レトロでありながら最先端のEV! フォルクスワーゲン「ID.BUZZ」のインパクト

  • 文:小川フミオ

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EVは環境適合性うんぬんで語られることが多いが、いっぽうで、デザイン的にユニークなクルマが登場している。独フォルクスワーゲンはいま、ピュアEVの「ID.」シリーズを続々と発表。そのなかで、内容はハイテクで、それでいて、外観はレトロなモデルが誕生。「ID.BUZZ」なるミニバンだ。

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どことなくレトロスペクティブな雰囲気をかんじさせるID.BUZZ

2022年3月に発表された「ID.BUZZ」は、ミニバン車型のピュアEV。特徴はスタイリングコンセプトにある。1960年代に欧州や米国で愛されたマイクロバスを彷彿させるのだ。

アイディアソースは、1951年にフォルクスワーゲンが発表したミニバス。ベースは同社の「ビートル」で、そこに最大8人乗れるマイクロバスボディから、大きなオープンの荷台をもった商用車まで、さまざまな車体を載せ、世界各地で大ヒットとなった。

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フォルクスワーゲンの工場からの出荷をまつ1950年代のタイプ2

ビートルがタイプ1とされたのに対して、ミニバスはタイプ2とも、あるいはT1、T2、T3などとも呼ばれる。キャンパーとかマイクロバスとか、車型によっても異なるが、さまざまな呼び名を与えられた。フォルクスワーゲンは「ブリBulli」という呼び名を好んで使う。BusとDelivery Vanの合成語だ。

当時のフォルクスワーゲン・マイクロバスを愛する有名人は、いまも多い。二輪も四輪も大好きな俳優ユーアン・マグレガーや、シェフのジェイミー・オリバー、それに元F1パイロットのジェンスン・バトンらがすぐに思いつく。

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日本でも根強いファンがいるタイプ2のマイクロバス仕様

「1950年代、ブリが出たとき、このクルマは自由や独立やすばらしいエモーションの象徴でもありました。今回のID.BUZZはそのときと似た感覚を現代のユーザーに与えてくれます」

フォルクスワーゲン商用車部門の取締役会会長を務めるカルステン・イントラ氏は、ID.BUZZが、かつてのT1(発表は1950年)とT2(同67年)などをイメージしたスタイリングコンセプトを持っていることを示唆したコメントを出している。

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MEBというフォルクスワーゲンのピュアEV向けのフレキシブルプラットフォーム(サイズが変えられる車台)を使用

ID.BUZZは、ノーズがうんと短く見える。それがデザイナーの意図だったようだ。「T1の、運転席がうんと前に出たかんじが印象的だったので、同じとはいかないまでも、その雰囲気を出そうと心がけました」。フォルクスワーゲンのヘッドオブデザイン(デザイン統括)を務めるヨゼフ・カバン氏は述べている。

インテリアに関していうと、なにより重視されているのは、乗員が全員、ラウンジにいるようにくつろげること、とフォルクスワーゲンはプレス向け資料で説明する。

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シンプルでありつつもの入れが多く、色づかいも魅力的なID.BUZZのダッシュボード

外部に給電することも可能という。ビークルトゥホーム(V2H)とも、バイディレクショナル・チャージングとも呼ばれるシステムだ。日本でも災害時などに利便性が高いと、これが装備されている電気自動車あるいはプラグインハイブリッドには、購入時に補助金の額が増額される(余談)。

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ID.BUZZは5人乗りで、内装にレザーはいっさい使われないという

室内に一般家電用のソケットがあれば(メーカーの資料には明記されていない)、コーヒーメーカーからビデオゲームまで、さまざまなデバイスをつなげることで、まさに乗員がリラックスした時間を過ごせるのではないだろうか。

ID.BUZZは、モーターをリアに搭載。フォルクスワーゲンが現在展開しているピュアEVの「ID.」シリーズに連なるもの。これまでに、ハッチバック車型やSUV車型が発表されてきたなかで、ひと味もふた味もちがうボディコンセプトがユニークだ。

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右手前がピュアEVの商用車であるID.BUZZカーゴ

全長は4712ミリ、全高は1937ミリあるいは1938ミリ(車型によって微妙に異なる)、全幅は1985ミリ。ホイールベースは2988ミリとかなり長め。150kWのモーターと、77kWhのバッテリーを搭載。リアモーターで後輪駆動だ。

一般への初お披露目は、22年4月15日に開幕するニューヨーク・オートショーで。5人乗りの乗用車であるID.BUZZと、商用車のID.BUZZカーゴの2車型が登場する。荷室の容量は1121リッター(最大で2205リッター)に達し、ID.カーゴは欧州での貿易における物流基準となる木製のパレット、いわゆるユーロパレットを2段搭載可能。

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荷室は広大でかつ真四角と機能性が追求されている

冒頭で、ID.シリーズのおもしろさについて触れた。もうひとつの例は、「ID.バギー」だ。フルオープンの2人のボディを載せたモデルで、こちらのアイディアソースは、1963年にブルース・メイヤーズなる米国人がビートルをベースに作ったデューンバギー。

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ID.バギー(左)と、オリジナルのメイヤーズ・マンクス

カリフォルニアの砂漠のような土地を走って遊ぶために開発されたこのメイヤーズ・マンクスは、たちどころにヒット。さまざまな亜流も生まれ、80年代までに25万台が作られるほどだった。ID.バギーはそのイメージを活かしており、米国人を中心に、ぜひ生産を、と熱望されているようだ。

ここで紹介したID.BUZZやID.バギーは、なかなか巧妙なマーティング手法ともいえる。EVを定着させるために、ユーザーのノスタルジーと、若い世代の遊び心に訴えるなんて、よく考えられているではないか。

ID.シリーズは、2022年に日本上陸といわれている。ID.BUZZの導入は未定のようだが、ぜったいに売れる、と私は思う。競合のいないマーケットであり、ニーズはけっこう高そうだ。