自動車の”神話”がモデルチェンジして登場、ゴルフGTIもTDIも、走りのよさが感動的

  • 文:小川フミオ

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フォルクスワーゲン・ゴルフGTIといえば、自動車界に”神話”をつくったクルマ。カッコはフツウのゴルフみたいなのに、アウトバーンでだって、高性能車に追いすがり、追い抜く、その痛快な走りが世界中にファンを生んできた。

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1976年の発売いらいGTIのアイコンになったレッドラインが継承されている

2021年12月22日に、8世代めとなる新型が日本で発表された。発表よりちょっとフライングして試乗したところ、期待どおり、いい走り。特長としては、伝統ともいえる二面性がしっかりあるのだ。

ドライビングが好きなひとをしっかり楽しませてくれるし、日常的に乗るクルマだって、ちょっと刺激的なほうがいい、というひとにも向いている。いっぽう、ファミリーやカップル二組ですこし長距離旅行なんていうときも使いやすい。

1976年に初代が発売されてから、最新モデルで8代目。運転が楽しめる前輪駆動のハッチバックの基本コンセプトはずっと踏襲している。GTIが好きなひとなら、フロントグリルの赤いラインと、タータンチェック柄のシート地といった、GTIのデザインアイコンが健在なのにも気づくかも。

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サイドは人工スウェードでからだに触れる部分にクラークプレイドが用いられているのも伝統

カメラや家庭用オーディオの世界をみても、昨今は、かつて名機といわれたモデルのデザイン掘り起こしがトレンドになっている感がある。電子技術を控えめにして基本的機能の追求や、当時の憧れなど、要素がいろいろある。

ゴルフGTIも同様。核になる、運転の楽しさがしっかり守られている。けっしてレトロスペクティブでないが、むかしからクルマが持っていた魅力が身上だ。いちどはGTIに乗ってみたい、と思ってきたひとの期待に、最新型でしっかり応えてくれる。

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GTIの文字が誇らしげにボディ側面にも飾られている

私見をまじえてゴルフGTIを定義してしまうと、このモデルの美点は、ベースになったゴルフの長所を、うんと拡大しているところにある。VWならではのパッケージング(車体外寸に対して室内スペースのとりかた)をはじめ、操縦性のよさ、乗り心地、デザインなど、全方位的によく出来ているのだ。

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ドライブモードによって計器盤のカラーも変わる

あたらしいGTIは、デザイン上もなかなかスルドイ。上下幅が狭くなってシャープな印象のヘッドランプユニットや、ボディ各所にエッジをたてたキャラクターラインは、ベースのゴルフと基本的に共通。

GTI独自の装備として、大きなバンパー一体型エアダム、そこに配された左右各5つの多角形LEDランプ、サイドシルとリアバンパー下部の空力付加物、大径エグゾーストパイプ、といったものがあげられる。

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2本出しのエグゾーストパイプがGTIの特徴のひとつ

初代からデザインアイコン的に用いられている、フロントマスクのレッドラインはしっかり継承されている。GTIオーナーのなかには、この赤いラインを見せたくて、車体色をあえて白とか黒、つまり、赤いラインを際立たせる色を選ぶひともいるぐらい。その気持ち、わかる。私も同じことをしそうだから。

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エアダムに設けられたLEDのライトはGTIのみの装備

ゴルフGTIは、伝統的に前輪駆動。ゴルフには4輪駆動の「R」というモデルが設定されているが(今回は未発表)、前輪駆動方式にするぶん、機械部品が少なくてすむ車体の軽さなどが、GTIの身上だ。

私は、タイプRのワインディングロードだろうと高速だろうと疾走していく怒涛のパワー感も嫌いでない。それでも、今回、新型GTIに乗って、山道によくある小さなカーブだろうとすいっというかんじで曲がっていく軽快な気持ちよさは、とてもよいと思った。

フォルクスワーゲンでは、たとえサーキットでも速く走れるように、サスペンションシステムや、ステアリングシステムといった、根本的なところにしっかり手を入れたとする。

コーナリング時の車体コントロールをエンジン出力やブレーキを使って行うシステムは標準装備だし、オプションでサスペンションに電子制御ダンパーを組み込み、ステアリング、ブレーキ、アクセル操作などをパラメターにして、足まわりをコントロールするシステムを選ぶことが出来る。

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GTIでDCCというオプションを選ぶとこのようにドライブモードを任意で選ぶことができる

私もこのオプションを試したみた。特徴は、「コンフォート」から「スポーツ」まで、ほかにないぐらい多段階で選べること。スポーツを選ぶと足まわりがやや硬くなり、シャキッとする。車体のロールは抑えられて、ステアリングホイールを切ったときの動きに合わせて、車体が即座に反応して動くのが、おみごとともいえる設定だ。

こんなことを続けて書いていると、GTIはかなり特殊なモデルと思えてしまうかもしれない。そんなことはないんです、としっかり言っておきたい。冒頭に触れたとおり、かなり幅広いニーズに対応するのだ。

上記のオプション(「DCC」)で、コンフォートを選ぶと、一転して、乗り心地が変化。いわゆる”あたり”がやわらかくなり、路面に凹凸があればていねいに吸収し、乗員は前席にいても後席にいても、快適な気分で乗っていられる。長距離で旅行なんていうときも、楽チンな気分でいられるはず。

なにはともあれ、ステアリングホイールを介して、ドライバーである自分と、クルマとの一体感が得られるのが、GTIのよく出来た点。私はここを高く評価したい。

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赤色が挿し色として使われているのはGTIのインテリアの特徴

2022年6月に発表された1リッターと1.5リッターのゴルフe-TSIも、スムーズな動きで、出来のよさに感心させられた。エンジンやサスペンションシステムなど、性能を磨きあげていける土台として、基本的な設計がいいのだろう。

新型GTIは、従来のGTIより最高出力が11kW(15ps)あがって180kW(245ps)になった。最大トルクは20Nm増えて370Nm。これに7段のツインクラッチ変速機が組み合わされる。このエンジンはじつは、従来のGTI Performanceという、とくに高性能化をはかったスペシャルと同じスペックだ。

回転を上のほうまで使うと、どんどんパワーが増していく印象のエンジンだ。それを味わうため、私はこのクルマで箱根の道を走ったときは、ステアリングホイールの後ろについているパドル上のシフターを手で操作して、ギアが自動的に上がっていくのを抑え、エンジン回転を上のほうまで使って走った。とてもいいかんじだ。

ボディサイズは、全長で20ミリ延びて4295ミリ(以前としてコンパクトで扱いやすいサイズ)、全幅は1790ミリ、全高は1465ミリ。ホイールベースで15ミリ延び2620ミリとなった。車重は50キロ増加して1430キロになったものの、パワフルさと、敏捷なハンドリングは、たっぷり味わえる。

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GTIにはからだをしっかり支えてくれるスポーツシートがそなわる

インテリアにおいては、ゴルフe-TSIで先行採用された、デジタルコクピットとインフォテイメントシステムが、GTIにも搭載された。さきに触れたDCCを含めて、安全支援システムや、オーディオやナビゲーションの設定も10インチのタッチスクリーンで行える。

「ディスカバープロ」パッケージなるオプションを選らぶと、通信モジュールも含まれるので、外部のアプリなども使える。フォルクスワーゲンは日本でも、車載通信モジュールの機能強化に熱心なのだ。

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後席空間はスペースもじゅうぶん

標準装備される、ヘッドレストレイント(ヘッドレスト)一体型のハイバックタイプスポーツシートは、タータン・プレイド(格子柄)のファブリックが用いられている。初代GTIからずっとこだわってきた部分だ。

GTIの開発中にインテリア(アップホルスタリー)デザインを担当した女性デザイナーが、黒じゃちょっとスポーティすぎて、すこし”ひねり”を入れられないか、とスコットランドのタータン柄を思いついたのだそう。

GTIのそれはクラークプレイドと呼ばれ、15世紀にさかのぼる伝統的な柄のアレンジというから、なんだかおもしろい。ドイツ車は戦前からタータンプレイドをレーシングカーなどに好んで用いているし、GTIのあとにも、数おおくのメーカーが独自のタータン(的な)プレイドを使っている。

GTIのシートの特徴は、柄だけでない。からだのサポートが強化されたことに加えて、スウェード調の合成皮革を組み合わせているのと、全体がグレーであるところに、あざやかな赤を挿し色として用いているなど、なかなかセンスがよい。

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もう1台のゴルフが、同時に発表され、22年1月7日にGTIとともに発売となる。ディーゼルエンジン搭載の「ゴルフTDI」だ。従来のゴルフ7(7世代め)から1968cc4気筒ユニットを継承。150kWの最高出力は据え置きながら、燃料噴射装置の改良などで、最大トルクは20Nm増大して360Nmと力強い値になった。

同時に燃費も改善され、従来のリッターあたり20.0キロに。静粛性もよくなったとメーカーの言葉どおり、乗っていて、耳ざわりなかんじはいっさいない。こういうのを、上手に音を”丸めて”いる、といったりする。

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ファブリックとマイクロフリースの素材で張られたシートはぜいたくではないかもしれないけど座り心地がいい

私にとって印象的なのは、パワフルさ。そして乗り心地のよさだ。2021年6月には1リッターと1.5リッター、ふたつのガソリンエンジンモデルが発売されているが、力強い加速感では、今回のTDIが上をいっている。

ハンドリングでは、基本的なシャシーの出来がいいので、カーブを気持ちよく曲がっていける痛快感があるいっぽう、高速道路での巡航などは、よく動くサスペンションの恩恵で、路面の凹凸を感じることはすくないし、乗っていると、ビシッとしたといえばいいのか、剛性感が高い。それゆえ、上質さがたっぷり感じられて、ゴルフの”成長ぶり”を堪能できると私は思う。

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荷物もたっぷり搭載できる

価格は「ゴルフGTI」がモノグレードで466万円。「ゴルフTDI」は344万4000円にはじまり、装備豊富な上級グレードは403万8000円。さらにスポーティなサスペンション設定の「R-Line」が408万8000円だ。なかでも今回試乗した「TDI Active Advance」(398万9000円)がたいていの装備をそなえていて、いいかもしれない。

Volkswagen Golf GTI
●ディメンション(全長×全幅×全高):4295×1790×1465mm
●ドライブトレイン:1984cc4気筒ガソリン+7段ツインクラッチ
●最高出力:180kW(245ps)@5000〜6500rpm
●最大トルク:370Nm@1600〜4300rpm
●駆動方式:前輪駆動
●車両価格:466万円

Volkswagen Golf TDI
●ディメンション(全長×全幅×全高):4295×1790×1475mm
●ドライブトレイン:1968cc4気筒ディーゼル+7段ツインクラッチ
●最高出力:110kW(150ps)@3000〜4200rpm
●最大トルク:360Nm@1600〜2750rpm
●駆動方式:前輪駆動
●車両価格:344.4万円〜