日本を代表するアートディレクター大貫卓也のアイデアとデザインが凝縮された、全仕事集『新装版 Advertising is』

  • 文:室賀清徳

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『新装版 Advertising is:TAKUYA ONUKI Advertising Works (1980-2020)』 大貫卓也 著 CCCメディアハウス ¥12,100 

2017年に刊行されるやいなや完売となり幻の一冊となっていた大貫卓也の『Advetising is』

(グラフィック社)が、このたび新装版として刊行された。原著は採算を度外視したようなボリュームで再刊が難しいと思われていただけに、新装版の登場はうれしいニュースだ。新装版では原著ではカバーしていなかった2011年以降の仕事についても増補されていて、さらに充実している。

1980年代の初頭にキャリアを開始した大貫は、「としまえん」の広告をきっかけに注目を集め、それまでの業界の常識を打ち破る斬新な仕事を続々と発表していった。90年代の日清カップヌードルのCM「hungry?」やペプシコーラのペプシマン、2000年代のソフトバンクのCIや資生堂のTSUBAKIのCMなど、大貫の仕事はこの四半世紀の時代の記憶と深く結びついている。

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大貫の広告は、広告産業が20世紀を通じて確立してきた理論やフォーマットに追随することなく、むしろそのフォーマットを含めた社会のコミュニケーションの構造を利用してしまうところにその革新性があった。デザイナーの木村恒久の言葉を借りれば、大貫の広告は見る者をシンボル作用による「広告ごっこ」に巻き込み、広告の「再神話化」を実演するのである。それゆえに大貫は20世紀日本広告史上最強の広告制作者となった。

しかし、大貫はその立ち位置と引き換えに、20世紀的なマス広告の最後に立ち会うアイロニカルな役割も引き受けることにもなった。いまや広告は徹底したデータの世界に回収され、それっぽい「デザイン」や「ブランディング」によって表面的に処理されているようにみえる。大貫はアートディレクター服部一成との対談のなかで、本書はそのような状況に対するカウンターパンチである、と発言している(*)。

本書では各プロジェクトのプロセスが失敗や反省も含めて詳細に解説され、かつての広告に(結果として)内包されていた作り手と受け手それぞれのための余白を伝える。だが、それは同時に、大貫が抱える最大のジレンマも浮かび上がらせる。つまり、大貫という個人が広告の向こうに構想する企業のビジョンと、組織としての企業の動きにどこかで必ずズレが生じるのだ。本書の解説でそのズレや矛盾を取り繕わないところに、大貫の広告技術者としての矜持が示されている。

実際のところ、近年の「デザイン思考」をはじめとする新しい動向は、そのようなビジネスとデザインのズレをなくそうというものだ。だが、現代の街頭やネットの広告風景からも分かるように、そのような動向はまた、世の中を均質化に向かわせている力と表裏一体でもある。大貫がいらだつのは、現代の個々の広告のつまらなさではなく、人びとの思考や行動を無言で支配する世の中のメディア構造そのものについてなのだ。

それゆえに大貫は『Advertising is』というプロジェクトにあたって、その構造を突き抜け、時間の試練に耐えるメディアである書物という形態を選択したのだろう。書物は時間の試練に耐え、瞬間的な情報の共有と消費のサイクルに抵抗するメディアだからだ。大貫の広告の特徴のひとつはシンボルやスタイルの自在な引用・参照にあるが、本書は書物という形式を引用して広告という形式のもつ可能性を伝える、広告のための広告なのである。

*参考文献
「大貫卓也 × 服部一成|対談――広告ってこんなにも面白くて、むずかしいものなんだ。」

【執筆者】

室賀清徳●編集者。武蔵野美術大学、東京藝術大学非常勤講師、ミームデザイン学校講師。2002年~2018年、元雑誌『アイデア』編集長を務め、現在、Webサイト『The Graphic Design Review』(JAGDA)編集長。近年、編集・監修を手がけたものに『来るべきデザイナー』『グラフィックデザイン・ブックガイド』『作字百景』(すべてグラフィック社)などがある。