注目のジョージアワインを楽しめる大井町の立ち飲み屋、「wine stand SAMI」を訪ねた

  • 文:森一起

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一輪の花のように、ワイン瓶を頭の上に掲げた華奢な女性。店前に立つ看板がチョンちゃんこと静恵(チョンへ)さんのリトルオーサカ、「wine stand SAMI(ワインスタンド・サミ)」を、そのまま表している。しなやかなのに力強く、軽やかなのに凛としている。誰もが、一度訪れると夢中になる、新時代の立ち呑みスタンドだ。

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大井三ツ又交差点に向かう路地に立つ、店の雰囲気をそのまんま感じさせる立て看板がwine stand SAMIの目印。

SAMIはジョージア語で3、SUNにも通じるその響きと字面に惹かれて店名を決めた。大井町の大井三ツ又交差点で去年の3月3日にオープン、何から何まで3ずくめだから、SUN、陽光の道を歩いて行こう。しかし、1ヶ月後に緊急事態宣言、テイクアウトや、ノンアル営業、振舞わされるのにようやく慣れてきたら時短。どうにか持ち前のテンションで乗り切った。

ノンアルでも来てくれる、お客さんたちの気持ちに励まされたからだ。やっぱり、立ち呑みをやってよかった、自分の気持ちは間違ってなかった。

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ホタテとオリーブのカルパッチョも人気が高いメニュー。こんな皿がさっと出てくる立ち呑み屋なんて、東京には滅多にない。

最初は落ち着いたワインバーをやりたかった、でも、ある時立ち呑みの可能性に驚いた。老若男女、あらゆる人たちが笑顔で身を寄せ合っている。社会の地位やポジションなんて、そこでは一切関係ない。「社会では偉い人でも、ここでは只のおっちゃんや」。近くから来てくれる人は、ちょっと食べたり、飲んだり、コンビニみたいに使ってくれる。


居酒屋未満、立ち呑み以上。でも、料理がおいしくて酒も豊富、しかも、ちょっとしゃれてる。そう言えば、そういう店って東京にはないなぁ…。

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その日によって中身が変わるので、毎日頼む人もいるポテサラ。この日の中身は、いぶりがっこと枝豆。
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ズラリと並んだジョージアのワインと、カリフォルニアのシャルドネ。このほかにも、チョンちゃんに相談すると色んなワインを選んでくれる。

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5時のサイレンが鳴り止まない内から、お客たちが集まり始める。チョンちゃんとスタッフのマコちゃんは料理の手を休めない。

神戸育ちのチョンちゃんは、東京での会社員生活を経て、大阪・裏なんばで絶大な人気を誇る立ち呑み屋「stand mee(スタンド・メエ)」の立ち上がりに加わり、名物スタッフとして、姉と慕うメエさんとのコンビで人気を博す。stand mee時代にはソムリエ資格も取得。再び上京し、今の場所で空いていたカラオケ居酒屋を見つけて、自分だけのパラダイスに向けて始動した。
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頼んでから衣をつけて揚げ始める新鮮なアジフライには、ラッキョで作ったタルタルが乗る大人気メニュー。

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ハムカツの中にもポテサラなど、色んなものを挟むのがチョンちゃんスタイル。この日は、マッシュポテト。

立ち呑みのカウンターに居合わせただけで、テーブルを共有しているような連帯感が生まれる。だから、楽しく食べられる揚げ物は必須、カウンターの下には小さなフライヤーも常備されている。何にでも合わせられて気軽、しかもおいしいワインが欲しいから、東京ではあまり見かけない「ムカド」というジョージアのワインも用意した。

オレンジではなくて、琥珀、醸したジョージアの白はアンバーと表現される。新鮮なアジフライや、ポテサラを挟んだハムカツが進む。

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四季折々の揚げ物をささっと作ってくれるのも嬉しい。この日は新鮮な小柱と三つ葉のかき揚げ。

買い出しが終わると、チョンちゃんの1日はメニュー書きから始まる。毎日、30種を越えるメニューを紙に書き、所々に朱墨でアクセントを付けていく。献立に打たれたオレンジが、白と黒だけの世界に鮮やかなリズムとアクセントを与える。チョンちゃんの朱墨は、優秀なトラックメイカーの指先みたいだ。17時のサイレンと同時に集まり始める客たちはみんな、今日のメニューを心待ちにしている。

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毎日変わる多彩なメニューに、チョンちゃんが無作為に朱墨を入れていくとSAMI開店はもうすぐ。

鳥の唐揚げに、豚汁、おしんこ盛り。客の注文に、「定食かい!?」とチョンちゃんがツッコミを入れる。その時にも彼女の手は動き続け、揚げたての唐揚げに黒酢餡を纏わせていく。ここで1杯、強炭酸のハイボールを挟もうか!?店内を見渡すと、ワインや焼酎のチェイサーにハイボールを頼んでいる人も多い。もはや、どちらがチェイサーか分からないが、とにかく楽しい。SAMIの夜が、少しずつ濃くなっていく。

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すっかり定番メニューのひとつの唐揚げも、その日の気分で味変が加わる。この日は、黒酢餡がかかったリッチなアレンジ。ハイボールが進む。

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気取らない性格と、凛とした立ち居振る舞い、おいしい料理。こんな店が流行らない訳がない。

西成の串カツ屋で、ハモという文字を見て驚いたことがある。食に対して貪欲で、サービス精神がいっぱいの街で育ったチョンちゃんは、その辺りも立派な関西スピリットだ。毎日、トモサンカクやイチボ、赤身などのステーキを笑っちゃうような価格で出す。

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その日によって、イチボやトモサンカク、赤身と部位が変わる人気のステーキはメニューの値段に誰もがびっくりする。

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すぐ近くの高級鮮魚店「魚春」で仕入れてくる季節のおつくりも絶品。立ち呑みで日本の四季に出会える嬉しさ。

旬のお造りは、有名レストランや料亭が通う近くの「魚春」で仕入れている。もちろん、ハモや白子も、普通は和食屋さんでしか食べられないものだって、気合いでメニューに登場する。それは、とにかく客の笑顔を見たいからだ。

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白子はぽん酢、フリット、ホイル焼きから選べる。和食屋品質を立ち呑みで出す関西のサービス精神に脱帽。

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友だちとやってくる人、ここで友達になった人。でも、結局みんな友だちになる、立ち呑み屋のマジックが毎日生まれる。

夜が深くなると、客たちは身体を斜めにして、1人でも多くの人を入れてあげようとする。先輩たちの食器を若いコたちが片付けている。現地、大阪ではカップルなら、男後ろ・女前で縦にカウンターに立つのだという。ひとしきり食べて、飲んで、そろそろみんなおなかに溜まるものが食べたい頃。そんなリクエストに応えて、グラタンやシチューなど、懐かしく温かな家庭のメニューもある。

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時々無性に食べたくなるグラタンだって、ちゃんとある。この日は米茄子のグラタン、ワインが進みすぎる。

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子どもの頃から作っているチヂミは、生野区辺りで食べているように錯覚してしまう本場の味。

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日本、韓国、中国、タイ、メキシカン、色んな国の料理に出会えるのも、SAMIの大きな魅力。

もちろん、韓国のチヂミも、中華おこげも、メキシカンも、タイもある。旅好きのチョンちゃんが、どこかに出かける度に少しずつメニューが増えていくからだ。
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みんなさんざん食べて飲んでるのに、チョンちゃんの声に釣られて誘惑に負けてしまう禁断の明太バターおにぎり。

そんな中「おにぎり食べる人!?」と、チョンちゃんから悪魔の囁きが発せられる。しかも、塩むすびなんて平和なものではない、明太バターおにぎりだ。糖質制限の女子も、最近おなかまわりが気になるダンディも、一気に罪悪感から解き離れていく。

「私ひとつ」、「俺も」、「こっちも」。こうして、大井町のリトルオーサカ、wine stand SAMIの夜が更けていく。SAMIのカウンターは、陽だまりのような優しさでできている。

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『wine stand SAMI(ワインスタンド・サミ)』

東京都品川区大井1-55-11 1F

TEL:080-1361-4641

森 一起

文筆家

コピーライティングから、ネーミング、作詞まで文章全般に関わる。バブルの大冊ブルータススタイルブック、流行通信などで執筆。並行して自身の音楽活動も行い、ワーナーパイオニアからデビュー。『料理通信』創刊時から続く長寿連載では東京の目利き、食サイトdressingでは食の賢人として連載執筆中。蒼井優の主演映画「ニライカナイからの手紙」主題歌「太陽(てぃだ)ぬ花」(曲/織田哲郎)を手がける。

森 一起

文筆家

コピーライティングから、ネーミング、作詞まで文章全般に関わる。バブルの大冊ブルータススタイルブック、流行通信などで執筆。並行して自身の音楽活動も行い、ワーナーパイオニアからデビュー。『料理通信』創刊時から続く長寿連載では東京の目利き、食サイトdressingでは食の賢人として連載執筆中。蒼井優の主演映画「ニライカナイからの手紙」主題歌「太陽(てぃだ)ぬ花」(曲/織田哲郎)を手がける。