映画『流浪の月』のあらすじと見どころ。広瀬すず&松坂桃李の競演で織りなす“許されない2人”の運命

  • 文:上村真徹

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©2022「流浪の月」製作委員会

2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうのベストセラー小説を、広瀬すずと松坂桃李の主演で映画化した『流浪の月』のあらすじと見どころを紹介する。

【あらすじ】“誘拐犯”と“被害女児”。15年後に再会した2人の運命が動き出す

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女児誘拐事件の被害者として世間の注目を浴びた更紗は、事件から15年後、誘拐犯だった文と再会する。©2022「流浪の月」製作委員会

2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうのベストセラー小説を、『怒り』の李相日監督が映画化。世間を大いに騒がせた小学女児誘拐監禁事件の誘拐犯と被害者が交わす絆を、広瀬すずと松坂桃李を主演に迎えて織りなす映画『流浪の月』が5月13日から劇場公開される。

15年前に世間を騒がせた大学生による小学女児誘拐監禁事件で被害者となった家内更紗(広瀬すず)。今はある地方都市のファミレスでバイトをしながら、恋人の中瀬亮(横浜流星)とマンションで静かに暮らしていた。そんなある日、パート仲間の安西佳菜子(趣里)に連れられてカフェに立ち寄ったところ、マスターらしき男を見て思わず息を呑む。その男は、かつて自分を誘拐した佐伯文(松坂桃李)だった。

やがて更紗の脳裏に、15年前に文と出会って彼のアパートで過ごした日々が蘇る。父を亡くして母にも去られ、伯母の家に引き取られた更紗が公園でびしょ濡れで佇んでいたところ、19歳の大学生・文が傘をさしかけてくれた。伯母の家に帰りたがらない更紗の意を汲んだ文は、更紗を部屋に入れてそのまま2カ月間一緒に過ごす。そこは、伯母の家で孤独と苦痛を感じていた更紗にとって、初めて得た心の底から安心できるかけがえのない場所だった。しかし文は更紗の誘拐罪で逮捕され、文は“誘拐事件の加害者”、更紗は“傷物にされた被害女児”という烙印を押されてしまう。

再会後、文が自分のことに気づいているか分からないまま、店にたびたび立ち寄る更紗。そんな更紗の行動の変化に気づいた亮は、彼女の行動をチェックするようになる。一方の更紗も、文の傍らに寄り添う看護師・あゆみ(多部未華子)の存在に気づいてしまう。

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【キャスト&スタッフ】若き名匠・李相日の元に日本と世界の才能たちが結集

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広瀬すずと李監督は『怒り』以来7年ぶりのタッグとなる。©2022「流浪の月」製作委員会

文学界で高い評価を受けた傑作小説を映画化したのは、人間の善と悪の両面を描いた『悪人』や『怒り』を筆頭に、エモーショナルかつ骨太な作風で衝撃を与えてきた李相日監督。「魂と魂の未来永劫揺るがない結びつき。そんなものはこの世界に存在しないのかもしれません。けれど、まずは信じてみる。この物語を信じる。更紗と文、二人の息遣いを信じてみる」という言葉通り、世界の片隅で生きる男女のパーソナルな物語を丁寧に描いている。

元・誘拐犯と元・被害女児という十字架を背負った“許されない2人”を演じるのは、国民的女優としての地位を確立した広瀬すずと、『孤狼の血』『新聞記者』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞と主演男優賞を2年連続で受賞した松坂桃李。また、更紗の現在の恋人を横浜流星が、文に寄り添う看護師のあゆみを多部未華子がそれぞれ演じ、新境地を見せている。

さらに、李監督作品に新しい血を注入するクリエイターとして、『パラサイト 半地下の家族』『バーニング 劇場版』など韓国映画の傑作の撮影を手がけてきたホン・ギョンピョが参加。美しい自然をふんだんに取り込み、繊細な人間ドラマにとびきりの叙情を添えている。『キル・ビル Vol.1』など、美術で世界を股にかけて活躍する種田陽平らも加わっていて、国を越えた才能の競演も見どころと言えよう。

キャスト

広瀬すず
松坂桃李
横浜流星
多部未華子
趣里
三浦貴大
白鳥玉季
増田光桜
内田也哉子
柄本明

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【見どころ】「魂と魂の結びつきを信じたい」という思いに駆られた李監督の新境地

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原作と異なり大人の更紗を主軸に語り、過去と現在を連結させながら更紗と文の宿命を印象づけていく。©2022「流浪の月」製作委員会

本作のキーポイントとなるのは、原作を読んだ李監督が「いらないものはいらない、自分たちにはこの人さえいればいいという到達の仕方」に不思議な清々しさを感じたという、更紗と文の関係。俳優たちから何かが生まれる瞬間を待ってひたすらテイクを重ねることで、数奇な形によって育まれた特別な感情を写し撮り、誘拐犯と被害女児という社会的なレッテルとは違った2人の深い絆を豊かに具現化している。

そうして出来上がった映像は、いつもの“李節”を思わせる重厚で雄大なものでありつつ、ロマンティックな空気が流れている。これまで数々の作品で人間の欲や業を浮き彫りにしてきた李監督をこうした新境地へと導いたのは、『怒り』で到達した地点から"横"にフィールドを移したいという思いと、原作を通じて抱いた「魂と魂の未来永劫揺るがない結びつきを信じたい」という願い。『バーニング』の系譜に連なる繊細な人間ドラマを欲していた撮影監督のホン・ギョンピョのサポートを得て、主演2人の息づかいが感じられる魂の叙情詩へと昇華させている。

年齢も国籍も異なるスタッフやキャストがそれぞれの才能を人間臭くぶつけ合い、ワンカットごとに魂が刻まれた繊細な叙情詩。恋愛、友情、家族愛…そんなありふれた言葉では括れない、世間の枠からはみ出した2人の稀有な結びつきを見届けたい。

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予告編

『流浪の月』

監督/李相日
出演/広瀬すず、松坂桃李ほか 2022年 日本映画
2時間30分 5月13日(金)全国ロードショー

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