レクサスRZプロトタイプで、クルマの未来がすこし見えた

  • 文:小川フミオ  
  • 写真:Lexus International提供

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EVに特化したブランドになると宣言しているレクサスが、2022年4月に、もうすこししたら発売予定というピュアEV「RZ」を公開。話題を呼んでいる。走りのよさを追求すると謳うレクサスだけに、どんなクルマになるだろう。

市販前のプロトタイプ(試作車)に、私は4月にテストコースで乗せてもらった。結論的にいうと、かなりいい。レクサスはEVを確実に進化させていると感心する出来映え。

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曲がるのが楽しいレクサスならではの走りが体感できる

RZは、EV専用のプラットフォームを使い、前後にモーターを搭載した全輪駆動となる。まず目をひくのがスタイリングだ。従来レクサス車のアイコンだった「スピンドルグリル」は廃止。かわりに、ボディ面を使ってスピンドル(紡錘)を表現した「スピンドルボディ」という大胆なデザインを採用した。

「私はこれまでレクサスUX300e(というピュアEV)の開発も担当していました。今回のRZではその経験を活かし、レクサス・ドライビングシグネチャーと呼んでいる、レクサス車ならではの味づくりを徹底的に追求しました」

RZプロトタイプの試乗の場で出会った、製品企画の渡辺剛チーフエンジニア。RZのとりまとめを担当しているひとだ。UX300eもスムーズなハンドリングでよく出来ているが、レクサス初のBEV(バッテリー駆動のピュアEV)専用車でもって、さらに走りの進化を見せていきたいと、熱い調子で語ってくれた。

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LEDによるコンビネーションランプが一文字になっているのはお金がかかっている

走らせてみて、印象ぶかかったのは、スムーズさだ。加速も、カーブを曲がるときや車線を変更するときのいわゆるハンドリングも、ブレーキペダルを踏んでの減速も、あらゆる点において、いっさいのギクシャクさも唐突さも感じられない。

さきの渡辺氏は「ナチュラル」という言葉を使う。ドライバーがそう感じる操縦性が開発の目標といえるそうだ。なるほど、まだ「完成とはいえない」プロトタイプとはいえ、今回のRZは、運転するひとの感覚に忠実に、そして気持ちよく、一体感をもってクルマを走らせることができることをめざしたという目標をほとんど達成しているといえる出来だ。

AQ2I0836.jpegドライバーの意図に忠実な走りのコンセプトはThe Naturalだそう

RZにおけるメカニズム的な特徴が「DIRECT4(ダイレクトフォー)」と名づけられた前後輪の駆動力制御技術だ。これが肝となる技術。走りに応じて前後のモーターへのトルクを調節する。それによって、たとえば気持ちよく加速したり、カーブを曲がりやすくしたり、車体が不快な上下動をしたりしないようにする。

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フロントにはモーターやインバーターがコンパクトに一体化された150kWの「eAxle(イーアクスル)」が搭載される

モーターはフロントに150キロワット、リアに80キロワット。レクサスならではのスペックスだ。組み合わせる駆動用バッテリーの容量は71.7キロワット時と、けっこう大きい。そのため一充電あたりの走行距離は約450キロ。同時に、パワー感もしっかりある。

発進加速も、追い越しでの加速も、ぐーっとクルマが押しだされていくような気持ちよさ。加速や路面の状況に応じて、前後の駆動力配分は100対0から0対100までつねに変わるそうだ。

カーブに入っていくときは、前後の駆動力を75対25から50対50までのあいだで調整。出ていくときは、直線に向けて後輪が車体を力強くプッシュするように、50対50から20対80となる。「スッとクルマが曲がる気持ちよい旋回フィーリング」のためという。

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新しい意匠の「スピンドルボディ」がよくわかるカット

じっさいにカーブでは、その曲率(大きさ)に関係なく、路面に張り付くようにすいっと曲がっていける。すぐに大きなトルクを出せるモーターのおかげで、アクセルペダルの踏みこみにも敏感。すいいっすいっと、カーブが連続する道も得意げにこなしてしまう。

同時に、感心するのは、乗り心地のよさだ。これもモーターとそれにブレーキが”いい仕事”をしてくれる。たとえば、発進時。一般的に、アクセルペダルを踏みこみすぎたばあい、後輪に駆動力がかかりすぎると、フロント部分が浮きぎみなる。追い越し加速でも同様の傾向がある。

RZではそれを駆動力制御と、ブレーキ制御で抑える。結果として、つねに車体の姿勢は乱れることがない。自動車の世界では”フラット”と評価される。上質な乗り心地だ。

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ブレーキは前後回生協調を実現する新加圧ユニットを採用し、効きがよく、違和感のないフィーリングを与えられている

ブレーキペダルを足で踏んだときの、車速の制御もナチュラル。BEVだと、微細なトルクのコントロールがむずかしい場面がある。そこで制動の際、ドライバーの予想より、ほんの少し力が出たり、あるいは踏みこみに対しての制動力が不足、と感じてしまうことも。結果、”この線で止まろう”と思っていても、手前だったり少しオーバーぎみになったり。そんな気がする場面に遭遇する。

RZプロトタイプは、すっと、望んだとおりの位置に止まってくれる。この自然な感覚、かなりいい。クルマとドライバーが、あらゆる場面で”対話”できているかんじで、ホント、シャシーの制御技術が高いと感心した。

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正式車名は未発表であるものの、こんなプラックがプロトタイプの車体に

RZは、まず今回のプロトタイプを完成させて、量販車として発売されるだろう。そののち、「ステアバイワイヤ」という新しい技術を採用した仕様が追加される予定だ。

ステアバイワイヤとは、「ドライバーと一体になった走りを実現するため」とレクサスが言う技術で、ステアリングホイールを操舵すると歯車で前輪を動かすような従来の物理的な機構とは一線を画している。

ステアリングホイールを動かすと信号が出て、前輪を切るためにモーターが作動するのが、ステアバイワイヤ。RZでは飛行機のそれを思わせる変型のステアリングホイールが予定されている。円形にしないのは、左右150度だけで、従来と同じ操舵ができるから。腕を振るぐらいの感覚だ。

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ステアバイワイヤだとステアリングホイールをぐるぐる円形である必要がなくなる

私は以前、このシステムをレクサスの別のプロトタイプで試すチャンスをもらったことがある。ひとことでいって楽チン。これを一度運転すると、従来の円形のステアリングホイールをぐるぐる回すのが、ホント、かったるくなってしまう。オソロシイほどの技術だ。

2035年にはグローバルでBEV100パーセントの販売をめざすというレクサスは、「Lexus Electrified」のスローガンの下、着々と新世代のBEVの開発を進めているという。その成果が早くも出ていると私は感じた。

RZ(プロトタイプ)で垣間見えるクルマの”未来”は、いままでとまったく違う世界になりそう。このクルマと、そしてその先まで楽しみと思わせてくれるクルマなのだ。

AQ1I0871.jpeg躍動感ある立体的なボディの造型が特徴的

Specifications
全長×全幅×全高 4805x1895x1635mm
電気モーター×2 全輪駆動
フロントモーター150kW(トルク未発表)
リアモーター 80kW
バッテリー容量 71.4kWh
一充電走行距離 約450km