戦場で観た光【ホテルプロデューサー龍崎翔子コラム】

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    photo:shimamura kisshomaru

    2021年は、私にとっては「戦場」で過ごした1年だった。

    新型コロナウイルス感染症が世間を一変させてからあっと言う間に季節は巡って、2年目。

    「来年こそはみんなが自由に旅行ができる世界になっていますように」

    昨年末に願ったそんな淡い期待は、年明け早々に発令された緊急事態宣言で早くも打ち砕かれることになった。

    コロナ禍以前私たちの会社は日本全国で5店舗のホテルを運営していた。

    2020年にはそのうちの1つを事業譲渡して、2021年には1つを閉館することにした。

    平気なわけはない。でも、会社として社員さんの雇用を守り事業を続けていくためにはやむを得ない決断だった。

    毎日が生きるか死ぬかの修羅場の連続で、綱渡りな日々の連続だった。ただ、私たちも防戦一方だったわけではない。

    昨年から今年にかけて大きく会社の事業構造を変革した。自社のホテル運営のみにこだわることは諦めて、ホテルの予約サービスを展開するIT事業、他社のホテルや地方自治体の観光にまつわる企画やPRなどをお手伝いするコンサルティング事業、未来の観光宿泊業界の人材を育てる教育事業などを次々に立ち上げ、今ではこうした新規事業が会社を支えてくれている。

    思えばコロナ禍、以前の観光業界の盛り上がりは異常だったのかもしれない。

    つくればつくるだけ儲かる。そんな空気に流されて行き過ぎた開発が横行していた気がする。

    休業を余儀なくされてぽっかり空いた時間の中で、改めて「観光とはなんだろう?」と考えていた。

    答え合わせは少し先になるだろうけど、やりたいことは見えてきた。

    10月には、こっそり新しいホテルを開業した。私たちのやりたいことを目一杯つめ込んだ宝石箱のような空間ができた。

    コロナ禍は私たちの日常から色々なものを奪ったけど、同時に色々なことに気づかされた気がする。

    もちろんまだコロナ禍が完全に終結したわけではないけど、戦いの終わりは近いのかもしれない。

    満身創痍になりながらも、なんとか生き残ることができそうな私たちは、これからは世の中の喧騒に惑わされずに自分たちの目指したい未来に向かって仕事をしていきたいと思った。

    もののけ姫のラストシーンでエボシ御前が呟いた言葉が脳裏をよぎる。

    「みんなはじめからやり直しだ。ここをいい村にしよう。」

    龍崎翔子

    ホテルプロデューサー

    L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表、ホテルプロデューサー。1996年生まれ。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立。HOTEL SHE, KYOTOをはじめとし、全国で4つのホテルを手がける。2020年9月には次世代観光人材育成のためのtourism academy "SOMEWHERE"を設立。

    龍崎翔子

    ホテルプロデューサー

    L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表、ホテルプロデューサー。1996年生まれ。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立。HOTEL SHE, KYOTOをはじめとし、全国で4つのホテルを手がける。2020年9月には次世代観光人材育成のためのtourism academy "SOMEWHERE"を設立。