「リアルすぎて見るのが辛い」――動物実験のために生まれたウサギを描いたアートな短編アニメ

  • 文:宮田華子

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The Humane Society of the United States @hsus – YouTubeのキャプチャ画像より

世界最大級の動物福祉団体「ヒューマン・ソサエティ・インターナショナル(HSI)」(本部・アメリカ)は、動物を守るための様々な取り組みを行っている。その中の1つが「コスメ関連商品の動物実験をなくそう」というキャンペーンだ。このキャンペーンの本質を分かりやすく伝えるため、HSIは短編アニメーション『Seve Ralph(ラルフを救って)』(2021年)を製作した。

昨年4月にSNSで公開されると、動物福祉という観点だけでなくアニメーション作品としても高く評価され、幅広い視聴者を獲得。アメリカ本国版(英語)に加え各国版(字幕付き)も公開されているが、2022年1月現在、HSIアメリカのYouTubeチャンネルでは約1385万再生を記録。アクセス数が伸び続けている。

ラルフの普段着と自宅は70年代風のレトロな佇まい。@ archmodelstudio – instagram

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動物実験のために生まれたウサギが主人公

主人公はウサギのラルフ。彼のドキュメンタリーというスタイルで話は進む。冒頭のシーンで自己紹介とともに「右目が見えない」「右耳は一日中“キーン”と鳴っている」ことを少しコミカルな口調で語る。

そして物語が進むうちに、ラルフは動物実験のために生まれた「テスター」であり、彼と仲間たちの残酷な実験に耐える日常が描かれる。

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テスターの同僚たちとともに、残酷な実験をされるのがラルフの日常だ。@hsus – YouTubeのキャプチャ画像より。

全3分53秒の作品を見終わった後、背筋が凍り、言葉を失い、しばし考えこんでしまう―― それがこの作品を見た多くの人たちの反応だろう。

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思わず目を覆ってしまう注射シーン。でも、これがラルフの日常だ。@hsus – YouTubeのキャプチャ画像より。

コスメ関連商品にはメイク用品だけでなく、シャンプーや日焼け止めなどのトイレタリー商品も含まれる。こうした商品の多くは、開発段階で動物実験が行われる。その事実を遠くに知っていても、あまり深く考えるチャンスもなく気にせず購入してしまう人は多いだろう。しかしこのアニメーションを一度見てしまったら、今までのように「何も考えず」に商品を購入することは出来なくなる。

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豪華な製作チーム&キャストにも注目

多くの人の心にインパクトを残すこととなった『Save Ralph』だが、その製作・出演陣の豪華さでも注目を集めている。

ストップモーション・アニメーションの技法で製作された本作。脚本と監督はスペンサー・サッサー(映画『メタルヘッド』)が務め、パペットとセット製作はウェス・アンダーソン監督作の『犬ヶ島』『グランド・ブタペスト・ホテル』などのパペット製作で知られるアンディ・ジェントと彼が率いる「アーチ・モデル・スタジオ」が担当した。

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『Save Ralph』メイキング映像で、製作について語るアンディ・ジェント。@hsus – YouTubeのキャプチャ画像より

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ウェス・アンダーソン監督と『犬ヶ島』のパペット。@ archmodelstudio – instagram

ウサギの毛の手触りや目の充血具合等、あまりにリアルなパペットに加え、細部まで作りこまれたセットに目を奪われる。「クリエイティブ・レビュー誌」によると、製作期間は1年。パペット製作に15週間を要し、セット製作に6~8週間、撮影に50日を費やした。

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バラエティ誌」によると、1秒24コマの映像を1日で撮影できるのはたった4秒分だったという。@ archmodelstudio – instagram

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ラルフの声を演じたのは映画『ジョジョ・ラビット』の監督&出演で知られるタイカ・ワイティティ。

吹き替え.jpg吹き替え中のタイカ・ワイティティ。@hsus – YouTubeのキャプチャ画像より

悲惨な日々をどこかコミカルに、そして達観したように語るラルフだが、この難役をワイティティならではの“シルキーボイス”で演じている。脇を固める声優陣もザック・エフロン、リッキー・ジャ―ヴィス、オリヴィア・マンと豪華だ。

サッサー監督が語る『Save Ralph』のメイキング。パペット製作から撮影、吹き替え録音の様子まで、詳細に解説している。@hsus – YouTube

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動物実験がなくならない現実を変えるために

HSIによると、現在40カ国でコスメ関連商品の動物実験が禁止されているが、(動物実験が禁止されている国でも)化学物質に関する法律を利用し、新たな動物実験を要求する傾向が高まっているという。

この現状を変えるためのキャンペーン映像として製作された本作。しかし普段「動物福祉」と無縁に生きている人々の心にもしっかりメッセージが届いた。

アートが生み出す影響力の好例として今後も語られるだろう。

作品公開後に届いた嬉しいニュース。メキシコでコスメ関連商品への動物実験が禁止に。ラルフからの「ありがとう」のメッセージ。@ archmodelstudio – instagram

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「Save Ralph」本編映像はこちらから

何度も見るには痛すぎる作品。“でも”、ぜひ1度、見てほしい。@hsus – YouTube

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