「大人の名品図鑑」のスタイリスト・井藤成一が山口に開いた“超専門店”を訪れた。Vol.2

  • 写真:タカハシアキラ
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約20年前、サイ(Scye)のジャケットを代官山で見て感動を覚えた

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井藤さんとサイの出会いにブランド側も感動してくれたのだろう。直営店「サイ マーカンタイル」でしか扱っていない服や小物を初めて山口で展開することができた。

Pen onlineで連載中の「大人の名品図鑑」を私と一緒に担当するスタイリストの井藤成一さんが故郷山口に開いたのが「RETROP」というショップ。前回はショップの核となるブランドのポーターと井藤さんの関わりを詳しく書いたが、今回はショップのもう半分を占めるゲストブランドを中心にお伝えしよう。

最近「ポップアップストア」、つまり期間限定で開設されるショップが流行りだが、「RETROP」ではそれを月単位で行うところがほかとは違うところだろう。たくさんのブランド、たくさんのファッションを見続けてきた井藤さんらしい試みと言える。

1回目のゲストブランドに井藤さんが選んだのが、サイ。英国クラシックをベースに現代的な視点からさまざまな要素を加え、再構築する日本を代表するブランドだ。

「20年くらい前、山口から上京して、当時ハリウッドランチマーケットがやっていた『ゴールデンゲート』という代官山の店に行きました。そこでサイのジャケットを見て、ひと目で気に入ってしまったんです。ポーターと同じく、90年代の自分に影響を与えてくれたブランドがまさにサイです。それで自分の店を山口に開くときにいちばん先にお声がけさせてもらったんです」(井藤さん)

今回「RETROP」に並んだサイは、サイでも普通とは違う。東京・千駄ヶ谷にあるサイの直営路面店「サイ マーカンタイル」に並ぶ商品をそのまま山口に持ってきたのである。店内に置かれた什器もサイが某有名インテリアデザイナーに依頼したオリジナル品をそのまま山口に運んできたと聞く。

「遠く、北九州や広島から(サイを見るために)来て下さったお客さんもいらっしゃいましたし、サイのインスタを見てここまで来られたサイファンの方も。もちろんこの店でサイを初めて見た、というお客様もたくさんいらっしゃいます。これまで東京まで行かなければ買えなかった直営店展開のアイテムがここで購入できるので、それを目指して来られた方もいらっしゃいました。限定商品のキャップや小物も人気です」(井藤さん)

各ブランドのポーターにしても、ゲストブランドのサイにしても、井藤さん自身(ある意味井藤ファミリー)の想いや歴史が込められている。商品それぞれを説明する井藤さんの話からもその熱意が伝わってくる。

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商品を丁寧に説明するスタイリストの井藤成一さん。ポーターもサイも、20年以上見続けてきたブランドだけにどの商品についても詳しい。

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ショップ正面の壁面に並んでいるのがサイのテーラードアイテムやカットソーアイテム。正統的なコートなどを着用して、「こんなに軽いのか」と驚かれるお客様が多いと聞く。

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直営店でしか扱っていない小物などが山口で手に入る。コットンカツラギの素材で、ファスナーはスイスのリリ製というサイらしいこだわり。右:¥6,600(税込)、左:¥5,500(税込)

ショップがオープンした当初は毎週のように山口に帰り、店頭に立ったと話す井藤さん。今後も「東京でスタイリストとして仕事を続けながら、『RETROP』の運営にかかわる、いわば2拠点で活動を続ける」と今後の抱負を語る。これからも定期的に帰って、訪れてくる人たちと交流をもっともっと持って、地元のファッションに貢献したいとも話す。

インターネットが普及して、どこからでも、いつでも買い物ができる時代だが、それでも実際の商品を見て触って試す。あるいは試着してみたいと思うのが服好き、モノ好きの心情。ましてや井藤さんのようなファッションのプロから直接、説明やアドバイスをもらえるとなれば、井藤さんを目指して来店される顧客はこれからも増えるに違いない。それこそ現代に必要とされる専門店の姿とも言えるだろう。

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RETROPがお店を構える、Cross Land山口総本店とは?

今回紹介する「RETROP」があるのは、山口市内に昨年11月にオープンした維新ナインテラスの「Cross Land山口総本店」の一角だ。この場所は1947年創業の老舗文具店が企画した複合施設で、約400坪の敷地面積をもち、100台の駐車スペースがある、いわば洒落たショッピングモールだ。

「インターネットの時代、物販をどうするのかという問題が常につきまとうと思います。そこでこの施設では、地元の方と一緒に、地元の方同士の交流を深めることができるように考えました。日頃はネットで購入している人も、(ときには)友達の店でお酒を買う、お土産を買う、そんなこともあると思います。そんな感覚で買い物をここで楽しんでもらえればとても嬉しい。狭い町ですから、町で知り合いに会うことも多い。この店は知り合いに会わせてくれる場でもあるのです。商品もそんな感覚で集め、つくっています。地元の萩焼の作品とか、岩国のガラス工房で特別につくってもらったものなど。地元の店の名前を入れたノートも人気です」

こう話すのは「Cross Land」を運営する株式会社十字屋の代表取締役、今本逸郎さんだ。圧倒的な商品量と多彩な品揃え、しかもこの店にしか見つからないような個性的な雑貨や文房具が並ぶ。それを目当てに10時半のオープン間際から多くのお客様がこの店を訪れる。

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1947年創業という山口市では老舗の文具&雑貨店が総本店として企画した複合施設。

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豊富で多彩な品揃えを誇る「Cross Land」山口総本店」。ワンフロアで、こんな広大な敷地面積で持つ文具店は見たことがない。

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インターネットで何でも手に入る時代だからこそ、ここでしか手に入らないようなものを中心に揃える。ディスプレイの仕方も独特。

「お客様にはあえて違和感を感じるように店を作りました。店内にわざと階差をつくり、お客さまの目線が上がったり下がったりするように工夫しました。Cross Landの看板だって、白壁に白い文字。トイレも少しわかりづらい場所に。日常とは違う非日常をこの店で味わってもらいたいのです」と今本さんはこの店のコンセプトを説明する。店頭で販売されているエコバッグも洒落ていて、中には創業者の似顔絵入りのバッグもある。アディダスの名靴「スタンスミス」のロゴをモチーフにしていると見たが、お土産品にも絶好だ。

それ以外にも、初出店の和菓子店「金子老舗」や洋菓子店「本町カメリア」、山口県に焙煎工場をもつ「コーヒーボーイ」や花店など、地元愛、山口愛をふんだんに感じるスペシャルな場所に仕上がっている。朝から地元の人も含めて多くのお客様が集めってくる理由も頷ける。

歴史を感じる美しい景色を眺め、美味しい山口の地元料理を堪能し、専門店が集まった場所でプロの助言を楽しみながら買い物ができる。これだけでも山口のこの場所に出掛けてみる価値はあるだろう。

RETROP

住所:山口県山口市吉敷中東4丁目8-2 維新ナインテラス1F
TEL:090-8003-9393
営業時間:10:30〜19:00
https://www.instagram.com/retrop_yamaguchi/

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