まる物語は、全6幕で構成されている。観客は6つのセットを移動しながら、ミニチュアの舞台やマリオネット、パントマイムなどの撮影現場に立ち会う。黒子となったダンサーたちが馬に扮したり、ミニチュアオブジェを操る様子をカメラが同時撮影し、それが映像となってスクリーンに映し出されると、観客は日常の重力から解き放され、夢の世界へと旅立つのだ。
「軽やかさというのは色々なものと響き合うテーマで、重力や風、夢、想像力といったさまざまな感覚を呼び起こします」と話すのは監督のジャコ・ヴァン・ドルマル。映画『トト・ザ・ヒーロー』や『神様メール』、オペラ、舞台など幅広い分野でファンタジーあふれる作品を発表してきたドルマルが、今回の美術制作でタッグを組んだのは、彼が全幅の信頼を寄せるシルヴィー・オリヴェだ。
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エルメスのスカーフやカップを使ってサーカス小屋に見立てたり、バッグ「ケリー」がオペラ歌手に変身したり。オリヴェのアイデアには、遊び心とエスプリがふんだんに盛り込まれている。「エルメスと仕事をすることになって、初めてパリのブティックとその上階にある非公開のミュゼを訪れました。そこでさまざまなオブジェを見ていたら、どんどんアイデアが湧いてきたの。バッグ『ケリー』を見たときは、バッグが口を開けて歌い出したらどうなるかしら? と思いついた。そのイメージをジャコ・ヴァン・ドルマルに伝え、ミシェル・アンヌ・ドゥ・メイが実際の動きを担当してバッグに生命を吹き込む、といった具合に制作は進みました」
一方、振付を担当したドゥ・メイは、エルメスとの協業によって、表現の新たな可能性が広がったと語る。「馬の脚を指で表現したり、マリオネットの動きを学んだり。『四つの鞄のオペラ』ではマリオネットのスタッフがバッグ『ケリー』を特注して、私たちダンサーに操作を指導したのです。エルメスを通じて異なる分野のアーティスト同志が共同作業した貴重な体験でした」
作品は映像と舞台と制作現場とが渾然一体となったスペクタクルだが、実は特別な仕掛けはほとんどない、とドルマルは言う。「特殊効果は使わず、仕掛けはだまし絵のようにいたってシンプル。あくまでも手しごとにこだわりました。観客はだまされているとわかっていても、魔法の世界に入り込んでしまうのです」。企画がスタートしたのは2年前で、パンデミックの只中だったが、互いをよく知る3人は信頼関係によって常に結ばれていた。
「私たちは長らくリモートで話し合いながら、お互いのイメージを膨らませていったのです。私はビジュアルを担当しましたが、重力を反転させるイメージはガウディのサグラダファミリアから、『四つの鞄のオペラ』はブレヒトの『三文オペラ』から、というようにさまざまなイメージが折り重なって6つの物語に集約していきました」。作品制作にあたってエルメスから伝えられたのは「誰もが夢を見て、憧れるような世界をつくって欲しい」というリクエストだった。「エルメスのブティックを訪れて、"人はどういうものに憧れて夢を見るのか"についをじっくり考えました。プロジェクトが開始したときはどんな形になるのか予想もつかなかったけれど、こうして仲間とともに新しい表現が生み出せたことは本当に嬉しい」とオリヴェは振り返る。
今年で創業185年となるエルメス。150年目から毎年設定している年間テーマは、メゾンのものづくりにおける羅針盤となってきた。今回、日本で初演されることになった背景について、エルメスインターナショナル・エグゼクティブヴァイスプレジデントのシャーロット・デヴィッドは言う。「日本人のものづくりに対するこだわり、デリケートな感性は、メゾンと共通する価値観があります。このスペクタクルで手や身体を使って表現されていることは、エルメスが大切にしているメゾン理念に通じるものです」。
暗闇に浮かび上がる6つのファンタジーは、子ども時代の遊び心と、軽やかで自由な精神を呼び起こしてれるだろう。
LA FABRIQUE DE LA LÉGÈRETÉ
「軽やかさの工房」
エルメスシアター 詩と映像で綴るスペクタクル
会期:2022年6月21日(火) まで
会場:六本木 東京ミッドタウン・ホール
東京都港区赤坂9丁目7-2
時間:13時30分/15時15分/17時30分/19時15分 ※1日4回入替制 予約制
料金:入場無料
www.hermes.com