映画『カモン カモン』は監督の実体験から生まれた、未来を担う子どもたちの物語【今月の映画3選】

  • 文:細谷美香(映画ライター)
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今月のおすすめ映画① 監督の実体験から生まれた、未来を担う子どもたちの物語

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マイク・ミルズ監督はこれまで、父親との思い出を描いた『人生はビギナーズ』、母親との関係をひも解く『20センチュリー・ウーマン』などパーソナルな感触の作品を発表してきた。新作の『カモン カモン』は、父親となった彼が子育て中に感じたことをもとにした作品だ。監督は自分が観察したことや体験したことを「完璧なフィクションではなく、ほとんどジャーナリストのような感じで脚本を書くのが好き」だという。

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マイク・ミルズ監督が『20センチュリー・ウーマン』に続いて、映画スタジオA24とコラボレーションをした新作。映画作家でアーティストのミランダ・ジュライとの間に授かった子どもを育てた経験がもとになっている。

彼が描くのは、9歳の甥の面倒を見ることになった男の戸惑いと発見をめぐる物語。日々の暮らしのなかのきらめく奇跡のような瞬間をモノクロの映像ですくいとった理由について、「子どもをお風呂に入れて、一緒に寝て、ごはんを食べる。すごくありふれたことだけれど、白黒にすることで日常生活から切り離して“物語”として提示できると思った」と語る。

ラジオジャーナリストとしてアメリカ各地を飛び回りながら働く主人公をホアキン・フェニックスが演じ、子どもたちにマイクを向け、その声に耳を傾けるドキュメンタリータッチの場面もある。「未来やいまの生活、世界に対する解釈について、大人に尋ねるように聞いてみました。子どもたちは非常にインテリジェントで、同時に自分のか弱いところも見せられる。大人のように縛られた発想がなく、自由なのです。これも知性のひとつの形だと思います」

叔父と甥との距離が縮まっていく小さな物語と、世界の未来を担う子どもたちに想いを馳せる大きな物語。この映画にはそのふたつがごく自然に同居している。

「僕は父親になったことで、これまでよりさらに遠い未来まで見つめるようになり、しかも未来を懸念するようになりました。子どもを愛していたら政治とのつながりを感じるし、世界の暴力や歴史について考えないわけにもいかなくなると思っています」

『カモン カモン』

監督/マイク・ミルズ
出演/ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマンほか
2021年 アメリカ映画 1時間48分 TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画② シリアルキラーの狂気に、引きずり込まれていく怪作

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© 2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会

鬱屈した日々を送る大学生、雅也のもとに送られてきた連続殺人鬼からの手紙。彼が起こした事件のうちの一件が、冤罪であることを証明したいという。雅也は、真犯人探しをはじめるが……。『凶悪』『孤狼の血』の白石和彌監督が、阿部サダヲ主演で櫛木理宇の同名小説を映画化。恐れを知らぬ残酷極まりない描写と、役者陣の真剣勝負を引き出す監督の手腕は本作でさらなる高みへ。シリアルキラーの狂気が観る者の心をじわじわと侵食し、引きずり込んでいくかのようなサイコサスペンスだ。

『死刑にいたる病』

監督/白石和彌
出演/阿部サダヲ、岡田健史ほか
2022年 日本映画 2時間9分 5月6日より新宿バルト9ほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画③ フランス映画界の名匠が紡ぐ、愛と孤独と欲望をめぐる群像劇

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© ShannaBesson © PAGE 114 - France 2 Cinéma

多彩な題材で生命力あふれる人間ドラマを紡いできたジャック・オディアールの新作は、女性監督らとともに脚本を手がけた恋愛群像劇だ。台湾系フランス人のエミリー、アフリカ系のカミーユ、大学に復学したノラと元ポルノスターのアンバー・スウィート。高層住宅が立ち並びアジア系の移民も多く暮らすパリの13区で、ひとりの男と3人の女の愛と孤独、欲望が絡み合う。艶やかなモノクロの映像で描かれる、性によってつながりながら、その先へと向かおうとする者たちの姿が愛おしくなる。

『パリ13区』

監督/ジャック・オディアール
出演/ルーシー・チャン、マキタ・サンバほか
2021年 フランス映画 1時間45分 新宿ピカデリーほかにて公開中。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

※この記事はPen 2022年6月号より再編集した記事です。