『イカゲーム』のセットにモデルが実在した⁉ 建築家リカルド・ボフィルの作品を振り返る

  • 文:宮田華子

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「イカゲーム」予告編 @ NetflixJP – YouTube のキャプチャ画像

世界中で空前の大ヒットとなった韓国ドラマ『イカゲーム』(Netflix)。約190カ国で配信され、既にシーズン2の製作も決定。昨年最も話題となったドラマのひとつだ。

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@ NetflixJP – YouTube

身の毛もよだつ残酷なサバイバルゲームを描いた物語だが、「だるまさんがころんだ」や「カルメ焼き」など、どこかほっこり懐かしい物事も登場。その落差がさらに恐怖を誘う作品だ。

多くの欧米メディアがカルメ焼きの作り方を紹介していたことからも『イカゲーム』の人気ぶりがうかがえる。@nytimes - Twitter

豪華キャストや衣装デザイン等、人気作だけに微に入り細に入り話題だが、このシーン(↓)のセットデザインは世界中の人たちの度肝を抜いたはずだ。

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「イカゲーム」予告編 @ NetflixJP – YouTube のキャプチャ画像。

迷路のような、そしてエッシャーのだまし絵のような建物の中を、運営スタッフたちがグルグル巡る不気味なシーン。実は、このセットデザインにインスピレーションを与えたと言われる建築物が実在する。

写真家Sebastian Weissのインスタグラムより。@le_blanc- instagram

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スペインにある集合住宅がモデルに?

それは、スペインの建築家、リカルド・ボフィル(1939~2022年)が設計した集合住宅「ラ・ムライヤロハ(La Muralla Roja)」。スペイン南部の海辺の街・カルペにあるリゾート施設群「ラ・マンサネラ」内にあり、1973年に竣工した建物だ。

@le_blanc- instagram

カタルーニャ地方の伝統的建築の手法を採用しつつも、独特の色使いと幾何学的なモチーフがユートピア的な印象を与える。この建物を知っている人であれば、「イカゲーム」のセットを見ただけで、「あ、あの建物!」と脳裏に浮かんだに違いない。

動画を少し再生しただけで、「イカゲーム」のセットを思い出すだろう。Wonder Wander - YouTube

建築専門サイト「ArchDaily」も、ラ・ムライヤロハを『イカゲーム』のセットデザインを触発した作品として紹介している。@ArchDaily – Twitter

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『イカゲーム』に影響を与えた建築家の生涯

ボフィルは2022年1月14日、新型コロナウィルスによる合併症のため82歳で他界した。生涯で1000以上のプロジェクトを手がけ、国際的に活躍した彼の作品すべてをたどるのは困難だが、短くではあるが彼の経歴と代表作を紹介したい。

ボフィルの死去を伝える記事。@jiji_gaishin - Twitter

1939年、建築業者の息子としてバルセロナで生まれたボフィルは、バルセロナ高等建築学校、ジュネーブ建築学校で学んだ。1963年、建築集団タリエール・デ・アルキテクトゥーラ(=建築工房)を設立し活動を開始。1960年代からモダニズムおよび地域主義の作風で知られた。

●「ウォールデン7」(スペイン・バルセロナ、1975年)

@ArchDaily – Twitter

バルセロナ在住フォトフラファー、Gregori Civeraのインスタグラムより。 @gregori_civera – instagram
@Piriguide - Twitter

幾何学的要素を用いた建築の集大成と言われている集合住宅。外観のデコボコとした形、および中庭を面した部分のブルーと茶色の配置は、ボフィルにしか発想できない強烈なインパクトを与える。日常の中に非日常のアクセントを加味している。

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●「アブラクサスの宮殿・劇場・凱旋門」(フランス・ノアジー=ル=グラン、1982年)

@FrenchHis - Twitter

@extranosparaiso - Twitter
@AJContrast - YouTube

宮殿・劇場・凱旋門の3つの建物で構成された、パリ郊外に建設された集合住宅(全591戸)。古典主義を取り入れた荘厳な作風は、「ポスト・モダン・クラシシズム」と呼ばれた。

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マドリッド・コングレスセンター(スペイン・マドリッド、1993年)

@elmundoes- Twitter

一面をガラス張りにしたエントランス部分は一見コンテンポラリーな巨大建築。しかし大理石を多用することで「荘厳さ」も漂わせつつ、全体を調和させている。

モハメッド六世ポリテクニック大学(モロッコ・ベングリール、2017年)

@ArchDaily - Twitter

@Archlectic - Twitter

テラコッタ色とモロッコの青い空のコントラストが美しい。伝統的でありながらも、中庭にガラスの屋根を配置し、どこか近未来的な雰囲気を醸し出す。

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日本にもあるボフィル建築

ボフィルの建築は日本でも見ることができる。機会があったらぜひ訪ねてみてほしい。

●ユナイテッドアローズ原宿本店(東京都、1992年)

@mr.mamorumiyagi - instagram

●青山パラシオタワー(東京都、1999年)

@aoyama_house - Twitter

●東京銀座資生堂ビル(東京都、2001年)

@EmbEspJapon - Twitter

ボフィルの訃報は、彼の偉大なる建築物の紹介とともに多くのメディアで報道された。これからも世界各地に残る作品を見るたびに、多くの人がその偉業を思い出すはずだ。

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「イカゲーム」と「ラ・ムライヤロハ」の対比動画が面白い!

アルゼンチンのニュースメディア「A24com」のYouTubeチャンネル(↓)が、「イカゲーム」とそのセットのインスピレーション源といわれる「ラ・ムライヤロハ」とを並べて比較している。

@A24com – YouTube

「ラ・ムライヤロハ」にはAirbnbとして貸し出しているアパートもあるので、滞在も可能なようだ。

内部を詳細に見られる動画。@CaixaBankExperiencebyfamily – YouTube