アメリカの気鋭のアーティスト、ラシード・ジョンソンとは? エスパス ルイ・ヴィトン東京で個展が開催中

  • 文・写真:はろるど

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シード・ジョンソン『Plateaus』(2014年) 579.1×457.2×457.2cmもの巨大な構造物によるインスタレーションが、エスパス ルイ・ヴィトン東京のガラス張りの空間に展示されている。

ルイ・ヴィトン表参道ビル7階に位置するエスパス ルイ・ヴィトン東京。ビルの建ち並ぶ街を眼下に望み、まるで空に浮かぶようなガラス張りのスペースでは、2011年のオープンからさまざまなコンテンポラリーアートの展覧会が開かれてきた。そしていま、ジャングルジムのような黒いスチールキューブによる構造物と、数多くの観葉植物、それに彫刻や陶器などからなるユニークな『Plateaus』と呼ばれる作品を展示しているアーティストがいる。

それがシカゴで生まれたアメリカ人のラシード・ジョンソン(1977年〜)だ。シカゴ美術館附属美術大学で写真を学ぶと、2001年に発表した初の写真作品シリーズが、ポスト公民権運動世代の一翼を担う「ポスト・ブラック」として大きな評判を呼ぶ。「ポスト・ブラック」とは単なる「黒人アーティスト」として括られることを拒み、自らのアイデンティティの複雑な再定義を要求するクリエイターたちのことで、ジョンソンもアメリカとアフリカといった自らのルーツや政治や哲学、それに文学などをテーマに織り交ぜた作品を発表してきた。

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『Plateaus』の内部から。白い石膏のような像がシアバターによる彫刻。ジョンソンはアフリカ原産で石鹸やクリームなどに配合されるシアバターについて、「体に塗ること、そして、それを塗ることでアフリカ人らしさの獲得に失敗することを物語ります。」と述べている。
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『Plateaus』の中に置かれた無線機。このほかに書籍や陶器、それに絨毯なども作品に取り入れられている。

『Plateaus』とはどのような作品なのだろうか。植物とともに並べられたオブジェに注目したい。そこには自らペイントした陶器の鉢をはじめ、西アフリカ諸国原産のシアバターにて作られた彫刻、またアメリカの黒人の小説家リチャード・ライトの長編小説『Native Son(邦題:アメリカの息子)』といった文学、さらに無線が趣味だった父親への思い出を呼び起こすアマチュア無線機器などが点在している。いずれも自身と家族といった個人の物語やアフリカの文化や歴史に由来するもので、それらがパズルのように組み込まれている。

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『Plateaus』を別の角度から眺めてみる。通常、同じ環境で育たない観葉植物も設置されていて、水やりなどは専門のスタッフがケアしていくという。

『Plateaus』はある意味で自画像であり、すべての素材が異種混合するためのプラットフォームであると定義するジョンソンは、「あの作品群は常に私と共に生きてきました。その中にあるすべての本、すべての有機的な素材…。それらはすべて、私が長い間関わってきたシニフィアン(記号表現)であり、道具です。」としていて、「自画像とは同じ経験を持った誰かの自画像でもある」とインタビュー映像にて語っている。作家の自画像を反映しながら、素材や歴史的引用を混ぜ合わせ、植物の生育ともに作品そのものも日々すがたを変えていく『Plateaus』。そこに込められたジョンソンの意図を解きほぐしながら、社会や人種を超えたアイデンティティのあり方について考えたい。

『ラシード・ジョンソン 「Plateaus」』
開催期間:2022年4月27日(水)〜9月25日(日)
開催場所:エスパス ルイ・ヴィトン東京
東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル 7階
TEL:03-5766-1094
開館時間:11時~19時
休館日:ルイ・ヴィトン 表参道店に準じる
無料
https://www.espacelouisvuittontokyo.com