アーティスト・寒川裕人インタビュー|徒労の果てに、想像を超える表現が生まれる【創造の挑戦者たち#62】

  • 写真:野村佐紀子
  • 文:中島良平

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1989年生まれ。現代美術家。ペインティングやインスタレーションを中心に手がけ、2017年に『THE EUGENE Studio 1/2 Century later.』(資生堂ギャラリー)、19年に『漆黒能』(国立新美術館)などを発表。21年には短編映画がアメリカの国際映画祭で受賞するなど、多岐にわたる表現が国際的に注目されている。

東京都現代美術館で開催中のユージーン・スタジオによる個展『新しい海』。「ホワイトペインティング」と題された真っ白なカンヴァスのシリーズが展示された最初の部屋を抜けると、水と鏡による壮大なインスタレーション作品『海庭』が広がる。展覧会タイトルと最も近い関係にあるのがこの作品だ。ユージーン・スタジオの寒川裕人は「美術館があるこのエリアは埋め立ててできた臨海地帯で、来るたびに海の風が吹く場所だと感じていました」と話す。

「日本人は海の力をよく理解しています。最初は美術館に東京湾の海底をそのまま引き上げてもってこられないかと考えました。しかしそれでは、現状の海底が見えるだけでなにも生まれません。であれば、想像の海をここにつくってしまおう。つまり『海庭』で表現した『新しい海』とは、現実の海ではなく想像の海です。縦に抜ける吹き抜けの空間に鏡を設け、そこから無限に続く海と、果てしなく続く水平線を創出したのです」

その発想の根底にあるのが、展覧会全体を貫く「共生」というキーワードだ。それは、「あらゆることはともにある」状態そのものを指すのだと、寒川は定義する。自分と他者、意見や主義の異なる個と個、人と自然、一瞬と永遠、光と影。そうした要素が常にともにある状態を受け入れることが、世界を理解するためには必要だ。

「個人の中にも社会においてもさまざまな矛盾がありますが、それらがともにあることも事実。それを僕は共生だと考えていて、そこからもう一歩先に進み、多くのことを受け入れるためには、想像する力が必要です。共生とその先の想像力をどのように表現できるかを考え、『海庭』のプランは生まれました」

東京都現代美術館の地下の展示空間において、通常であれば順路の最後に現れる大きな吹き抜けの展示室に、「海庭」はつくられた。この空間をうまく使うことが、建築と作品もまた「共生」させる大きなチャレンジだと考えたのだ。そして、その共生を実現すれば、異なるコンセプトやメッセージをもつ作品が並んだとしても、それらがひとつのまとまりとなって結びつくことが確信できた。

水と光の広がる『海庭』を抜けると、色の異なる多様な光を描く「レインボーペインティング」シリーズが、鑑賞者の視線を誘う。さらに『海庭』の鏡の裏に回り込むと、真っ暗闇の部屋に彫像を設置したインスタレーション『想像 #1 man』が展示されている。空や森、水があり、その中央に闇の空間を設けて見えない像を置くという構成は、「神社などの構造に近い」と寒川は言う。

「もちろん、最初はスタジオで模型をつくり、どのような展覧会になるのかを想定して制作を進めています。しかし、実際に会場に作品が入ると、光や影など、体感できる要素のコントラストが予想以上に生まれました。作品に携わっていていちばんエキサイティングなのは、そのように想像を超えた体験をした時ですね」

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震災と復興の過程を見て、たどり着いた思い

プラン通りに完成した作品は、よくも悪くも想定内だ。しかし、そこに感動が生まれるには、想定を超えるなにかが生じている必要があり、そのためには試行錯誤しながら意識と手を動かし続ける「徒労」が必要だという。そう考えるようになったのは、幼い頃に阪神・淡路大震災が、大学に入ってすぐに東日本大震災が起こり、その復興のプロセスを知ったという体験が大きい。

「震災で壊滅した街で、途方もない時間をかけて復興作業をする。東日本はまだ復興途中ですが、作業の積み重ねによっていつの日か、瓦礫の山から全然違う街の姿をつくることができるはず。震災を通して、正解がわからなくてもやり続ける、ある種の“徒労”の果てに見えるなにかがあることを、僕たちは知っているはず。続けることで見えてくる地平があると思って、制作を続けています」

自分の想像を超えたものが生まれた時、それは他者の新たな想像を引き起こす。寒川はアートで問いかけを続ける。

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WORKS

《あるスポーツ史家の部屋と夢#連弾》よりパフォーマンスの記録映像による6チャンネル・ヴィデオ プロジェクション、15分15秒ループ(2020年)

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© Eugene Kangawa

寒川の学部時代の卒業制作のひとつで、スポーツの構造をチェスによる頭脳分析とドラムによる共鳴・共振現象によって再構築しようと試みた作品。こうした科学的アプローチも、寒川の制作の特徴のひとつだ。

短編映画『Purple, Green, Blue』(2021)『SANSUI LLAFRETAW』(2021)

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左:アフリカンとアジアンの同性愛者の父親ふたりと、その養子の家庭の一瞬を描写。 右:東北地方に伝わる山岳信仰の対象である自然風景を撮影。© Eugene Kangawa

いずれも国際映画祭で公式上映されるなど、高い評価を受ける。

個展『ユージーン・スタジオ 新しい海』

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Photo:木奥 惠三   © Eugene Kangawa

東京都現代美術館においては平成以降生まれとして初の大規模個展。学部時代の卒業制作からサイトスペシフィックな新作『海庭』まで、共生をテーマに会場全体が壮大なエピックとなる。2月23日まで開催中。

※この記事はPen 2022年3月号より再編集した記事です。

アーティスト・寒川裕人インタビュー|徒労の果てに、想像を超える表現が生まれる【創造の挑戦者たち#62】

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