“日本人アーティスト”が参加した、東京オリンピック動画がブリティッシュアカデミー賞を受賞!

  • 文:長谷川安曇

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受賞した動画作品の一場面。BBC-YouTube

英国アカデミー賞が4月にロンドンで開催され、BBC(英国放送協会)の東京オリンピックのトレーラーフィルムが、テレビジョン・タイトルズ・グラフィック・アイデンティティー部門で受賞した。

この映像作品は、富士山や聖火ランナーが描かれたマンホールから始まって、「すすめ」という道路表示、商店街にゲームセンターにガチャガチャなど、次々とテンポよくノスタルジックな場面へと変わり、日本の文化的要素がぎっしり詰まっている。ガチャガチャの中身は、英国の陸上選手、カタリーナ・ジョンソントンプソンのフィギュアなど、芸が細かい。街のネオンやアイドルなど日本のポップカルチャーが散りばめられた、見ていて楽しいハイクオリティな作品だ。

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【動画】受賞したオープニングビデオ

幻想的でどこか懐かしい雰囲気が漂う、BBC制作の東京オリンピックのトレーラー。2021年夏に放映された。

同プロジェクトには、BBCのクリエイティブチームをはじめ、 高度な視覚効果とアニメーションで知られる「ファクトリー・フィフティーン」や、芸術的なライブアクション映像の制作などで知られる「ネクサス・スタジオズ」など、多くの著名な制作スタジオが携わっているが、アートディレクターとして参加したのは、日本人アーティストのファンタジスタ歌磨呂だ。極彩色を用いて、独創的な世界観を築くスタイルで一世を風靡し、アートディレクターやデザイナー、イラストレーターなど多岐にわたって活躍する。ゆずやでんぱ組.incのアートワークにファレル・ウィリアムスのミュージックビデオ、ファッションデザイナーとのコラボや展覧会といった輝かしい経歴から察して若い頃から才能にあふれていたように感じるが、実は人一倍苦労して、今の地位を築いた。

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ファンタジスタ歌磨呂とは?

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ファンタジスタ歌磨呂。

ファンタジスタ歌磨呂は、決して「普通」とは言えない、家庭環境に育つ。少しシャイだったこともあり、絵を描くことで友達をつくったり、引越しが多かったため、友達に「お別れ」の代わりに絵をプレゼントしたりと、「絵を描くこと」がコミュニケーションのツールだったこともあるという。

宮崎駿監督の作品が大好きで、VHSのテープが擦り切れるほど、 何度も見た。「自分を救ってくれた日本の文化や、大好きな絵に恩返しがしたい」そんな気持ちから多摩美術大学テキスタイルデザイン学科へ進学。日本の素晴らしいカルチャーを海外で伝えたい、才能あるアーティスト達と大きな舞台で創作したいと感じ、2014年に拠点をニューヨークに移す。

言語の壁や、激しい競争社会を肌で感じ、ビジネス面で騙されたことも何度もあり、日本への帰国を考えたことも。そんな時、「ネクサス・スタジオズ」から声がかかり、「日本のポップカルチャーに対する愛を、世界の舞台で表現できる機会」と捉え、同作品に参加することになった。

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英国アカデミー賞受賞時のチームの様子とスピーチ。

「アートディレクターとして関わるにあたり、世界からみた日本、日本から見た日本、そのバランスをどう取るべきか試行錯誤しました。ずっと日本の文化に対して尊敬の念をもって生きてきました。 今回の受賞はずっと鞭を打ち続けてきた自身の人生に対するご褒美になりました」と、コメント。

海外留学や移住する日本人は、パンデミックの影響もあり、年々減少していると言われるが、慣れない土地で戦い、世界の舞台で挑戦した、日本人アーティストに拍手を送りたい。

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英国アカデミー賞受賞時に、スピーチのため登壇するチームの面々。

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BBCの東京オリンピックのオープニング制作に携わったチームの集合写真。