映画『ちょっと思い出しただけ』のあらすじと見どころ。池松壮亮×伊藤沙莉が織りなす、忘れられない恋物語

  • 文:上村真徹
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©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

松居大悟監督のオリジナル脚本を池松壮亮と伊藤沙莉の主演で映画化した『ちょっと思い出しただけ』の見どころやあらすじを紹介する。

【あらすじ】毎年同じ日だけをさかのぼって振り返る、男と女の“終わりから始まり”の6年間

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タクシー運転手の葉は、こっそりタクシーを使って照生とドライブデートを楽しむ。©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』『くれなずめ』などの意欲的な作品を世に送り出す一方、自ら主宰する劇団ゴジゲンの公演で演出家も務める松居大悟監督。そんないま注目の監督がオリジナル脚本を書き上げて自ら映画化し、第34回東京国際映画祭で観客賞とスペシャルメンションのW受賞に輝いたラブストーリー『ちょっと思い出しただけ』が2月11日から劇場公開される。

2021年7月26日。この日、34回目の誕生日を迎えた佐伯照生(池松壮亮)は、いつもの日課で一日の幕を開ける。彼はダンサーを目指していたが怪我で夢をあきらめ、いまはステージ照明の仕事に就いてダンサーに照明を当てていた。一方同じ日、乗客を乗せて東京の夜の街を走っていたタクシー運転手の葉(伊藤沙莉)は、目的地に向かう途中に劇場前で車を停めた際、どこからか聴こえてくる足音に吸い込まれるように歩を進める。彼女がたどり着いた先には、ステージで踊る元恋人・照生の姿があった。

それから時は1年、また1年と照生の誕生日をさかのぼり、照生と葉の恋の始まりや出会いの瞬間、そしてすれ違いの末に迎える別れなど、二度と戻らない日々が思い返されていく。

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【キャスト&スタッフ】名作映画から着想を得た楽曲を、等身大のラブストーリーへと昇華

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永瀬正敏が“公園で妻を待ち続ける男”を演じ、時系列をさかのぼっていくストーリーの中で唯一時間を超越した存在となっている。©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

本作の監督と脚本を務めた松居大悟は、『アズミ・ハルコは行方不明』など独創的な作風で多くの映画ファンから支持されている注目のクリエイター。ロックバンド「クリープハイプ」のミュージックビデオを幾度も手掛けてきた松居監督は、ボーカルの尾崎世界観が自身のオールタイムベストに挙げるジム・ジャームッシュ監督の映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』に着想を得たという新曲「ナイトオンザプラネット」を聴いた瞬間、「長編映画にしたい」と感じたという。そして同曲を基に脚本を書き上げ、本作の主題歌にも用いている。

深く愛し合いながらそれぞれ別の道を歩んでいく一組の男女を演じるのは、『愛の渦』『紙の月』など作家性の強い作品から娯楽作品まで幅広く活躍している池松壮亮と、『ボクたちはみんな大人になれなかった』など映画やテレビの話題作への出演が続く伊藤沙莉。2人の共演は今回が初だが、照生と葉のテンポの良い掛け合いなど、息の合った演技を見せている。

2人の他にも、國村隼、神野三鈴、菅田俊といったベテラン俳優から、市川実和子、成田凌、河合優実、尾崎世界観などバラエティに富んだキャストが集結。また、ジム・ジャームッシュ監督作への出演経験がある永瀬正敏も登場し、この物語が誕生した原点を確かに印象づける。

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【見どころ】「一瞬が永遠になる」ことを証明する、美しくも切ないラブストーリー

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池松壮亮と伊藤沙莉は体の向きや何気ない目線まで繊細に演じ、実在する恋人同士のような空気感を醸し出している。©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

現在から過去へ時系列をさかのぼって物語を掘り下げていく“逆回転”スタイルは、『メメント』『エターナル・サンシャシン』などでも採用された珍しくない語り口だが、本作がユニークなのは、主人公の誕生日当日という1日だけを2021年から1年ずつさかのぼっているところにある。

いくつもの7月26日を通して振り返っていくエピソードは、『ちょっと思い出しただけ』というタイトルさながら何でもない出来事もあれば、2人の関係の分岐点となる重要な出来事もある。それらにドラマツルギーとしての連続性はないが、たった1日だけ定点観測しながら2人の原点までさかのぼることによって、“二度と戻らない愛しい日々”として純度を増しながら切なく迫ってくる。またそれらの出来事は、松居監督が「一瞬が永遠になることを肯定してくれるようなシーンになった」と自負する水族館のデートなど“この時間が永遠に続いてほしい”と思えるほどナチュラルに心地よく写し取られ、“戻りたいけど戻れない思い出”をいまでも大切に覚えている人たちの心をきゅっと締めつける。

映画ファンにとっては、クリープハイプの主題歌の原点でもある名作『ナイト・オン・ザ・プラネット』とのリンクも注目ポイント。葉がタクシー運転手という設定は『ナイト・オン・ザ・プラネット』でウィノナ・ライダーがタクシー運転手を演じていたことを彷彿とさせるし、ウィノナと乗客とのやり取りを照生と葉に別のシチュエーションで再現させていて、実に心憎い。

『ナイト・オン・ザ・プラネット』がもしも東京で撮られていたら──。1本の名作映画を原点に誕生した、美しくもほろ苦いラブストーリーにそっと自分を重ねたくなる。

『ちょっと思い出しただけ』

監督/松居大悟
出演/池松壮亮、伊藤沙莉ほか 2022年 日本映画
1時間55分 2月11日(金・祝)より全国ロードショー

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