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【Mr.Children特集】アートディレクター信藤三雄が、爆発的ヒット作とともに歩んだ10年間のアートワークを振り返る

  • 文:小長谷奈都子
  • 写真:内藤貞保
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Mr.Childrenのデビューから約10年にわたって、MVやジャケット制作に携わってきたアートディレクターの信藤三雄さん。当時の貴重な制作秘話を語ってもらった。

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信藤三雄●1948年、東京都生まれ。アートディレクター、映像ディレクター、写真家、書道家、演出家、空間プロデューサー。86年、コンテムポラリー・プロダクション設立。松任谷由実、ピチカート・ファイヴ、MISIAなど数多のレコード&CDジャケットを担当。著書に『新世界―信藤三雄の音楽とデザインの旅―』(玄光社刊)。


1980年代後半に音楽メディアがレコードからCDへ移り変わり、セールスも全盛期を迎えた90年代。ジャケットデザインは、音楽と一体となってアーティストの世界観をつくり上げていた。信藤三雄さんは間違いなくそのトップランナーだ。松任谷由実やサザンオールスターズなどの大物から、ピチカート・ファイヴ、フリッパーズ・ギターといった“渋谷系”まで数々のミュージシャンのアートワークを手がけ、その数は約1000以上。ミスター・チルドレンにおいても、デビューから約10年間で、他のどのアートディレクターよりも多い全38枚を担当した。

アーティストに会った時のファーストインプレッションを大切にする信藤さんだが、最初は手探りの状態だったという。信藤さんの事務所で撮影したコミック調のファーストアルバムも、ビートルズ的な香りのするセカンドアルバムもメンバー4人が並んで登場する。プロデューサーの小林武史がアートワークに携わったのは、楽曲にロックの要素が強まった3枚目の『Versus』からだ。

「これでだいたいわかってきた。ある意味、桜井くんがすべて。そして小林さんの存在が大きい。お互い信頼し合っているし、ふたりとも微妙に邦楽から影響を受けている。そのさじ加減が面白いし、売れるっていうことにつながっていったんだろうと思う」

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左:『EVERYTHING』(1992年)  右:『Kind of Love』(1992年)

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『抱きしめたい』(1992年)

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パリで撮影した、「抱きしめたい」のMV/信藤がパリで撮影したMV。セーヌ川沿いを歩きながら歌う桜井や、メンバーの自然な表情を収録。手ブレやアウトフォーカス、手書き文字の挿入でノスタルジックな雰囲気。「手書き文字を入れればなんとかなる(笑)」と信藤。

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『Versus』(1993年)/爆発的ヒットを迎える前、初期のアルバム3枚。この頃は4人が並んで登場。『Versus』初回限定盤はクリアスリーブケース付き。

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爆発的ヒットに伴い誕生した、名ジャケットの数々

シングル『CROSS ROAD』で初のミリオンセラーを記録し、次のシングル『innocent world』も大ヒット。いまにも叫び声が聞こえてきそうな印象的なジャケットはいまなお記憶に新鮮だ。自身も大きな手応えを感じたという。

「これは自分でも好きなジャケット。60〜70年代に発行された女性誌『NOVA』のアーカイブブックに、女の人がキャップを被っていてツバで目が隠れているけど口がなんか叫んでいるというのがあって、かっこいいなと。曲を聴いた時にそのビジュアルがぴったりだと思ったんです」

洋楽の名盤やアート作品を引用して、独自の作風に落とし込む手法は信藤さんの得意とするところだ。そこには、自分の中にある記憶や、過去にあったもの、歴史あるものしか信用しないというデザイン哲学がある。『Atomic Heart』では、人気絶頂の中、メンバーがジャケットに登場しない、青一色のパッケージが衝撃的だった。

「イブ・クラインの本を買って、ブルーがきれいという話を小林さんにしたのを覚えていてくれて。『innocent world』のもともとのタイトルが『innocent blue』だったと桜井くんに聞いたこともどこかに残っていたんでしょうね」

初回限定盤はブルーのプラスチックスリーブに、ブルーのCDケース、ブルーのブックレットと、ブルーがどんどん重なっていくつくり。単なるジャケットデザインにとどまらず、プロダクトとして完成度が高い作品だ。楽曲のみならず、アートワークでもこの作品がターニングポイントとなり、これ以降はよりコンセプチュアルなデザインとなっていく。

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『innocent world』(1994年)/桜井ひとり、しかも顔全体が見えないという振り切ったデザイン。青のイメージは仮のタイトルが「innocent blue」だったことに由来。裏面は同じ構図の笑った顔の上に歌詞が印刷されている。撮影は藤代冥砂が担当。

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『Atomic Heart』(1994年)/潔いデザイン。こちらも「innocent world」の仮タイトルが「innocent blue」だったことから着想を得たという。

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MVでも取り入れた、桜井にフォーカスした演出/スタジオの黒バックでギターを弾き語る桜井、白バックで演奏するメンバー、そして降りしきる雨の中フードをかぶって歌い上げる桜井の映像が入り交じる「innocent world」のMV。全編モノクロームで、映像を重ね、連写した写真をつなぐという手法が使われた。

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『Tomorrow never knows』(1994年)

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オーストラリアの草原を走る長距離列車や、グレート・オーシャン・ロードの崖で歌う桜井をヘリコプターから撮影した「Tomorrow never knows」のMV。超引きの俯瞰や360度撮影が当時はとても新鮮だった。絶景をバックに歌う姿も印象深い。

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時代性とも結びつき、よりコンセプチュアルに進化

ロック、ポップス、クラシックなどさまざまなスタイルを表現できる振り幅の大きさが信藤さんの武器だが、ミスター・チルドレンとの仕事においてはどのように進めていたのだろうか。

「小林さんと僕はわりと仲良しだったから、あんまり深く話し合わなくても、なにをやりたいかというのはなんとなくわかった。去年出した本の帯に『振り返ってみると信藤さんのプレゼンが一番カッコよかった。マニアックで多彩で攻撃的だった』って小林さんが書いてくれて。うまいこと書いてくれたなと、うれしかったですね」

理論よりはインスピレーションの人だと自認する信藤さん。「桜井くんから、アンディ・ウォーホルの電気椅子というキーワードが出てきて、海の底で上から差す光のみというような光の状況を思い描きました」という『深海』や、「砂漠で撮影するのは決まっていて、現地でオーディションをして、飛行機を飛ばして……お金がかかっています(笑)。桜井くんは東京のスタジオで撮影して、合成しました。合成がまだ一般的ではなかった時代です」という『Q』など、中身を連想させ、期待を膨らませるようなジャケットデザインの数々。曲を聴いてアイデアが閃くのかと聞いたら、「意外と言葉の人なんです」とのこと。さらに世の中のトレンドとは関係なく、自分の中のトレンドがあって、それをアーティストの世界観と結びつけてビジュアル化する。

「『花-Mémento-Mori-』はこの頃、ひび割れた大地に惹かれていたんだと思う。ロジックがまったくない(笑)。広告の人間じゃないからだろうね」

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左:『深海』(1996年)/『深海』はスタジオに空き地のようなセットをつくり、ライトの下に水槽を吊って、海の底のイメージをつくった。 右:『BOLERO』(1997年)/『BOLERO』のひまわり畑はウクライナ。
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左:『Q』(2000年)/『Q』の背景はアメリカ・ソルトレイクシティで撮影。 右:『IT'S A WONDERFUL WORLD』/(2002年)信藤が手がけた最後のアルバム『IT’S A WONDERFUL WORLD』は、ミルトン・グレイザーのポスターをサンプリング。

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水平垂直を好む信藤流デザインと、縦長判型がマッチした

信藤さんによるミスター・チルドレンのシングルは27枚。いまでは見ることのない縦長の形状だ。

「ジャケットって正方形に入らないと音楽モノっぽくならないから戸惑いはあった」と言うが、父方の祖父が植木屋、母方が大工という江戸の職人の血をひいてか、水平、垂直のきっちりした構図を好む信藤流デザインに判型がマッチして、いずれもインパクトの強い仕上がりとなっている。

自らもバンドを結成し、「音楽を愛しているから、音楽がすべて」という信藤さんが、ミスター・チルドレンとの仕事を振り返って改めて思うことはなんだろうか。

「楽しかった。グラフィックデザインの仕事はアーティストや時代のアイコンをつくること。長いこと担当したから、一連の流れのなかでビジュアルをつくり上げていけたのがよかったと思う」

 ミスター・チルドレンの代表的な“アイコン”をいくつも世に放ち、時代の空気感と並走しながら、そのイメージを打ち立てたそのアートワークは、後に続くアートディレクターたちの指針となっていることは間違いない。

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左:『everybody goes-秩序のない現代にドロップキック-』(1994年) 右:『名もなき詩』(1996年)

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左:『花 -Mémento-Mori-』(1996年)  右:『Everything (It's you)』(1997年)

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左:『ニシエヒガシエ』(1998年)  右:『I’LL BE』(1999年)

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※この記事はPen 2022年7月号「Mr.Children、永遠に響く歌」特集より再編集した記事です。