幻想的な展示を開催中の新施設に見る、戦前日本外交の名残り

  • 写真&文:仁尾帯刀
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作品は投光器で図形を壁面に照射して制作される。

今年8月、サンパウロの中心街に近い高級住宅街イジエノポリスに新たな文化施設「インスティテュート・アルチウム」がオープンした。市の文化遺産に指定されたネオクラシカル様式のその屋敷は、昨年迎えた建設100周年に合わせて改装オープンされたものだ。

屋敷の建築的魅力を伝える目的を兼ねて、現在はスイス人アーティストのフェリチェ・ヴァリーニの個展が開催中。ヴェリーニの作品は、現実の空間に平面的な幾何学模様を描くもので、まるで一枚のレイヤーが空間に存在するかのようなイリュージョンが訪問者を魅了している。

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フェリチェ・ヴァリーニの作品が描かれた屋敷のファサード。

ちょうど100年前の1921年に屋敷はスウェーデン領事館としてオープンするが、同国領事館が移転するにあたり、この屋敷を1940年に購入したのが戦前の日本だった。

現在、文化施設の受付とされている書斎の壁にはもはや使用されていないマントルピースがあるが、その上には日本を象徴する木彫りの彫刻が壁に備え付けられている。彫刻の剣と玉を手にした人物のモチーフは、いまとなっては定かでないが、総領事公邸として日本国政府が入居するにあたり、初代の持ち主から寄贈されたものだと伝わっている。

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建設からの歴史を紹介したパネル。日本国総領事公邸についても紹介されている。

太平洋戦争開戦による国交断絶のために1942年に日本国政府は、領事機関を閉鎖し撤退するが、終戦後の52年から市内の別の地区に移転する80年まで再びこの館を総領事公邸としたのだった。オープンしたばかりの文化施設ながら、日本とブラジルの外交の一幕に思いを巡らすことのできる空間だ。

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日本神話の神か実在した武士か判別しないが日本をオマージュしたことは確かな彫刻。

Instituto Artium(インスティテュート・アルチウム)

https://institutoartium.com