レクサスが作りあげた「LX」は 走破性も快適性も段違いだった

  • 文:小川フミオ
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SUVの高級化がとまらない。日本の代表選手といえるのが、2022年1月に発売された「レクサスLX」。感心するのは、悪路での取り回しのよさと、リムジンのような居住性がともに追求されていること。これからの高級車の先駆けなのか。

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ダンパー取り付け位置をロアコントロールアームより外へ配置し、取り付け角度を車軸の動く角度に合わせたことで、タイヤの上下動に追従しやすくなり、減衰効果により、路面からの振動を吸収しやすくなった

LXは、いわゆるSUV(スポーツ多目的車)と一線を画している。ここがユニークな点だ。レクサスだから(と思っているのは私だけ?)ぜいたく仕様のSUVかと考えていると、案に反して、ものすごく機能が高い。いちど悪路で乗ると、その性能にびっくり。ずっと印象に残るほどだ。

4代目(日本では2代目)になったLX。新しいデザインテーマを与えられたグリルがまず目をひく。輪郭が織物の紡錘(スピンドル)のイメージゆえ、スピンドルグリルと名づけられたテーマは、新型LXにも引き継がれるものの、横バーが太くなったのが印象的だ。

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ドライブモードに併せて減衰力を調整する電子制御ダンパーや静粛性の高い仕上げでオンロードはじつに快適

3列シートの「LX600(ベースグレード)」と4人乗りの豪華仕様「LX600エクスクルーシブ」がクローム仕上げのグリル。中間グレードにあたる日本専用「オフロード」はグリルがブラックに。

モノの機能は、いうまでもなく、市場のニーズと歩を一にする。クルマも、大きくとか速くとか快適にとか、ユーザーの声に、メーカーは(いちおう)耳を傾けてきた。ばあいによっては、”たしかにこれが欲しかったんだ”とニーズを創出することも。

クルマは、いっぽうで、人間の願望が”進化”をうながしてきた面をもつ。いい例が、オフロード車。砂漠や岩山を走ることで、自分の身体機能が拡張した気にさせてくれる。戦前から、砂漠などは、クルマ開発者にとって格好の実験場でもあった。

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シトロエンではさまざまなクルマを開発して悪路走破性を試したのが有名なエピソード

もっとも有名なもののひとつは、仏シトロエンの「巡洋艦隊 La Croisiere」シリーズ。1920年代に、アフリカと中央アジアの道なき道を、隊列を組んだクルマで走破。その”伝統”のようなものは、いまも続く砂漠のダカールラリーなどに引き継がれている。

トヨタ(トヨタ車体)も、ダカールラリーの常連。1995年から参戦し、「チームランドクルーザー」は2011年いらい、一貫して市販車部門で1位を獲得しているほどだ。ラリーが欧州で高い人気を誇っているのは、意識的にせよ無意識的にせよ、クルマの走りの向こうに、自分の身体能力の拡張性をみているのかも。

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サスペンションアームがよく延びることこそ、悪路での接地性確保のために重要

レクサスLXで、悪路を走ってみて、私は上記とおなじようなことを感じた。路面は、砂利にはじまり、大きめの石、もっと大きな岩、さらに、すべりやすい泥。道幅は狭くて、さきの見通しがききにくい上り坂や下り坂。これらが連続するコースをドライブしたのだ。

LXは3輪が浮いてしまうような路面でも、1輪だけ地面に接していれば、ぐぐぐっと力を出して、超えていってしまう。さらに驚かされたのは、意外なほどの快適さ。でこぼこ道を越えていっても、ゆっさゆっさと乗員が揺さぶられることがない。

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悪路走行ではレクサスのオフロードのTAKUMI、上野和幸氏がデモ走行を披露してくれた

さらにいえば、終始しずかであり、ステアリングホイールの感覚がしっかりあるのも、本格的なクロスカントリー型4WDとしては異例といえるほど。電子制御によるエアサスペンションが装着されているのだが、その調整機構が動く音(プシュプシュとかいう)もきれいに消されている。

電子制御技術はさまざまなものが採用されて、悪路での取り回しをよくしている。たとえば「マルチテレインモニター」はカメラを使って、どんな路面の上を走っているか車内のモニター画面に映し出してくれる。ドライバーの肉眼ではぜったい見られない映像で、キツい悪路では安心感につながる。

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上のモニター左側の画面で黄色く表示されているのが後輪がとるであろう軌跡(内輪差がわかる)

走行中にモニター上で、車両の側面の状況をリアルタイムで観ることもできる。とくに後輪が通るであろう軌跡がわかるのはせまい道でありがたい。脱輪したり、内輪差を無視してうっかりなにかを巻き込むことが避けられる。

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悪路では車両の状況が細かくわかるようになっているモニターがありがたい

開発者はたいへんな思いをしただろうことは、容易に想像できる。とりわけ、「ぜひ試して」と勧められて、私は「LX600 EXCLUSIV E」なるモデルの後席に乗りこんだときだ。

ラウンジチェアのように、48度まで大きくリクライニングするシートが装備されている。それをめいっぱい寝かせて、安眠するエグゼクティブのふりをしながら(笑)、なんと悪路を走ったのだった。

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LX600 Execuctiveではセンターアームレストのモニター操作で後席左側のシートが最大48度まで大きくリクライン可能

乗員を寝かせたまま悪路を走るというのが、新型LXの究極の目的(のひとつ)だったようだ。どんなときにこういう状況が生まれるのか。そこは不問に付しても、岩場だってふわりふわりというかんじでこなしてしまうLXの快適さに感心させられた事実は記しておいていいと思う。

見かけはゴツくても乗用車とおなじモノコックというボディ構造をもち、快適性と高速性能を追求している昨今のSUV。LXは、これらとは一線を画す。

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大型のモニターを2つそなえることに加え機能が満載のコクピット

本格的4WD車の証明ともいえるペリメーターフレームに、固定式のリアサスペンションなど、機能性が追求されている。これらと、電子制御ダンパーをうまく使ったりと、開発者によるセッティングが、きれいに合体。その結果がLXなんだろう。

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ホワイトの内装も用意されているところがレクサスのレクサスたるゆえん

レクサスには、TAKUMI(匠の意か)と呼ばれる味つけのエクスパートがいる。新型LXには、オフロードでの走りの味を検証するTAKUMIと、オンロードのTAKUMI、ふたりが初期段階からかかわるという、まことに凝った開発体制がとられたという。

「通常なら、(開発過程の)要所要所で、味つけを検証してコメントしていくのですが、今回は開発のスタート時点から、オンとオフ、ふたつのTAKUMIが共同で作業したという異例さでした」。それほど開発に力が入っていた、とオンロードのTAKUMIを務める尾崎修一さんという方が、試乗のタイミングで、教えてくれた。

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高速での快適性の高さはリムジンなみ

尾崎さんの手がけたオンロードのほうは、いっぽうで、よい”味つけ”だ。これも特筆しておきたいポイント。市街地でも高速巡航でも、乗用車もかくやというほど、スムーズな加速と、上下動の少ない快適な乗り心地と、高い静粛性を味わわせてくれるのだ。全高1885ミリのボディからは想像しにくいほど。

3.5リッターV型6気筒ターボエンジンは、350kW(415ps)の最高出力と650Nmの最大トルクを発生して、4輪を駆動。従来の5.7リッターV8より小さくなった。

気筒数を減らしたし排気量も小さくなったいっぽう、細かくチューニングしたターボチャージャーを装備。排気量は小さくなっても、これまでのLX570の277kW、534Nmよりだいぶ力強くなっている。

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見慣れてくるとグリルの意匠がボディ全体に溶け込んでいるように思える

さきにも触れたように、シートのバリエーションが多いのも、広いユーザーへのアピールを狙ったポイントだ。ベースグレード(1250万円)には3列シートが用意されて、5人乗りと7人乗りが選べる。「オフロード」(1290万円)は同様に5人乗り仕様と7人乗り仕様があり、かつ、フロント、センター、リアと3個所でディファレンシャルギアをロックできるオフロードのための本格派。さきに触れたぜいたく仕様の「エクスクルーシブ」(1800万円)は4人乗りだ。

Lexus LX600
全長×全幅×全高 5100x1900x1885mm
3444ccV型6気筒ガソリン 全輪駆動
最高出力305kW@5200rpm
最大トルク650Nm@2000〜3600rpm
価格1250万円