ミッションは“異彩を、放て。” Pen クリエイター・アワードを受賞したヘラルボニーのトークイベントを代官山蔦屋書店シェアラウンジで開催

  • 写真・文:中島良平
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松田崇弥(右)と文登という双子の兄弟で共同代表を務めるヘラルボニー。代官山蔦屋書店2階のシェアラウンジがオープンする前日の内覧会でトークショーを行い、終了後にアワードの盾を授与した。

重度の知的障がいを伴う自閉症の兄、翔太がいることから福祉ユニット「ヘラルボニー」をスタートした松田崇弥と文登。障がいのあるアーティストの作品のライセンスを管理し、ファッションアイテムや工事現場の仮囲い、クレジットカードなど多様な用途に作品イメージを展開する彼らの活動は注目されているが、会社を立ち上げた当初は困難の連続だったという。

「コラボレーションをしたいので、作品をプロダクトのラベルなどに採用していただけないかといろいろな企業に手紙を書いたのですが、どうしてもCSRの一環や慈善事業としてしか見てもらえず、事業として障がい者アートの作品で株式会社を立ち上げたことを理解してもらえませんでした。そうであるならば、もう自分たちで貯金を切り崩してネクタイなどのプロダクトをつくり、ブランドとして展開することでプレゼンテーションするしかないと考えました」(文登)

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現在、本社のある盛岡を拠点とする文登。「情報の海の中を生き残るのは大変ですが、盛岡を拠点に知名度が高まっているので、その活動を続けて熱量の高い既成事実をつくって東京に進出できたことは、強みだと感じています」。
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東京拠点から発信を続ける崇弥。「フィンランドにマリメッコというブランドはすぐに花柄のファブリックを連想させますが、日本発の知的障がいのある作家の素敵なファブリックを発信するブランドといえばヘラルボニーと認識してもらえるような、世界に発信するビジネスを確立することが現時点での目標です」。

ポップアップなどを各地で出店し、ブランドとしてプロダクトを展開すると、具体化することで視覚的に伝わるはずだ。そう考えて動き始め、やがて逆にコラボレーションの売り込みを受けるまでになった。しかし、彼らがそこで調子に乗ることはない。

「いまいろいろなことができているのは、うちがすごかったというよりも、時代の流れにうまく乗せていただいたからだと理解しています。ダイバーシティ、SDGs、インクルージョン社会といった言葉が当たり前の世の中になったら、その構造のなかで生き残れるかは別問題なので、それは自覚して進んでいかないといけません」(崇弥)

彼らは現在、150名のアーティストと契約している。明確に決めている基準は、大前提として純粋に魅力的な作品を手がけている作家であること。なかでも重度の知的障害のあるアーティストの起用に注力している。障がい者雇用も広がり、軽度の精神障がいや身体障がいのある人へのチャンスは増えているが、重度な知的障がい者の社会参加の難易度は極端なまでに困難なままだ。そうした人々の才能を資本主義経済に乗せ、社会との接続をつくることを目指す彼らの活動をこれからも注視し続けたい。

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トークイベントは、pen編集部デジタルチーム ディレクターの井上貴彦の進行で実施された。

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会場となった代官山蔦屋書店シェアラウンジには、本誌CREATOR AWARDSの特設コーナーが設置された。