映画『キングスマン』の印象的なファッションアイテム5選

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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イラスト:東海林巨樹

昨年12月24日に公開された『キングスマン:ファースト・エージェント』。シリーズ3作目の舞台は1914年に遡り、国家に属さないスパイ組織「キングスマン」の誕生秘話が明かされる。この「キングスマン」シリーズに登場する名品を5つ紹介する。

キングスマンの名品① スーツ

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一般的には「イングリッシュドレープスーツ」と呼ばれるサヴィルロウ仕立てのスーツを彷彿させるダブルブレステッドスタイル。6ボタンで、構築的なショルダーラインを持ち、ウエストにかけてほどよく絞られたシルエット。素材は英国服地の産地、ハダスフィールドで1857年に創業されたエドウィンウッドハウス。スーツ¥121,000(オーダー税込価格)、シャツ¥11,000(オーダー税込価格)、ネクタイ、ポケットチーフ(ともに参考商品)/すべてSloane Ranger Tokyo︎

昨年のクリスマスイブ、12月24日に日本で公開されたのが『キングスマン:ファースト・エージェント』。日本でも高い人気を誇る「キングスマン」シリーズの3作目となる作品だ。今回は世界最強のスパイ組織キングスマンの誕生秘話。前2作のプリクエル=前日譚ということで、舞台は打って変わって1914年のヨーロッパに。

世界大戦と目論んで暗躍する闇の凶団に、キングスマンにとって最初の任務として、英国貴族のオックスフォード公とその息子コンラッドが立ち向かう物語。オックスフォード公は、戦争では平和は実現しないと考える平和主義者。一方、息子コンラッドは国を憂い、戦地に赴くことを自分の使命と考える正義漢。ある意味、本作の鍵はオックスフォード公と息子コンラッドの親子関係にあるとも言えるが、貴族コンラッド公を演じるのが、英国人俳優のレイフ・ファインズ。『シンドラーのリスト』(1993年)、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年)など出演作も多数。コンラッドに起用されたのは『ブルックリンの片隅で』(2017年)などに出演し、若手注目度No.1との呼び声が高いハリス・ディキンソン。平和主義を唱える父に反発を覚えながら、父が創設した秘密のスパイ組織キングスマンのエージェントとしての道を歩むことになる。

「まずはスーツをつくる」と、父と共に赴くのがシリーズでお馴染みの英国紳士御用達のテーラーが並ぶ、ロンドンのサヴィルロウ。この通りにある「キングスマン」という高級注文服を仕立てるテーラーが、スパイ組織の本拠地だ。キングスマンファン、あるいはスーツ好きならばご存知だろうが、映画に登場するキングスマンは、1849年創業したサヴィルロウ11番地に居を構える老舗「ハンツマン」がモデルになっている。エドワード8世やデューク・オブ・ケントなどの貴族からローレンス・オリビエやクラーク・ゲーブルなどの有名俳優が顧客リストに名を連ねる。シリーズを監督するマシュー・ヴォーンは18歳からこの老舗のロイヤルカスタマーで、それが縁で映画に取り入れられたのかもしれない。「ハンツマン」は乗馬ジャケットでも有名で、乗馬をしている間もフィットすることがこの老舗で仕立てるジャケットの特徴のひとつ。「1マイル先からでもハンツマンのジャケットを見分けることができる」と、このジャケットを生み出したカッターは言う。

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映画『キングスマン』の元ネタとなったテーラーのスーツとは?

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キングスマンの名品② オックスフォードシューズ

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英国紳士が履くにふさわしい雰囲気を醸し出すストレートチップ。モデル名は「BODEI“CV001”」。土踏まず部分がくびれたスマートなシェイプと「チゼルトゥ」と呼ばれる独特のつま先が特徴的。ビスポーク同様のカーフ素材を使うことで見た目の美しさとしなやかな履き心地が実現した一足。英国製。シューツリー付き。¥264,000(税込)/アンソニー クレバリー

ブローグではなくオックスフォード──2015年に公開された『キングスマン』で、友達から盗んだクルマを暴走させ、牢屋に繋がれたエグジー(タロン・エガートン)に向かってキングスマンのベテランエージェント、ハリー(コリン・ファース)は秘密の暗号を伝える。

これを聞いてニヤッと笑った人は、そうとうな靴好きだろう。「ブローグ」とはアッパーに穴飾り=ブローグ(brogue)がある靴のこと。対して「オックスフォード」とは、一般的には紐付きの短靴を指す言葉で、17世紀ごろ、イギリスのオックスフォード大学の学生たちがブーツではなく短靴を履いたことからこの名が付いた。「ブローグ」の代表と言われるのがウィングチップで、欧米では「フルブローグ」と呼ばれる。甲やつま先に穴飾りがついた靴は英国紳士がカントリーで過ごす時に履いたモデル。対して街用に紳士たちが履いた内羽根式のストレートチップに代表される短靴を、ハリーは「オックスフォード」と言ったのだろう。

1作目の『キングスマン』(2015年)で、エグジーがスパイになるための厳しいテストをクリアして見事キングスマンの一員に選ばれると、黒ストレートチップ型のオックスフォード靴が大写しになり、紐をしっかりと結ぶ場面が出てくる。同じような場面が2作目の『キングスマン :ゴールデンサークル』(2017年)にも出てくるが、実は3作目の『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021年)にも出てくる。しかもほとんど同じアングルから撮っている。監督のマシュー・ヴォーンは、このオックスフォード靴にそうとうな思い入れがあるのだろうか。あるいはキングスマン、あるいは英国紳士の象徴として考えているのではないだろうか。

余談だが、『キングスマン:ファースト・エージェント』でレイフ・ファインズ演じる主人公の名前もオーランド・オックスフォード公爵。わざとそうしたのか、偶然なのか。ちなみにロンドンの中心部ウェストミンスター区を東西に貫く大通りがオックスフォード・ストリートという。大学から通りの名前、はたまたファッション用語まで、英国では「オックスフォード」という言葉をよく使われる。

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「キングスマン」シリーズを象徴するオックスフォードシューズの魅力とは?

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キングスマンの名品③ シグネットリング

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最高の素材と英国の伝統的な手法、熟練の技術、そして英国認定機関によるシルバー=銀の品質保証であるホールマークを融合したデザインがバニーのアクセサリーの大きな特徴だ。すべての製品に英国の品質表示保証の刻印が入っている。製品は伝統的な技術を引き継いだ英国各地のシルバー職人のアトリエで、ハンドメイドでつくられている。右:¥77,000(税込)、中:¥242,000(税込)、左:¥88,000(税込)/すべてバニー

ビスポークスーツ、オックスフォードシューズ、ダブルカフスのシャツとストライプのタイ、それに傘やステッキ、ライター……。「キングスマン」シリーズには英国紳士のワードローブに欠かせないアイテムが続々登場する。加えて、ちょっと粋なアクセサリーも見逃してはいけない。登場人物の指に嵌められたシグネットリングだ。

1作目の『キングスマン』(2015年)では、ハリー(コリン・ファース)がエグジー(タロン・エガートン)に対して「普通はこのリングは左手にするものだが、キングマンの場合は利き手にする」と、そのつけ方まで指南する。彼がつけたリングは5万ボルトの電流が流れ、人を感電させる武器でもある。

3作目の『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021年)は、キングスマン設立の1914年まで遡る物語だが、シグネットリングが物語の中で重要な役割を果たす。まだ未見の方のために詳しくは書かないが、予告編でもテーブルを強く叩く手の指に、潜水艦で潜望鏡を握る手に、このシグネットリングははめられている。

シグネットリングとは、紳士たちがイニシャル、家紋、属するクラブの紋章などを刻印したリングのことだ。身分の象徴であることは言うまでもないが、時には文字を逆に刻んで、手紙の封筒や文書に封蝋する際に使ったりする。14世紀の英国ではすべての公式文書にシグネットリングを使って署名することが定められていたという。だから、シグネットリングは押しやすい小指にするのが正統な着け方とされている。

『英國紳士はお洒落だ』(ポール・キアーズ著 飛鳥新社)によれば、「男の宝飾品のなかでもっとも古い歴史をもつのは、シグネットリング。これは署名に先立つ身分証明の道具であって、古代ローマ時代からすでに使われていた。シグネットリングを嵌める権利は特権階級にだけ与えられているから、富裕であることの証明でもあった」と書かれている。

これは余談だが、現在の英国王室では結婚指輪さえつけない人が多数を占めている。しかし何故かチャールズ皇太子は、結婚指輪とシグネットリングと思えるリングを重ねづけしていることが多い。

【続きはこちらから】
『キングスマン:ファースト・エージェント』で物語のカギとなるシグネットリングとは?

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キングスマンの名品④ ネクタイ

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「シルクシャンタン」と呼ばれる素材を採用したレジメンタルストライプタイ。裏地のないハンドロール仕様のため、ドレスからカジュアルまでオールマイティなスタイルに使える。落ち着いた色味の配色で、巻くだけでVゾーンをより一層華やかに見せてくれる一本。ハンドメイドで仕立てたネクタイは、ふっくらと柔らかく、締めやすく、緩みにくい。各¥27,500(税込)/ドレイクス

「ネクタイはそれを締めている人よりも一歩先に部屋に入ってくる」という名言を残したのは、英国王室御用達のデザイナー、ハーディ・エイミスだ。スーツは絵画でいえば額縁的存在なのに対して、中に着用するシャツとタイ、特にネクタイは着る人の印象を左右するという意味だろう。

「キングスマン」シリーズでメンバーが着用するのがレジメンタルストライプのタイだ。1作目と2作目はもちろんのこと、3作目の『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021年)でも、スーツに白のダブルカフスのドレスシャツを着用し、ネイビーをベースにしたレジメンタルストライプのタイを襟元までしっかりと締め上げる様子が描かれている。英国紳士たるもの、結び目を緩めて人に会うことなど許されないとでも語っているかのようだ。

レジメンタルとは日本では「連隊旗縞」と訳される伝統柄。英国の軍隊において各連隊に伝わる連隊旗の縞をそのままネクタイに採用したもので、種類はタータンチェック同様に多彩だ。英国のネクタイメーカーは、あらゆる注文に応じられるよう1万5千もの柄を用意していたという話も聞く。英国においては、それを結んだ人の左肩から右下に縞目が流れるようにするのが一般的で、ハリーやオックスフォード公が締めるレジメンタルタイも同じ生地の取り方をしている。ちなみにアメリカでは逆向きが多い。老舗ブルックス ブラザーズでは縞の入り方も右下がりだ。

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「キングスマン」シリーズで誰もが着けている、レジメンタルストライプのネクタイ

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キングスマンの名品⑤ トラックスーツ

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「ファイアーバード」と呼ばれるアディダスのアイコニックなトラックジャケット。素材にリサイクルポリエステルが使われている。立ち襟のデザイン、コントラストが効いた3ストライプ、光沢感を備えたトリコットの生地など、クラシックなディテールはそのまま、素材を進化させたモデルだ。パンツは「PRIMEBLUE SSTトラックパンツ」というモデル。リサイクルポリエステル60%/綿40%の素材。ジャケット¥10,989(税込)、パンツ¥8,789(税込)/ともにアディダス オリジナルス

英国の歴史好きの人が「キングスマン」シリーズを観たらすぐにわかるだろうが、映画に登場するエージェントたちのコードネームは、英国に伝わる『アーサー王物語』から取られている。キングスマンのリーダーの名前はアーサー。技術担当のマーリンとは、アーサー王を導いた魔術師の名前だ。ガラハット、ランスロット、パーシヴァルなどはすべてアーサー王とともに戦った円卓の騎士たちの名前である。

シリーズの根底に流れるのは、英国の騎士道。だからコリン・ファースが演じたキングスマンの一員、ハリー(エージェント名はガラハット)は「スーツは紳士にとって鎧」と断言する。ロンドンのサヴィルロウで顧客に応じて仕立てられるスーツは紳士の嗜みであり、英国の騎士道における鎧というわけだ。

それとは対照的に、後にキングスマンに加入が認められる若者エグジー(タロン・エガートン)が着ているのは、スポーツブランド・アディダス オリジナルスのトラックスーツだ。1作目、2作目を通してエグジーはさまざまなカラー、ストライプのトラックジャケットを着用しているが、1作目ではアディダス オリジナルスとジェレミー・スコットがコラボしたポップなモデルまで着用して登場する。エグジー以外にも、ロンドンの街中をたむろしている若者たちもエグジーと同じようなトラックジャケットをよく着ている。

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映画『キングスマン』の若者たちの"鎧"が、アディダスのトラックスーツである理由

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