サポーズデザインオフィスが手がけた、糸井重里率いる「ほぼ日」の新オフィス【ウワサの建築】

  • 文:佐藤季代

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ほぼ日神田ビル。2021年1月竣工。東京都千代田区神田錦町3-18。ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する、ほぼ日のオフィス。サポーズデザインオフィスが設計を手がけ、7階建てのビル一棟をリノベーションした。photo: Kenta Hasegawa

東京・神田にコピーライターの糸井重里率いる「ほぼ日」のオフィスが竣工した。ビル一棟をリノベーションし、カフェのように寛げるフリーアドレスを導入したオープンスペースや、社員一人ひとりの使い勝手に合わせてデスクにも変更できるロッカールームを設けるなど、フロアをまたいで働けるオフィス環境が話題となっている。

多様な働き方を促す、可変性のあるフレキシブルな空間を手がけたのは、谷尻誠と吉田愛が率いるサポーズデザインオフィスだ。2000年、谷尻が26歳の時に地元・広島に事務所を構えて以降、広島と東京の二カ所を拠点にしながら多様な活動を続けている。いま最も勢いのある建築設計事務所のひとつであり、個人の邸宅から公共建築まで多くの案件を同時に進めながら、これまでになかったスタイルの働く場の提案や、体験を重視した新感覚のホテルなど、常識にとらわれない発想でさまざまな“場”をデザインし生み出してきた。

プロジェクトを自らつくり出し、アイデアを具現化していくことに価値をおく彼らは、東京オフィス内で運営する飲食店「社食堂」をはじめ、工務店や不動産会社、空間デザイン検索サービスといった建築にまつわる10社以上の法人を立ち上げるなど、“起業家”としても前例のない取り組みを積極的に続けている。軽やかなフットワークで新しいイノベーションを巻き起こしながら、建築の魅力を多くの人たちに伝えていくための多様な活動に、今後も注目したい。

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「いつでも夜逃げできるオフィス」をコンセプトにフリースペースやデスクを兼ねたロッカールームを設け、どこでも仕事ができる柔軟性あるオフィスを提案。photo: Kenta Hasegawa

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イベント開催やグッズ販売を行う1階のギャラリー「TOBICHI」は一般利用可。photo: Kenta Hasegawa

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サポーズデザインオフィスが携わってきた代表的な建築

【体験型ホテル】

渋谷の中心地に立つ“泊まれるアパレルショップ”や、古い倉庫をコンバージョンしたサイクリストのためのホテル、かつての大浴場を読書スペースにしたブックホテルなど、宿泊を通して+αの経験が得られるコンセプチュアルなホテルを多く手がける。

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ホテル コエ トーキョー。2018年竣工。●東京都渋谷区宇田川町3-7 photo: Kenta Hasegawa

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ONOMICHI U2。2014年竣工。●広島県尾道市西御所町5-11 photo: Toshiyuki Yano

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松本本箱。2020年竣工。●長野県松本市浅間温泉3-13-1 photo: Kenta Hasegawa

【新しい働き方】

自社の東京オフィス内には、スタッフと一般客とがともに利用できる自主運営の「社食堂」を開業。また、9000㎡の巨大なスペースをシームレスにつなげ多様な居場所を設けた「KADOKAWA 所沢キャンパス」など、働くためだけでないオフィス環境を提案。

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社食堂。2017年竣工。●東京都渋谷区大山町18-23 B1F photo: Tetsuya Ito

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KADOKAWA所沢キャンパス。2020年竣工。●埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3 ところざわサクラタウン5F photo: Tomooki Kengaku

【日本らしさの再構築】

ホテルや飲食店など、和の空間を再解釈した建築も数多い。建具や障子、畳などの和のエッセンスと、コンクリートや鉄といった現代的な素材や構造・構法を融合させ、古さの中に新しさが共存する温故知新の“日本らしさ”を巧みに表現しているのが特徴。

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猿田彦珈琲 ザ・ブリッジ 原宿店。2020年竣工。●東京都渋谷区神宮前1-18-20 原宿駅2F photo: Kenta Hasegawa

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太歳神社公衆トイレ。●広島県三次市三次町1112-2 photo: Kenta Hasegawa

SUPPOSE DESIGN OFFICE

2000年に谷尻誠がSUPPOSE DESIGN OFFICEを設立、14年より吉田愛と共同主宰となる。広島と東京を拠点に設計活動を行う他、社食堂、絶景不動産などの代表も務める。21年、設立20周年を記念した書籍『美しいノイズ』(主婦の友社)を刊行。

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※この記事はPen 2022年1月号「CREATOR AWARDS 2021」特集より再編集した記事です。