映画『さがす』の見どころとあらすじ。“見てはいけないもの”に打ちのめされる衝撃サスペンス

  • 文:上村真徹

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©2022『さがす』製作委員会

洋画・邦画ともに注目作品の多い1月。『岬の兄妹』の鬼才・片山慎三監督が放つ、長編2作目にして商業デビュー作『さがす』の見どころやあらすじを紹介する。

【あらすじ】父はなぜ消えたのか…失踪した男と連続殺人鬼の不可解な関係とは

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父親の智がある日突然失踪し、楓は一人でその行方を追う。©2022『さがす』製作委員会

ポン・ジュノや山下敦弘ら名だたる監督を助監督として支え、自費製作した長編デビュー作『岬の兄妹』で映画ファンに衝撃を与えてから3年。今後の日本映画界を担う新たな才能として注目される片山慎三監督の、長編2作目にして商業映画デビュー作となったサスペンス・スリラー『さがす』が、1月21日から劇場公開される。

大阪の下町で平穏に暮らす智と中学生の娘・楓。ある日、智が「指名手配中の連続殺人犯を見たんや。捕まえたら300万もらえるで」と言い出すが、楓はいつもの冗談だと思って相手にしなかった。しかしその翌朝、智は忽然と姿を消してしまう。残された楓は父を捜し出そうとするが、警察はよくある失踪とみなして相手にしてくれない。それでも必死にチラシを配って自力で手掛かりを求めていったところ、日雇い現場の作業員に父の名前があることを知る。楓が「お父ちゃん!」を声を掛けると、振り向いたのは見知らぬ若い男。意気消沈する楓が、無造作に貼られた連続殺人犯の指名手配チラシを何気なく見たところ、そこには日雇い現場で会った若い男の顔があった。

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【キャスト&スタッフ】鬼才監督のラブコールに応え、佐藤二朗が“人間の矛盾”を熱演

本作のスタートは、プロデューサーの山野晃が『岬の兄妹』に衝撃を受け、片山監督の才能に惚れ込んだことから始まる。片山監督に次回作を一緒に作りたいと持ち掛けた山野は、大阪に住む父が指名手配犯を見かけたことがあるという片山監督の実体験をベースに、『さがす』のベースとなる構想を提案。そのアイデアを気に入った片山監督は脚本執筆に取り掛かり、オリジナルのストーリーをゼロから膨らませていった。

物語の中心となる失踪した父・智を演じるのは、映画・テレビドラマ・演劇・バラエティ番組と幅広く活躍する佐藤二朗。片山監督から手紙で熱烈なオファーを受けた佐藤は、自分を当て書きされたという脚本を読んで出演を快諾。いつもの温厚でユーモラスなパブリックイメージを封印し、人間臭い苦悩や矛盾を説得力たっぷりに表現。底知れない凄みとおかしみがせめぎ合う演技で圧倒する。

娘の楓役に抜擢されたのは、主演作『島々清しゃ』で毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞を受賞し、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』など話題作への出演が続く伊東蒼。オーディションで抜群の対応力と演技力を見せた次世代の女優が、人として強く正しくあろうとする姿と等身大の弱さを繊細に表現し、見る者を惹きつける。

そして指名手配中の連続殺人犯を演じるのは、『渇き。』『東京リベンジャーズ』など数多くの話題作で独特の存在感を放ち続ける“カメレオン俳優”の清水尋也。今回は不穏で底の見えない青年の空気感と温度感をリアルに醸し出し、いつまでも心の奥から消えない衝撃を刻み込む。

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【見どころ】“さがす”というテーマに解釈の余地を残し、見る者の想像を裏切る

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楓の父に成りすまして日雇い現場で働く山内。その正体とは……。©2022『さがす』製作委員会

原作ものの企画が多い日本映画界の現状において、本作は完全なオリジナル脚本。「ゼロから新しいものを観客に届けたい」という製作側の思いに応えるべく、片山監督は試行錯誤を重ねて12稿まで脚本を改稿。当初は娘だけだった物語の視点を、さらに「殺人犯の視点」「父親の視点」も加えた三部構成とすることで、物語の糸を複雑に絡み合わせながら事件の真実を明かし、見る者を裏切る予想外のストーリーに仕上がっている。

タイトルが平仮名の『さがす』となっているのも片山監督のこだわり。娘が父を“さがす”、登場人物それぞれが“さがす”もの、そして、映画の最後にあることを“さがし当てる”──。“さがす”という言葉にさまざまな言葉を当てはめながら想像を巡らせる余地を残し、哲学的かつ広義に解釈できるようになっている。

こうした“余白”を残すスタイルは、演出面でも特徴的。例えば、父親の智は物語の後半になるにつれて何を考えているのか分からなくなっていくが、片山監督は父親の描写も含めて「できるだけ表現しすぎないようにした」という。劇中で楓は「君は一体誰をさがしてんの?」と言われるが、過剰に説明しない演出と佐藤の抑えた演技と相まって、正解のない迷宮の深みへと落ちていくような気がしてならない。

見る者の価値観を覆し、予想を裏切ることにこだわったストーリー。多彩なキャストによる、繊細かつリアリティあふれる演技。そして片山慎三という唯一無二の作家性が発揮された、未体験の衝撃を体感したい。

『さがす』

監督/片山慎三
出演/佐藤二朗、伊東蒼ほか 2022年 日本映画
2時間3分 1月21日(金)テアトル新宿ほか全国の劇場にて公開

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