重度の知的障がいを伴う自閉症の兄、翔太がいることから福祉ユニット「ヘラルボニー」をスタートした松田崇弥と文登。障がいのあるアーティストの作品のライセンスを管理し、ファッションアイテムや工事現場の仮囲い、クレジットカードなど多様な用途に作品イメージを展開する彼らの活動は注目されているが、会社を立ち上げた当初は困難の連続だったという。
「コラボレーションをしたいので、作品をプロダクトのラベルなどに採用していただけないかといろいろな企業に手紙を書いたのですが、どうしてもCSRの一環や慈善事業としてしか見てもらえず、事業として障がい者アートの作品で株式会社を立ち上げたことを理解してもらえませんでした。そうであるならば、もう自分たちで貯金を切り崩してネクタイなどのプロダクトをつくり、ブランドとして展開することでプレゼンテーションするしかないと考えました」(文登)


ポップアップなどを各地で出店し、ブランドとしてプロダクトを展開すると、具体化することで視覚的に伝わるはずだ。そう考えて動き始め、やがて逆にコラボレーションの売り込みを受けるまでになった。しかし、彼らがそこで調子に乗ることはない。
「いまいろいろなことができているのは、うちがすごかったというよりも、時代の流れにうまく乗せていただいたからだと理解しています。ダイバーシティ、SDGs、インクルージョン社会といった言葉が当たり前の世の中になったら、その構造のなかで生き残れるかは別問題なので、それは自覚して進んでいかないといけません」(崇弥)
彼らは現在、150名のアーティストと契約している。明確に決めている基準は、大前提として純粋に魅力的な作品を手がけている作家であること。なかでも重度の知的障害のあるアーティストの起用に注力している。障がい者雇用も広がり、軽度の精神障がいや身体障がいのある人へのチャンスは増えているが、重度な知的障がい者の社会参加の難易度は極端なまでに困難なままだ。そうした人々の才能を資本主義経済に乗せ、社会との接続をつくることを目指す彼らの活動をこれからも注視し続けたい。

