ものづくりや表現活動をするクリエイターたちに必要不可欠な能力とされているのが、「創造性」や「クリエイティビティ」と呼ばれるようなものだ。創造性は、周りをあっと驚かせるようなアイデアを思いつくために、つまりは「ひらめき」を得るための能力であるというイメージだが、それはしばしば、一部の人だけがもつ特別なもののようにとらえられている。しかし、果たしてそれは本当なのだろうか?
そもそも創造性とはどのようなもなのか。また我々が創造性を身につけるには、どうすればいいのか。創造性について研究し、著書に『創造性はどこからくるか: 潜在処理、外的資源、身体性から考える』(共立出版)がある、和光大学現代人間学部心理教育学科准教授の阿部慶賀に聞いた。
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創造性とはなにか? 創造性がある人とは?
我々が創造性を身につけるには、まずはその意味を十分に知る必要がある。阿部は「現在、創造性研究の多くは創造性の定義はしていない」という前提を踏まえつつ、創造性について次のように語っている。
「創造性というと一般的には特殊性や神秘性が強調されますが、誰にでも備わり、また惹起できるものです。創作物に対して指す場合もあれば、創作者に対して指すこともあろうかと思いますが、いずれにせよ、他者の価値観を揺さぶりうる影響を与えられるものは創造的だと考えます」
創造性=ある種の天才が先天的に備えている才能、と考える人もいるだろうが、阿部はそうしたイメージを否定する。
「現状、創造性研究者で『創造性が特殊な才能である』とする見解をもつ人は少数派だと思います。また、私自身が一般に行った調査結果でも最近では『誰もが備えるもの』と考える人が増えています」
もちろん「創造性は誰もが備えるもの」とは言っても、一般よりも「ひらめきやすい人」「創作がはかどりやすい人」は存在する。その要因として阿部は次の3つを指摘する。
①普段から偏見が少なく関心が広い
②自分自身の理解の状態を振り返る習慣がある
③反対意見などにも柔軟に傾聴できる
一方、「天才の定義」についても阿部に尋ねたところ、「定義が広くて答えにくいところ」とことわった上で、次のように答えている。
「単に記憶力や計算力などの卓越した能力をもつ人という意味であれば、『認知機能のバランスが大多数の人とは少し違っている人』ということになろうかと思います。時々ニュースで見る、天才の脳の作りの違いを報じる研究などはこのタイプに該当します。一部の『天才』研究では、ノーベル賞受賞者などの功績を基準に天才を定義するものもありますが、その場合、天才かどうかは社会が決めることになるので、個人の能力だけでは説明できなくなると思います」
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創造性の研究とは?
現在行われている創造性にまつわる研究は、大きく分けると次の2つ。
①歴史的、社会的に一定の評価を得た作家たちの姿を追う
天才たちの脳を調べたりインタビューしたり、あるいは作家の活動歴や作品の変遷を調べるなど、卓越した人物が果たした成果のプロセスやその背後にある認知過程を解明するもの。
②一般的な人たちの、ささやかで主観的な創造性やひらめきを解明する
心理学実験やその最中の脳計測、さらに計算機モデルによるシミュレーションを通じて、洞察(いわゆるひらめきやアハ体験)がなぜ自在に起こせないのか、なぜ突然起きるのかを解明する。
阿部のアプローチは②の方だ。また、これらの研究とは別に進んでいる新たな取り組みが、創造性の育成、あるいは育成を支援するツールや環境の開発だ。
「MIT Media LabのScratchというツールを使ったプログラミング教育や、東京大学先端科学技術研究センターが実施している異才発掘プロジェクトROCKET(現・LEARNプロジェクト)を見ると、大した意味のない“しきたり”や無駄な“手続き”を取り払って興味を無制限に広げる後押しをすると、子どもでも大きな成果を生み出すというのがよくわかります」と、創造性を高める教育における一定の効果を指摘している。
阿部によると、こうした教育活動には個人の能力開花以外にも重要な意味があるという。
「同じ興味をもつ同志が何をしているのかを知るという、ある意味での社会性もないと、天狗になったり自己満足してしまいます。同好のコミュニティ作りや他の集団とのつながりをもつことはとても重要で、前述のプロジェクトもトップレベルの先駆者に出会わせたり作品を共有しあう場を作ったりしています」
創造性とは、他者の干渉を受けない純粋な環境下で育まれ、他者にどう思われようと関係なく生み出される独創的な発想であるとイメージしがちだが、阿部によるとむしろその逆ということになる。
「優れた映像作品や小説は、ほぼ例外なく受け手に向けた問題提起と、その問題提起に引き込む求心力があります。映画なら観客に『あなたならどうする?』と思わせるようなシチュエーションがあり、自分を投影できるような魅力的な登場人物がそこにいます。こういうものは作り手が人間、つまり他者に関心をもっていないとできないのではないでしょうか」
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創造性を養い、発揮するには?
では、我々が創造性を養うためにすべきこと、そしてアイデアや企画を実際に創造するためにすべきことは何なのか? そのポイントとして阿部は次のことを挙げている。
「創造性を養うには、多様な経験をし、手を多く動かすことは必須だと思います。アイデアや企画の創造で必要なこととなると、チーム作業になってくる可能性が高いと思いますので、最近よく言われている『心理的安全性』も鍵になるでしょう」
心理的安全性とは、メンバー同士の会話でどんな発言をしても、嫌われたり罰せられる心配のない状態のこと。つまり、自由な発想のブレーキとなる心理的な障壁が取り払われた時にこそ、創造性が発揮されやすいということだ。
「古典的なアイデア創造の方法であるブレインストーミングが、まさにアイデアを遠慮せず言い合えることを前提にしていますが、あえて評価をせずに、また他人の目を気にせず気づきを発信できる空気は必要です。このあたりは『創造性が個々人の努力と才能だけでは成り立たない』ということなのではないかと思います」
創造性は個人の資質だと思われがちだが、アーティストではない人々がなにかを創造するシーンの多くが「個人で完結すること」ではなく「他者との共同作業」であることを考えると、阿部の「創造性が個々人の努力と才能だけでは成り立たない」という見解は腑に落ちる。まずは周囲をしっかり巻き込みながら共通認識を醸成し、創造性を発揮しやすい環境をつくることから始めてみるのもいいかもしれない。