ワークウエアから始まったリーの歴史を、名品「アメリカン ライダース101Z」とともに振り返る

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
Share:
リーの伝統を表現した「アメリカンライダース101Z ストレート」というモデル。品番は「LM5101-500」。太過ぎず細過ぎないレギュラーストレートで、股上は深め。オーガニックコットンを採用。肉厚の14.4オンス。日本で縫製されたモデル。¥13,200(税込)/リー

「大人の名品図鑑」デニム編 #2

スポーティなファッションの流行であまりスポットライトが当たらなかった「デニム」が最近、復活の兆しを見せている。考えてみれば「デニム」は永遠の輝きをもつもので、流行やブームとは異なるポジションにあるものだ。今回はそんな「デニム」の名品の魅力を追う。

そもそもジーンズに代表されるデニム衣料は、金鉱で働く労働者のために創造されたワークウエアとして始まった。オーバーオールなどのワークウエアで評判を集めたデニムブランドがリーだ。

ヘンリー・デイヴィッド・リーがアメリカの真ん中に位置するカンザス州サライナに、高級食材を扱う会社を興したのは1889年のこと。正式名称はH.D.リー・マーカンタイル・カンパニー。彼が立ち上げた会社は成功をおさめ、扱う商品もどんどん増えていったが、そのひとつにワークウエアもあった。東部のメーカーからオーバーオールなどのワークウエアを仕入れていたが、度重なる入荷の遅れに業を煮やした彼は、これでは商売にならないと自分たちで縫製工場を建てて、ワークウエアの製造に乗り出した。1911年のことだ。彼がつくった8オンスのデニム生地を使った胸当て付きのオーバーオールは、農夫や鉱夫、あるいは石炭で汚れることも多かった鉄道員たちから大きな支持を得た。

ヘンリーは成功の証として早くから自家用車を持っていた。運転手がクルマの修理をしているときに、シャツの袖をクルマの油で汚してしまった。それをヒントにヘンリーは「ユニオンオール」と呼ばれる「つなぎ」をデザインした。上着とパンツがひとつになったワークウエアで、これならば下に着た服を汚すことなく作業が行える。このワークウエアは大ヒットし、第一次世界大戦ではアメリカ陸軍のオフィシャルユニフォームとして採用されるまでになった。

ワークウエア市場でほかのメーカーを圧倒したリーが次に取り組んだのが、5ポケットのジーンズだ。しかもアメリカ人の心の故郷とも言える「ウエスタン」「カウボーイ」に着目したジーンズを目指した。実際に馬に乗っているカウボーイやロデオ選手の意見を取り入れ、1924年に「カウボーイパンツ」と名付けたモデルが発表される。翌年には紡績会社と共同で「ジェルトデニム」と呼ばれる従来のデニムよりも耐久性がある素材を開発、翌年の1926年についにリーは革新的なモデルを発表する。前開きにジッパーを採用したモデルで、ジーンズにジッパーを使ったのはリーが初めてだった。1944年には「カウボーイパンツ」が「リー ライダース」と改名され、このモデルは現在でもリーを象徴するジーンズとして多くの人に愛用されている。

---fadeinPager---

アイコン的ジーンズをブラッシュアップ

この「リー」を溺愛した有名人がいる。ジェームズ・ディーンだ。1931年、アメリカのインディアナ州に生まれ、高校時代から俳優を志し、1955年に公開された『エデンの東』で初めて主役を獲得し、完全にブレイク。その後『理由なき反抗』(55年)、『ジャイアンツ』(56年)に出演し、ハリウッドのスターダムに登りつめるが、『ジャイアンツ』の撮影終了から1週間後の1955年9月30日、自動車事故で還らぬ人となる。わずか24歳だった。

テキサスの牧場を舞台にした『ジャイアンツ』でも洒落たデニムスタイルを披露しているが、『理由なき反抗』でディーンがはいているのが「リー ライダース」。彼は大人や社会に対して反抗する若者を好演しているが、映画のなかでこのジーンズに合わせたのが、真っ赤なマックレガーのブルゾンに真っ白のTシャツ。世界中の多くの若者がこのスタイルを真似した。憂を帯びた寂しげな表情やしぐさ、彫りの深い端正な顔立ち。マーロン・ブランド、エルヴィス・プレスリー同様に、彼がジーンズを映画の中ではかなかったら、この時代のジーンズの流行はもっと遅れていただろうと言われている。プライベートでも、彼はこのモデルを愛用していたと聞く。亡くなったときにもジーンズをはいていたらしいが、それは「リー ライダース」をだったのではと思うのは私だけではないだろう。

今回紹介するのは「アメリカンライダース 101Z ストレート」というモデルだ。代表作の「リー ライダース101Z」を現代に合わせてブラッシュアップしたモデルで、シルエットは太過ぎず細過ぎないレギュラーシルエット。股上はオリジナル同様、深めではきやすい。素材には紡績から染色、敷布までオリジナルで仕上げたオーガニックコットンを採用。14.4オンスの肉厚の本格的なデニムに仕上げられ、はきこむほどに身体にフィットし、デニム生地のブルーも身体に合わせて色落ちする経年変化も楽しめる一本だ。

基本的なデザインやディテールはもとになった「リー ライダース101」と同じだ。逆つり鐘型の独特のポケットで、中心にある「レイジーSステッチ(緩やかなS字カーブという意味)」と呼ばれる曲線のステッチが独特。もちろんポケットの両端にはリーが考案したX字のステッチが施されており、ブランド名が大きく刻印されたレザーパッチと相まって、ひと目でリーのジーンズだと判別ができる。アイコンジーンズの正常進化版と位置付けてもいい正統派モデルだと断言できる、まさに一生ものの「名ジーンズ」だ。

---fadeinPager---

7.jpg

曲線的にデザインされたヒップポケットが「リー ライダース」のアイコン。ポケットのステッチも「レージーS」と呼ばれる曲線に。馬や鞍など傷つけないように、ポケット上部はリベットではなくステッチで処理されている。

---fadeinPager---

8.jpg
「アメリカン ライダース」はオリジナルの「リー ライダース」をリスペクトしながら、日本で企画されたライン。

---fadeinPager---

9.jpg
大阪にある老舗の大正紡績で、世界中から集められたオーガニックコットンを紡績したデニムが使われている。染色はデニム業界では有名な坂本デニム。このタグからもそうとうなこだわりを持ったジーンズであることがわかる。

問い合わせ先/エドウイン・カスタマーサービス TEL:0120-008-503
http://lee-japan.jp/

---fadeinPager---