『ミッドサマー』『ヘレディタリー/継承』など作家性の高いホラー映画から、アカデミー作品賞受賞作の『ムーンライト』まで、話題の作品を次々と手がけている映画スタジオ「A24」。同スタジオが放つ注目のホラー映画『X エックス』のあらすじと見どころを紹介する。
【あらすじ】3組のカップルが映画撮影に訪れたのは、史上最高齢の殺人夫婦が棲む家だった

1979年のテキサス。ストリッパー兼女優のマキシーン(ミア・ゴス)と、そのマネージャーで敏腕プロデューサーのウェイン(マーティン・ヘンダーソン)。フリーセックスを謳歌するブロンド女優ボビー・リン(ブリタニー・スノウ)とベトナム帰還兵で俳優のジャクソン(スコット・メスカディ)。自主映画監督の学生RJ(オーウェン・キャンベル)と、その彼女で録音担当の学生ロレイン(ジェナ・オルテガ)。映画製作で⼀旗上げようと野心に燃える3組のカップルは、『農場の娘たち』というタイトルの映画を撮影するために田舎の農場を借りる。
農場を訪れた6人を迎えたのは、みすぼらしい身なりの老人ハワード(スティーヴン・ユーア)。一行は宿泊場所である納屋へ案内され、マキシーンは隣に建つ母家の窓ガラスからこちらをじっと見つめる老婆と目が合ってしまう。実はここは、史上最高齢の殺人夫婦が棲む家だった。やがて6人は、想像を絶する恐怖に突き落とされる。
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【キャスト&スタッフ】インディーズ・ホラーの寵児が“新スクリーム・クイーン”とタッグを結成

本作の監督を務めるのは、音楽・美術・特殊効果に至るまで1970~80年代の低予算ホラーの手法を巧みに取り入れた映画『The House of the Devil』で高く評価されたタイ・ウェスト。今回も1979年のテキサスの田舎町と時代の空気を緻密な作り込みによって絶妙に再現し、70年代アメリカン・ニューシネマへの憧れとホラー映画への愛情を余すところなく映像に刻み込んでいる。
そしてキャスト陣も、ホラー映画界注目の新鋭たちが集結。物語の核となる女優マキシーンを演じるのは、リメイク版『サスペリア』で存在感を発揮しブレイクしたミア・ゴス。録音担当のロレイン役は、2022年のシリーズ最新作『SCREAM』で文字通り“新スクリーム・クイーン”の地位を確立したジェナ・オルテガ。他にも、『ピッチ・パーフェクト』シリーズのブリタニー・スノウや、世界的ミュージシャンのスコット・メスカディ(キッド・カディ)らが競演。「僕の映画の多くは、ホラー映画にそぐわない人間が、突然その世界にはまり込むという内容。登場人物を肉付けし、親近感を持たせれば、観客は彼らの死を望まなくなる」と語る監督の思いに応え、ホラー映画の典型的な登場人物とは違った人間的な若者像を好演している。
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【見どころ】エロスと恐怖が混ざり合った70年代ホラーの興奮が復活

本作は全米で公開されるや、ホラー界の重鎮スティーヴン・キングやエドガー・ライト監督たちが熱い支持を表明した。その魅力の要因は、タイ・ウェスト監督の70~80年代ホラーへの偏愛ぶりにある。「セックスと暴力を描く昔からのエクスプロイテーション映画のパターンを、より愛情を込めた手法で再構築することを目指した」という監督のこだわりによって、カオスのように混ざり合ったエロスと恐怖。それは2022年の今だからこそ新鮮な刺激に感じられる。『シャイニング』の名シーンを彷彿とさせるカットや『悪魔のいけにえ』と類似した舞台設定など、傑作ホラー映画の数々へのオマージュも心憎い。
そしてホラー映画といえば、個性的な殺人鬼が繰り広げる血みどろの凶行だけでなく、その恐怖におびえるヒロインたちの絶叫シーンも大きな見どころ。本作でも“新スクリーム・クイーン”のオルテガがインパクト満点の絶叫顔を披露し、昔ながらの血のりを用いるアナログな特殊効果と相まって、身に迫るリアルな戦慄を体感させる。緊迫感を増す物語の後半で、異常な興奮を盛り上げる役割を担うミア・ゴスの熱演も見逃せない。
秘密のX、極限のXTREME、快感のXTC、未知なるXFACTOR…。さまざまな“X”が交錯して濃密な興奮を醸し出す、震えるほど楽しめるホラー映画がここにある。
『X エックス』
監督/タイ・ウェスト
出演/ミア・ゴス、ジェナ・オルテガ、ブリタニー・スノウほか 2022年 アメリカ映画
1時間45分 7月8日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
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