新年が始まってから、毎週土曜の夜が面白かった。それはぜんぶ『おいハンサム!!』(東海テレビ・フジテレビ系)のせいだ。寝ようかどうしようか迷い始める23時40分過ぎに、つい見てしまったテレビドラマである。
内容は至極、普通。伊藤家の家族を中心に、父・源太郎(吉田鋼太郎)は家族のために働き、母・千鶴(MEGUMI)は家族の世話をして、3人の娘たちはそれぞれに恋をして。例えば「誰かと誰かががくっつく!!」「犯人はあの人だったの!?」みたいなドラマティックな展開があるわけではない。演者たちと、話題作を作り続けるヒットメーカー・山口雅俊(脚本・演出)によって、コミカルと胸打つシーンを織り交ぜながら、どこにでもありそうな風景が彩られている。
最終回を控えて、一体何がこの作品の魅力だったのか。あくまで個人的な推論として、振り返ってみたい。
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名バイプレイヤーたちが大集結すると傑作になる
ジャンル問わず、作品には絶対的なエースが存在する。今作で言うと、吉田鋼太郎演じる伊藤源太郎がそのポジションに当たる。でもドラマ全体を見渡すと、源太郎や主要キャストだけでなく、全員の演技が際立っているのが面白い。つまり“全員、主役に見える”のが、まずは魅力のひとつ。1クールでいくつもの作品を掛け持ちするのが当たり前になった昨今、バイプレイヤーたちは多忙を極めている。そんな中でよくこれだけの名バイプレイヤーを集めたと思う。
何かといえば「伊藤家リモート会議が招集されました。奮ってご参加ください」と、家族を集める。この“奮ってご参加”が、長年の会社員人生を思わせる丁寧さがあって良かった。我が家はリモート通話はほぼ強制参加になるので、ここは見習いたい。
そんなお父さんに育てられながら、どうしてもダメ男を好きになってしまう娘たちにも共感。三女・美香(武田玲奈)の勤務する会社の同僚・シイナ(野波麻帆)の、”どうしてもとんがってしまう巨乳”も面白かった。一瞬だったけど由香(木南晴夏)に恋した、青山(奥野壮)も大健闘。本音と正論がひたすら応酬して胃もたれするはずなのに、なぜかセリフが沁みるのは、名バイプレイヤーたちによる表現ゆえだったのか。
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俳優・MEGUMI、高杉真宙の新境地を開拓した
並み居る出演者たちの中でも、この作品で新しい魅力を開花させたのでは? と思う二人がいた。まずはまさかの母親役のMEGUMI。かつてのグラビアアイドルの面影は完全封印、完璧な50代風のお母さんになっていたのは衝撃だった。非エコで、昭和感万歳の台所に立ち、穏やかそうな口調と物腰で家族を見守る。でも三女・美香の婚約者、大倉学の態度は、つぶさに見抜く。
「学さん、スーツについたソースの染み、ずーーーーっと気にしていたのよ!」
このセリフに、「よく見ている、分かる!」と膝を打つ。その婚約者・大倉学を演じた高杉真宙も新しい一面を見せてくれた。ハイスペックのイケメンでありながら、実は単なるお子ちゃま。自分の欲を美香に押し付ける怪演はあっぱれの一言で、令和版の“冬彦さん”を彷彿させた。仮面ライダーでデビューして、王道を進んでいたところに見せた学役、きっとご本人も面白かったに違いない。以前、インタビューでお会いしたけれど、本当に控えめでいい人だったので、今回の学役とのギャップも非常に眩しかった。
と、さまざまな魅力でコーティングされていた『おいハンサム!!』。2016年「オトナの土ドラ(2021年「土ドラ」へ変更)」として、『火の粉』でユースケ・サンタマリアさんのガチで怖い怪演から始まったこの枠。昨年は池脇千鶴さん主演『その女、ジルバ』も大ヒットし、その後も『准教授・高槻彰良の推察Season1』などバーリトゥード方式のようにさまざまなジャンルを放送してきた。そして本作に至る。次に飛び出す作品は何なのか、期待は膨らむ。
小林久乃(こばやし・ひさの)
エッセイスト、コラムニスト、企画、編集、ライター、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載をしながら、単行本、書籍も制作。狙った仕事は逃さない。3月に人間関係の距離感をテーマにしたエッセイを発売予定。ドラマオタク、静岡県浜松市出身、40代、独身。
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