『猫は逃げた』の見どころとあらすじ。1匹の猫が見守る、不器用な男女4人のR15+ラブストーリー

  • 文:上村真徹

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©2021『猫は逃げた』フィルムパートナーズ

恋愛映画の名手として注目されている今泉力哉監督が、Vシネマ・ピンク映画界の鬼才・城定秀夫監督の脚本を映画化した恋愛狂騒劇『猫は逃げた』のあらすじと見どころを紹介する。

【あらすじ】4人の男女の「好き」が、飼い猫の失踪をきっかけに複雑にこんがらがっていく

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広重(右)と亜子(左)の夫婦は別れを決意するが、飼い猫をどちらが引き取るかでもめてしまい、なかなか離婚に踏み切れない。©2021『猫は逃げた』フィルムパートナーズ

2019年に『愛がなんだ』のヒットで一躍メジャーになり、その後も『mellow』『his』『あの頃。』『街の上で』と話題作が続々公開されている今泉力哉監督。邦画界でひときわ精力的に活動している俊英が、『アルプススタンドのはしの方』の城定秀夫監督とコラボレーションした異色の恋愛狂騒劇『猫は逃げた』が、3月18日から劇場公開される。

週刊誌記者の広重(毎熊克哉)とレディコミの漫画家・亜子(山本奈衣瑠)は、すっかり仲が冷え切った夫婦。広重は同僚の女性記者・真実子(手島実優)と、亜子は編集者の松山(井之脇海)とそれぞれ肉体関係を持っていて、お互いに浮気相手がいることも察している。離婚まで待ったなしの2人だが、飼い猫カンタをどちらが引き取るかでもめてしまい離婚届になかなかハンコを押せず、真実子も松山も苛立ちを抑えられない。

そんなある日、カンタが家から突然いなくなってしまう。いままで家でカンタの面倒を見ていた亜子は責任を感じて落ち込み、広重も気が気でならない。カンタが不在の家で一緒に過ごして会話を重ねるうちに、2人の関係に少しずつ変化が訪れる。

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【キャスト&スタッフ】邦画界の俊英監督2人が異色のコラボレーション

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ハチワレ猫のカンタが男女4人の複雑な人間関係のカギを握る。©2021『猫は逃げた』フィルムパートナーズ

本作は、今泉力哉監督と城定秀夫監督がお互いに脚本を提供し合い、それぞれR15+のラブストーリーを映像化するというプログラムピクチャー「L/R15」の1作。『猫は逃げた』では監督を今泉・脚本を城定、もう1作の『愛なのに』では逆に監督を城定・脚本を今泉が担当している。

飼い猫カンタをどちらが引き取るかで対立する離婚直前の夫婦を演じるのは、モデルとして活動する傍らアート展のキュレーターなども務める山本奈衣瑠と、『ケンとカズ』で数々の新人俳優賞を受賞してから映画やドラマに活躍する若手実力派・毎熊克哉。広重の同僚で浮気相手でもある真実子役には、リメイク版『東京ラブストーリー』や『よだかの片想い』で評価が高まっている新星・手島実優。亜子と関係を持つ雑誌編集者の松山役には、子役から着実に成長し独特の存在感を印象づける若き演技派・井之脇海。

他にも、映画初出演となるお笑いコンビ“オズワルド”の伊藤俊介が風変わりな映画監督、今泉作品の常連・芹澤興人が週刊誌編集部の上司という、クセのあるキャラクターに扮して脇を固める。また、本作の裏主役である飼い猫カンタに扮するオセロは、月9ドラマ『ミステリと言う勿れ』に出演しているプロキャットスターで、『愛なのに』にも登場して両作品の世界観をつないでいる。

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【見どころ】どうしようもない男女の機微を優しく見守る、大人向けほのぼの系ラブストーリー

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離婚すると言いながらずるずると夫婦関係を続けている広重に対して、浮気相手の真実子(右)はイライラする。©2021『猫は逃げた』フィルムパートナーズ

本作のポイントは何と言っても、普段自ら脚本も手掛けている気鋭の映画作家・今泉監督と城定監督が、他人の執筆した脚本を映像化するというコラボレーションの産物であること。それはつまり、普段自分が築き上げているものとは別の世界観に触れ、新たな化学反応が生まれる可能性を意味している。そして『猫は逃げた』は、まさにそうした化学反応が作品の個性や魅力へと昇華している。

愛情はすっかり冷めたのに飼い猫の親権争いを理由に離婚へと踏み切れない広重と亜子。そんな2人の関係にやきもきする真実子と松山。いろんな感情が入り組んだ4人のねじれた関係を、人間の愚かさを断罪するのではなく優しく見守るように綴り、ユーモラスな温かみを醸し出す──。こうしたテイストは城定監督が得意とするものであり、今泉監督ならではの緻密な演出と融合することで、リアルなもめ事に「あるある」と思いながらクスリと笑える、ほのぼのとした恋模様に仕上がっている。

片想い、両想い、夫婦、恋人、浮気…とりたてて波乱万丈な出来事が起きなくても、いろいろな関係で交わされる男女の機微というのは十分ドラマチック。一見ありふれた恋模様を掘り下げていくだけで、本作のように心に刺さるドラマが生まれていく。モヤモヤするけど共感でき、飼い猫カンタの愛らしい存在感と相まってほのぼのとした気持ちにもなれる、じっくり噛みしめたい大人向けの映画と言えよう。

『猫は逃げた』

監督/今泉力哉
出演/山本奈衣瑠、毎熊克哉ほか 2021年 日本映画
1時間49分 3月18日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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