【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『秀和レジデンス図鑑』
青い瓦屋根と白い塗り壁、アイアンの柵のバルコニーでお馴染みの南欧風マンション、秀和レジデンス(以下、秀和)は、東京を中心に北海道から福岡まで134棟が現存する。大半は1960~80年代に建てられたもので、近年はヴィンテージマンションとしての人気が高まっている。
本書では、秀和の大ファンである著者ふたりが、その歴史から物件の特徴、居住者の部屋までを膨大な写真とともに徹底解説する。
まず驚くのは、物件ごとにタイルの並べ方や壁の塗り方が異なっていること。統一規格はなく、それぞれの現場でつくりあげたディテールはどれも実に個性的だ。
散歩中に秀和を観察しているうちに夢中になり、全国にある大半の物件に足を運んだという著者のひとり、hacoはこう語る。
「本書の取材で設計に関わった方の話を訊き、コスト重視ではなく、人が快適に暮らしてほしいという想いを込めて建てられたマンションだとわかりました」
各章では、住民たちの実際の暮らしぶりも紹介しており、思い思いのインテリアに囲まれた室内の様子がよくわかる。
「住人の人となりがわかるよう、トイレやキッチンなどにも踏み込んで取材しています」と解説するのは、もうひとりの著者である谷島香奈子だ。
読めば読むほど、自分が住むとしたらどこの秀和か、部屋はどんなインテリアにしてみたいか、と妄想が膨らむ。著者のふたりにも訊いてみた。
hacoは、「ほぼ竣工当時のまま残る港区青南や渋谷区参宮橋の秀和で、ミッドセンチュリーモダンなインテリアにして住みたい」と話す。谷島は、「中央区新川の秀和に住んで下町の温かさに触れながら、隅田川の眺望に未来への活力をもらいたい」とのこと。
建築好きにも住みたい人にも、ほしい情報がつまった一冊だ。
※この記事はPen 2022年6月号より再編集した記事です。