家具デザイナー・藤森泰司が偏愛する、今は亡き師の姿勢を表した一脚の椅子

  • 写真:竹之内祐幸
  • 編集&文:山田泰巨
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椅子を愛する、家具デザイナーの藤森泰司さん。偏愛する一脚について、その想いを語ってもらった。

バード・バッド/大橋晃朗

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大橋の家具は多くが量産に向かなかったが、安価な合板を使ったこの椅子は量産可能であった。シンプルな直線と円で構成された椅子だが、背の高いフォルムがチャールズ・レニー・マッキントッシュの椅子を思わせる。

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「バード・バッド」のディテール。4種の異なる幕板があり、それぞれ伝統的な家具の装飾を引用している。素材はアルミコート合板。断面もシルバー塗装で仕上げ、アルミと同じ質感に揃える。

藤森泰司さんは、住宅やオフィスを問わず、多くの家具メーカーから幅広い製品を発表する一方、建築家と協業して施設のオリジナル家具を製作するなど、広い領域で活躍する家具デザイナーだ。自らデザインした家具や試作品がところ狭しと並ぶアトリエの一角に、一風変わった椅子がある。それは藤森さんが師事した家具デザイナー、大橋晃朗のデザインした椅子だ。藤森さんはアトリエと自宅で大橋の椅子を使うが、いずれも大橋と親交のあった人々から譲り受けた貴重なもの。大学で大橋に学び、その創作に惹かれて卒業後も師事したが、わずか1年半ほどで大橋は亡くなってしまう。

「家具、そしてデザインと向き合う姿勢を学んだ、私にとって大切な師です。事務所に椅子があることで、いつでも初心に返ることができる。家具には、人々の思いとともに受け継がれていくという魅力があると思います」

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大橋の回顧展のポスターを額装し、事務所の一角に置く。

ここで紹介する椅子は、大橋が日常的で安価な合板に目を向けたもの。一般販売された数少ない椅子でもあった。アルミコーティングされた板が抽象的な表情を生んでいると藤森さん。

「大橋先生の家具には純粋さがあり、かたちに強さがあります。それは先生の生き方につながっており、この椅子にも合理性とともに作家特有の表情が宿っています。その強さが、人になにかを感じさせる力になるのです」

一方でその椅子の存在は、師とは異なるものをつくらねばならないと自らに課した姿勢を思い出させる。ほとんどの家具が特注品であった大橋と、家具の製品化を担う藤森さんとでは考え方も異なるが、その違いを超えて、大橋の貫いた姿勢が藤森さんを初心に立ち返らせるのだ。藤森さんは今年、大橋の行年を超える。しかし尊敬とともに対峙し続ける師の存在は、変わらず彼の立脚点であり続けていく。

藤森泰司

1967年、埼玉県生まれ。東京造形大学を卒業し、大橋晃朗に師事した後、長谷川逸子・建築計画工房に勤務。99年、藤森泰司アトリエ設立。最新作である「大阪中之島美術館」のオリジナル家具をはじめ、建築家との協業も多い。

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